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佐藤まりあがNICE73の波乱万丈な韓国練習生時代の濃厚トークを聞いた

4人組ガールズユニット・フィロソフィーのダンス。メンバーが偏愛するものについて語る連載「フィロソフィーのダンス 偏愛記」。今月から、メンバーの尊敬する偏愛ジャンルのエキスパートにお話を伺いにいきます! K-POPを愛するフィロソフィーのダンスの佐藤まりあがディープなトークをしたいお相手は、日本人K-POPシンガーとして活動していた過去を持つNICE73(ナイスななさん)。波乱万丈過ぎるななさんのお話に、取材班一同思わず手に汗握り聞き入ってしまいました。

取材&文/吉田可奈 撮影/飯田エリカ

●ラジオで共演した後、ぜひもう一度お会いしたいと思っていました!(まりあ)

――おふたりはラジオ(interfm897「casaricoto radio」)で共演したことでお知り合いになったんですよね。

佐藤まりあ(以下佐藤) そうなんです! NICE73さんがパーソナリティーをされている番組で共演させていただいたときに、韓国で歌手デビューをされてたと知って、「聞きたいことがありすぎる!」と大興奮してしまって。そのときはあまり長くお話が出来なかったので、お会いしたあとにプロフィールなどを詳しく見させていただいたら、まさに元祖グローバルアーティストとして、誰よりも早く韓国で活躍されていたというのを知り、すごく驚いたんですよ。

NICE73 そんな風に言っていただいて光栄です。私が韓国でデビューしたのが2005年のことなんですけど、わかりやすい例えだと翌年にBIGBANGがデビューしているんです。

佐藤 え! ということは、BIGBANGの先輩になるんですね。

NICE73 そう言うとすごくカッコいいですが(笑)。当時は大きな事務所に所属しているアイドルしかデビューできないような時代だったので、私はソロシンガーとしてデビューしたんです。事務所の人から「お前は背が低いし、整形するのにお金がかかるからアイドルはダメ」ってハッキリ言われて(笑)。当時は歴史的、情勢的な問題もあって、純日本人がデビューするのはすごく難しかったですし。

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――いまの時代で考えるとかなりの問題発言ですね…。

NICE73 ねー、でも15年くらい前はそれが当たり前の時代だったんですよ。私自身も、歌は大好きだったけど、ダンスは踊れる自信がなかったので、自分からも「それでいきましょう」となったんです。

佐藤 それにしても、日本人であるななさんが、どうやって韓国でデビューすることになったんですか?

NICE73 すごくざっくり言うと、10代の頃に韓国の楽曲に衝撃を受けて、韓国の事務所の住所を調べて、オーディションを受けに行ったんです。

佐藤 すごい行動力! 韓国語は話せていたんですか?

NICE73 高校生のときに3カ月間の語学留学はしていたんですが、あまり身についてはいなかったですね。言葉はわからないけど、とにかく片っ端からオーディションへ行って「とりあえず歌います!」と宣言して歌っていたんです。ダンスはできないから、気を引くために面白いことをしたりして、いろんな事務所のオーディションを回っていました。その中のひとつの事務所の人が、「いまの語学力で、韓国で芸能活動をするのはとにかく危ない。ちゃんと韓国語を勉強して、僕が何を言っているのか完璧にわかるようになってからもう一度来て」と言ってくれたんです。すごく悔しい思いもありましたが、当時は10代の外国人が危ない事件に巻き込まれることも多かったので、“それもそうだな”と考え直して一度帰国したんです。

――そこでちゃんと注意してくれたということは、すごくいい事務所だったんですね。

NICE73 そう思います。それから1年間は、なるべく韓国人の友だちだけと話すようにして、毎日韓国語に触れるようにしたんです。日常会話が問題なくなった頃、昔からお世話になっていたプロデューサーから声をかけられて、あらためて韓国へ行ってオーディションを受けました。

佐藤 そのお話を聞いて、私ってすごく甘ったれているなと思いました…。その行動力もすごいし、帰国後の1年間の過ごし方が人生を左右したってことですよね?

NICE73 運が良かったんだと思います。オーディションに受かって事務所に所属してからは、韓国で練習生生活を2年程していました。ただ、当時の韓国の小さな事務所のシステムって、投資家を集めて、その人たちに投資してもらったお金で自転車操業するのが“普通”だったんです。当たり前のことですが、投資家って、より美しく、可能性のある子に投資をするじゃないですか。ビジュアル的にもぱっとしない、さらに身長が低い、日本人の私はアイドルとしては致命的だったので、いつも「お前の身長があと15cmあればなあ」って言われていました(笑)。それもあって、なかなかデビューも決まらなかったんです。

佐藤 実力で判断して欲しい…!

