K-POPと韓国インディーシーンの間で自分好みのプレイリストを作る方法
ここ数年、韓国のインディー・シーン(K-indie)にいいバンドがたくさんいるという話は知っていた。日本やアメリカのインディー・ポップ、シティ・ポップ、R&Bにも強い影響を受けているし、歌重視でグッドメロディだし、音楽が好きだという気持ちがストレートに伝わってきて、いい気分になる。だけど、韓国ではCDやレコードなどのフィジカル・リリースがほとんどなくなっているし、配信主体といっても選択肢が多すぎる。自分好みの音源をもっと知る手がかりを探したいんだけどな。なんとなくそう思っていたら、びっくりするくらい近い場所(自分の手元)にいいアイデアがあったという話です。
文/松永良平
それを思いついたのは、阿佐ヶ谷にあるバーRojiで、長谷川陽平さん(ex. チャン・ギハと顔たち)と昼飲みしながら話した、とある水曜日だった。長谷川さんはチャン・ギハと顔たちが解散した今もプロデューサー/ミュージシャンとして日本と韓国を行き来し、クラブDJとして日本と韓国のシティ・ポップを中心にプレイしている。
数ヶ月ぶりに日本に戻ってきた長谷川さんからソウルの現状を聞いた。
ソウルでも相変わらずライブやDJパーティーを取り巻く状況は厳しいが、日本のシティ・ポップ人気は相変わらず高く、竹内まりや〈プラスティック・ラブ〉(1984年)を収録した『ヴァラエティ』、山下達郎の『FOR YOU』(1982年)といったアルバムのアナログ盤の相場はますます上昇しているのだそう。寺尾聰の大ヒット・アルバム『リフレクションズ』(1981年)みたいな中古で安く買える大ヒット盤もみんなに聴いてほしいし、DOUBLEの「Make Me Happy」(1999年)、Monday満ちる「You Make Me」(1998年)みたいな2000年前後の日本の和製R&Bも韓国ではすごく受けるんですよとか、そういう話がおもしろい。
途中から、シンガー・ソングライターの見汐麻衣さん(最近彼女はBTSと韓国語の勉強にハマっている)が合流し、そこからSay Sue Me、パラソル、イナルチ、ペギー・グーが話題に。さらに映画監督の山下敦弘さん(2005年にペ・ドゥナが主演した映画『リンダリンダリンダ』の監督でもある)、日本で働いている韓国人の女の子ジヘも加わり、彼女がチャン・ギハと顔たちの解散前のライブを見ていたという話で盛り上がった。
その日の会話と、話題に登場した一連の音楽がおもしろかったので、出てきた順にSpotifyプレイリストにしてみた。自分でプレイリストを作ったり、他人の選曲を聴いている人ならご存じだろうが、ひと通り聴き終えるとSpotifyのAI的な機能により自動的のレコメンド曲が続いてゆく。それで思ったのは、日本のシティ・ポップと韓国のユニークな曲が混ざっているプレイリストなんだから、そこから曲を拾っていけばすごく興味深いものになるのでは? レコメンされる曲の大半は日本のアーティストだったが、更新ボタンを押し続けていくと徐々に韓国の曲が出てきた。知らないアーティストも結構いる。
まず引っかかったのが、Light & Saltというグループの〈샴푸의 요정〉。彼らは韓国産シティ・ポップの先駆的な存在で、1990年にリリースされたデビュー・アルバムの曲らしい。90年代初頭のデジタルなテイストだが、メロディがきれいで心地よいし、謎めいたアートワークにも惹かれる。さらに調べるとこの曲、〈Fairy of shampoo〉という英語タイトルで、 2019年に結成された男性K-POPグループ、TOMORROW X TOGETHERが2020年にカヴァー・ヴァージョンをリリースしていた。去年じゃん!
というわけで、プレイリストの1曲目は、Light & Saltの〈Fairy of shampoo〉に決定。
Light & Salt / 샴푸의 요정 (Fairy of shampoo)
さらにそこから我慢強くレコメンドを掘り続け、見つけた曲をせっせと新規プレイリストに放り込む。何曲か溜まった時点で、その新規プレイリストからのレコメンドを探せば、韓国の曲中心になるはずと思い当たった。狙い通り、そこからは次々と未知の楽曲がどんどん目の前に現れる展開に。
そんな一連の流れで飛び抜けて気になった曲が、2020年にデビューしたばかりだという女性シンガー、임금비(Keumbee)の〈908〉。切りかけのバターがトレイに乗っているだけというアートワークはお世辞にもファッショナブルとは言えないのに、切れ味のいいダンスビートとクレバーさを感じさせる曲作りに、すぐに気持ちをさらわれてしまった。MVを見てみたら、想像以上にコロナ禍を反映したタイムリーさだし、宅録だし、インディーだった。
임금비(Keumbee)/ 908
MV
そうやって探してはプレイリスト追加というルーティンを繰り返しているうちに曲が溜まってきたら、流れのいい曲順に組み直していく。今、そのプレイリストは第3弾までできた。
第2弾のトップバッターに選んだのは、女性シンガー・ソングライター、Minsuのこの曲。
Minsu / Minsu is confused
シンガーソングライターの登竜門とされる「ユジェハ音楽コンテスト」にて銅賞を受賞してデビューしたという彼女。自分の名前を曲名に入れ込むセンスの持ち主はおもしろい子に決まってるし。ライブ映像がいいんですよと友人に教えてもらい、さらに好きになった。
Minsu is confused (live)
まだまだぼくの“K”な探索は始まったばかりで、知らない曲は途方もないほどあるはず。セソニョン、ヒョゴ、スルタン・オブ・ザ・ディスコなどすでに知っているアーティストもレコメンドでは浮上してくるが、彼らの曲もこの流れであらためて聴くと新鮮だ。「これすごいんだから聴くべき!」といきなり言われると「そうか?」と身構えてしまいがちだけど、このやり方なら変な抵抗感は生まれない。ライターなのに機械任せだねと言われるかもしれないが、好みかどうかをチョイスしているのは自分だ。
とりあえず、プレイリストは毎週水曜日公開でしばらく続けてみるつもり。タイトルは、とある水曜日のRojiでの会話が発端だったことに敬意を表したものにした。
ぼくが手探りしているように、誰にだって自分のプレイリストが作れるし、好きなように掘れるし、好きな曲に惚れると思う。
水曜 Roji外伝(1)
水曜 Roji外伝(2)
水曜 Roji外伝(3)
元になった水曜日の会話からのプレイリストはこちら。
水曜日の昼、Rojiにて
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