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『2gether』第7話レビュー:もう引き返せない2gether沼。「全部お前の責任だぞ」と言いたいのは私たちです

世界中を涙と胸キュンの沼に落とし込んだタイ発のドラマ「2gether」。最終話までの全話レビュー連載です! 書き手は、ご自身もタイドラマ沼に落ちた、ライターの横川良明氏。プロの書き手として冷静と情熱の間を彷徨いながら、横川氏が「2gether」と共に毎週金曜を駆け抜けます!

文/横川良明

よこがわ・よしあき●演劇とテレビドラマを得意とするライター。初のインタビュー本『役者たちの現在地』(KADOKAWA)が発売中! 電子書籍『俳優の原点』(ライブドアニュース編集部)も発売中。

<前回までのレビューはこちらから>

時々夢から覚めたあとなのに、まだ夢の中にいるような。夢の中での出来事だったはずなのに、体に火照りが残っているような。そんな夢を見ることがあります。

『2gether』第7話は、甘くてせつない夢うつつの物語。終わった瞬間、全身を包み込むのは、眩暈に似た陶酔感。瞼を閉じるだけで、浮かんでくるラストシーン。

この濃厚な余韻をなるべくそのままお届けできるようレビューしていきます。このレビューでは物語の内容にガンガンふれていきますので、ネタバレを避けたい方はすみやかに避難してください。


「Ctrl S」したかったのは、あのときのTineの笑顔だった

<第7話 あらすじ>
軽音部でSarawat(Vachirawit Chiva-aree/通称Bright)をリーダーに新たなバンドを立ち上げることとなる。プロモーションのため、Sarawatと、バンド仲間のEarn(Rachanun Mahawan/通称Film)を主人公に、MVを制作することが決定。親しげに話をしているふたりを見て、Tine(Metawin OPAS-iamkajorn/通称Win)は複雑な感情に駆られる。

そんな中、Green(Korawit Boonsri/通称Gun)とDim先輩(Sivakorn Lertchoochot/通称Guy)が恋人同士であることを判明。Sarawatに対する気持ちに区切りをつけるために、TineはSarawatにもう彼氏のふりはしなくていいと言い渡す。

『2gether』を一言で紹介するなら、偽の恋から始まるロマンティックラブコメディ。「偽の彼氏になって」。強引なGreenをあきらめさせるためについた嘘。それが、本当になっていくまでをポップにキュートに描いていきます。

けれど、実はその嘘にもっと大きな嘘が隠されていたとしたら……? 『2gether』がこれほど多くの人の心を掴んだのは、二重底の下に隠された“もうひとつの嘘”があまりにも一途で、切実だったから。

嘘をついていたのは、Sarawatの方でした。実はあのとき、「偽の彼氏になって」と出会う前から、SarawatはTineのことを知っていたのです。出会いは、1年前のScrubbのライブ。こんなに音楽を楽しんでいる人を見たことがない。目の前ではしゃぐTineを見て、Sarawatはそう感じました。

「好きなことは義務じゃなく、心で楽しみたい」

以前、なぜ音楽専攻にしなかったのかTineに聞かれたSarawatは、そう答えていました。決してオープンな性格ではないSarawatにとって、音楽は自分の心を解放できるもの。きっと音楽にふれているときは、普段よりずっと素直でいられたんじゃないかな、という気がします。

だからこそ、目の前で自分よりもずっと素直に音楽を楽しんでいるTineの姿が眩しかった。好きなことをまったく隠そうとしない。そんなTineの飾らなさが、光だった。

自分の気持ちを素直に伝えることも、人とフランクに付き合うことも、決して得意ではないSarawat。不器用な彼がつけたバンド名は、保存のショートカットキーである「Ctrl S」。Scrubbのポスターの前で無邪気にポーズをとるTineを「Ctrl S」したくて、こっそり写真を撮った。バンド名に託した「俺たちの思い出も心に保存したくて」という想いは、あの日あのときに出会ったTineへの気持ちそのもののように見えました。

だけど、そんなこと伝えられるはずがなかった。だって、Tineは女の子が好きだから。偽の彼氏になってほしいと頼んだあとに、Tineが言った「俺は女の子が好きなんだ」というひと言。何でもないようなあの言葉に、一瞬、Sarawatが息を止めてしまったのも、この恋が報われることなんてないと突きつけられてしまったから。