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●ジャケット写真がイラストに差し替えられてしまったこともあります(NICE73)

NICE73 私も何度も思いました(笑)。文句を言われるたびに、“それなら採用するな”って思いましたもん! でも、2005年にデジタルシングルをやっと出せることになったんです。すごくうれしかったんですが、ジャケット写真を撮影したにもかかわらず、“ビジュアルが足りないから”という身も蓋もない理由で、写真をトレースしたイラストになったりしたんですよ。

佐藤 私だったら心が折れちゃう…(泣)。

NICE73 でも、そういう状況下に置かれていくと、どんどん仕方ないかって思うようになってくるんです。人間の環境適応能力ってすごいですよね(笑)。そんなときに、韓国で活躍する外国人が出演する『美女達のおしゃべり(通称ミスダ)』というバラエティ番組のオーディションを受けるチャンスが回ってきたんです。でも、当時の自分は頑張って韓国語を習得してしまったがゆえに、ネイティブ並に話せるようになっていて、「その発音じゃ韓国人みたいでおもしろくない」って言われてしまったんです。

佐藤 正解がわからないです~!

NICE73 そうなの(笑)。でも、やっぱり外国人がカタコトで話すとかわいく聞こえるとかってあるじゃないですか。ただ、私はバラード歌手だったので、韓国語の発音にはとにかく気を付けていたんです。とくに日本の訛りは独特だから、バラードに乗せると違和感に聴こえてしまうので。それが嫌でアナウンサーさんのように正確な韓国語の発音を練習をしていたので、かえって「日本人ぽいところがない!」と言われて落とされてしまったんです(笑)。

佐藤 ちなみに、お給料はちゃんともらえていたんですか?

NICE73 韓国は契約金をもらうことが当たり前なんですが、私はちゃんともらえていなかったんです。住む家は用意してもらったのですが、それ以外には何もいただいてなかったので、母親が送ってくれる荷物に入っていた仕送りを崩しながら生活をしていたんです。お金が本当にないときは、下の家に住んでいたおばさんから卵やイチゴをもらったりして食いつないでいました。あとは、目上のお姉さんに連絡して「ごはん食べにいきませんか?」と声をかけたり…。

佐藤 ほぼサバイバルですね。

NICE73 サバイバルでした(笑)。

――日本人のカバー曲をリリースされていましたが、その方向性も事務所の指定だったんですか?

NICE73 そうですね。韓国にいるときにかなりたくさんの曲をレコーディングしたんです。これは私がいけないところだったんですが、とにかく器用貧乏で、なんとなくどれもできるから、事務所の人も何が一番いいのか悩んでいたんですよね。最終的には、事務所の人たちが大好きな日本の歌にしようということで、一青窈さんの『もらい泣き』を歌うことになったんです。あのこぶしのニュアンスを発音するのを韓国人は苦手なので、これこそお前が歌うべきだって言われたんですよ。

佐藤 そんな経緯があったんですね。

NICE73 その後もたくさんレコーディングをしたので、“あの曲たちはどうなったのかな”って思っていたときに、夢に当時の社長が出て来て、「お前の曲、Apple musicにあるからって言われたんです」。起きて、「そんなわけない」と思ったんですが、検索したら2008年にリリースされていたんですよ!

佐藤 え! そんなことあるんですか!? ななさんは知らなかったんですよね?

NICE73 まったく(笑)。2008年はもう帰国していますし! しかも、しっかりミックスされているわけでもなく、ただの仮歌の寄せ集めのような感じが自分の名前でリリースされていることが恥ずかしすぎて…。

佐藤 むちゃくちゃですね…。

NICE73 そう、想定外のことばかりでむちゃくちゃなんですよ(笑)。

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●K-POPのローカライズによってサビに「ポンキ」が必要なくなった気がします(NICE73)

佐藤 ちなみに、ななさんの考える、K-POPの転換点ってどこだったと思います?

NICE73 音楽だけで考えると、起点っていっぱいあったと思います。私がデビューする2005年より前はバラードが全盛だったので、そんななか2006年にデビューしたBIG BANGの存在はすごかったんです。ゴリゴリのヒップホップでデビューしたこと自体が衝撃的で、時代が変わるのを肌で感じていました。その後、2NE1などが出て来て、さらにBTSの登場でガラッと変化した気がします。BTSが世界のマーケットで成功を収めるまではどんなにカッコいい楽曲を制作していても、アジア以外ではなかなか成功しづらかったんですよね。

佐藤 どうしてなんですかね?

NICE73 あくまで私の経験ですけど、作曲をするときに、“ここまでは洋楽っぽくてもいいけど、サビはポンキ(日本語でいうとアジア歌謡曲感という意味)がなくちゃダメなんだよ”と言われていたんです。BIG BANGもそうだったんですよね。それが、KPOPが海外に出て受けるようになってきてから、必要なくなり始めたんですよ。実際に聴いてみると、そのポンキが1個もないんです。それ自体が衝撃的ですし、これからどんどん変わっていくだろうというワクワク感を感じたんです。パフォーマンスのクオリティにも目を見張るものがありました。

佐藤 なるほど。

NICE73 さらに、2014年にデビューしたRedVelvetがすごく衝撃的でした。その先輩に当たるf(x)もかなりの衝撃でしたが、よりPOPに昇華させたな、と思いました。当時スウェーデンの作家さんをSMエンターテインメントが抱えているという話は聞いたので、なるほどとは思っていたのですが、とにかくカッコいい楽曲で。ちなみに、私はデビュー当時に、もう1人の練習生と同居していたんです。その子は本当に美人で、スポンサーさんにも可愛がられていて、そのSMエンターテインメントの作家さんの曲でデビューしているんですよ。その後、彼女は少しだけ売れたんですが、最終的に裁判沙汰になり活動しなくなってしまいました…。

佐藤 すごい裏側を聞いてしまいました…(笑)。

NICE73 私はお腹がすいてもきゅうりやトマトしか食べられない時期が続いたんですが、同居していた彼女は、ブランド物の大きなショッピングバックを抱えて、お肉の匂いをぷんぷんさせて帰ってくることも多くて。もうその瞬間に、「私じゃかなわないな」って思ったんです。

佐藤 それを、10代、20代頭で経験するとしたら、本当に泣いちゃうかも…。いまの私たちはちゃんとご飯も食べられているし、メンバー間の格差もないのでやっていけていますが、そんな世界もあったんですね。

――最近のメディアでは、大きくて綺麗な宿舎や、会社が用意したバランスのいい食事を提供されている練習生たちの生活を見ることも多いですが、一握りなんですね。きっと。

NICE73 そうしてくれるのは、大きな事務所だけですね。でも、その大きな事務所に入れる時点で選ばれし才能があるということなんです。それは本人たちの努力の賜物であるので、そうあるべきだと思うんですよ。

●メンバー内に格差がないグループで活動できている自分は恵まれてるんだなと思いました(まりあ)

佐藤 ダイエットに関しても強く言われましたか?

NICE73 毎日「痩せろ」って言われていました。まず、「水を2ℓ飲め!」と言われるんです。事務所から家まで、急勾配の坂があるんですが、それを2回アップダウンしないと家にたどり着かなかったんです。歩いて25分くらいなんですが、そこを2.5ℓのペットボトルを手に、毎日持ち帰っていました。そして翌日、空いたペットボトルにまた事務所で水を入れて持って帰ってくるんです。

佐藤 そんな、スーパーに水を買いに行く人みたいなことを…。

NICE73 あはは。でも、マネージャーさんはすごくかわいがってくださって、自分のお金を使ってでも私にごはんを食べさせてくれました。大変でしたけど、助けてくれる人がたくさんいたので、何年も向こうにいられたのかなと思っています。

佐藤 当時のななさんにごはんをおごってあげたい…!

NICE73 ありがとう~! デビューした時期、政治的な理由で外国人芸能人が、韓国で活動するビザが取りにくくなってしまい活動ができず、それでも韓国には住んでいたのですが、家庭の事情で帰国することになりました。

――そうだったんですね。現在は、経験を活かしたお仕事をたくさんされていますよね。

NICE73 はい。何事も無駄にはならなかったので良かったですね。

佐藤 それにしても衝撃的なお話がたくさんあってビックリしました! 私も気合いを入れ直して頑張ります!

NICE73●ナイスななさん。中学2年から学び始めた韓国語を生かし、2002年日韓共催W杯の自主応援歌の歌手活動を始め、2005年には韓国でソロ歌手としてデビュー。帰国後、作詞活動をスタートさせ、現在は作詞、日本語詞、RAP詞、作曲、ボーカルディレクションを行う。また、「三々五々に、問う」のバンドボーカルや、韓国語を自由に操り、イベント等のMCとしても活躍する。http://73note.com/    https://www.youtube.com/channel/UCfn1h4jzRUZE3V7tmsyPnAQ

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