この人が自分を見てくれることはない。どれだけ親しくなっても、そのときが来たら、いなくなってしまう。自分じゃない、別の女性のことを好きになる。Sarawatにとって「彼氏のふり」は、醒めないことを願う泡沫の夢であり、心を斬りつける残酷な現実。そんな夢うつつの間を、Sarawatはずっと行き来していたのかもしれません。

ずっと秘めていた嘘を打ち明け、本当の想いをTine にぶつけたSarawat。いつもはミステリアスな影を宿したその瞳が、このときだけはガラス玉のように透き通っていて、苦しい胸の内を吐き出しているのに、光を吸収してキラキラしている。それはやっぱり恋をしている人の瞳です。


夢に出てきたら、それはもう恋は始まっているのです


そして、Sarawatの赤裸々な想いに火をつけられたように、会えなかったこの数日間の心情を語りはじめるTine。

「夢にまで出てきて、俺をからかう」

ここで「からかう」という言葉が出るのが、TineとSarawat らしさ。いたずらを仕掛けられたり、挑発されたり、いつもSarawatに振り回されっぱなしだったTine。逆に、この7話では「もっと近くに」とSarawatを誘いながら、耳元でげっぷをするというTineの仕返しも。

そうやって距離を縮めてきたふたりの空気感がこの台詞に集約されていて、Sarawatにからかわれて怒ったり呆れたりする時間もまたTineにとっては特別なものになっていたことが伝わってきました。

会えない時間ができたことで、お互いの存在がどれだけ大きなものになっているか痛感したTineとSarawat。そして、そんなふたりを涙目になって見守っている私たちにとってもまた、TineとSarawatはもう切り離すことのできない自分の一部になっているのでした。

「全部お前の責任だぞ」

そうSarawatに告げるTine。その瞬間、多くの人が思ったはずです、それはこっちの台詞だと。もう引き返せない2gether沼。「全部お前の責任だ!!!!」と言いたいのは私たちです(最高)


恋愛前線が急接近! あなたはどのカップルがいちばん好き?


そんな胸がぎゅっとなるようなクライマックスで締めくくられたこの第7話。サブカップルの動きも活発です。

まずはGreenとDim先輩が恋人同士であることが発覚。実は3話でGreenが軽音部に入部してきたとき、意味深にGreenを見つめるDim先輩のカットがさらっと入れられていた〜。

張った伏線はきちんと回収することでおなじみ『2gether』。おふたりには末永く仲良く暮らしてほしいものです。

あとTineちゃん、さすがにテーブルライトで殴ると、一気に番組が『名探偵コナン』になるので、未遂で終わってよかったです。

Man(Chinnarat Siriphongchawalit/通称Mike)は、一目惚れした青年(Jirakit Kuariyakul/通称Toptap)を追いかけ、同じセミナーに参加。ところが、セミナー中は携帯電話は没収。参加者同士、会話をすることも禁止というハードモード。大丈夫? それ、『電波少年』の企画かなんかじゃない? いきなり拉致されてヒッチハイクさせられたり、懸賞生活させられたりしない?

就寝時間になって、ようやく青年の隣の寝床を確保したMan。ちらりと横目で見ると、青年は1枚の写真を手に涙を流していました。自分にはうかがい知れない心の傷が、この人にある。その痛みに寄り添うように、そっとManはティッシュを差し出します。こういう優しさが、Manのいいところ。結婚するなら絶対Manみたいな人がいいと思います。

一方、Mil(Sattabut Laedeke/通称Drake)とPhukong(Thanatsaran Samthonglai/通称Frank)は完全に平行線状態。チューターになるという約束を反故にし、Phukongをほったらかしでサッカー三昧のMil。そんなMilにプンスカしながらも、ちょっと水を渡されたぐらいでほだされてしまうPhukong。

はい、この果敢に強気アタックするも、完全に年上先輩に手玉にとられちゃってる構図、とっても好みです。このまま延々のらりくらりとかわされながら満更でもない感じを楽しんでいただきたいところですが、いよいよMilも本格的にTineにロックオンした模様。

大きな危機を乗り越えて、ようやくカップルがいい感じになりかけたところで、ふたりの間にライバルが割って入るのも少女漫画のド定番。りぼんマスコットコミックスなら大体5巻くらいから始まるアレです。

お互いを恋愛対象として意識しつつも、このままめでたくハッピーエンドにはならなさそうなTineとSarawat。前半戦を折り返し、いよいよ次回から新章のスタートです!

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