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【後編】新しく便利になるまちと、ここにあった何かの記憶。ー家劇場主宰・緒方彩乃さんインタビュー
Photo:金子愛帆
「家劇場」とは北千住旭町にある築90年の風呂無し平家に住みながら劇場として場をひらくプロジェクトだ。デザイナーとして会社に勤めながら、自身が踊るダンス公演などのイベントを企画、空いている日はスペースのレンタルも行う家主・緒方彩乃さんに、綴方書窓のふたりがインタビューを行った。
前編では、彼女のこれまでの活動や、家劇場を始めた理由、また3月末でなくなってしまう家劇場の企画「お貸し出し祭り」について伺っている。
後編となる今回はこの家劇場を終えたあとの展望、そして千住のまちへの思いを語っていただいた。
新しくなることの便利さを認めながら、無くなりゆくものの記憶をどのように残していくか考える。緒方さんの今後の活動に期待が高まった。
千住のまちに暮らして
◆この家劇場が終わったあとの、千住との関わりはどのように考えていますか。
「家劇場」は考案当初、この家ではなくともできる手法だと提唱していました。そのため移り住んだら、またその場所で同じようにやっていこうと思っており、地域へのこだわりはありませんでした。
でも、いざ家劇場が終わるとなったとき、千住地域のたくさんの良さを振り返りました。芸大のキャンパスがあり、まちなかアート的な取り組みも盛んな環境からか、地域の方々があたたかく見守ってくれる雰囲気があったこと。活動的で素敵な方とたくさん出会ったこと。いつの間にか大事な関係性がたくさんできていることに気がつきました。
今は、いい場所があったらぜひもう一度千住で家劇場をやりたいと思っています。でも、何かひらめくことができる空間が見つかるまで焦らずに待とうかなと。今の家劇場への愛着もあるので、すぐに新しい場所へ行くのではなく、まずはこの場所での記憶をアーカイブしていきたいと思っています。
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ハッシュタグをクリックするとこれまでのアーカイブを観ることができる。
マクドナルドは便利、それでもここにあった何かを残すこと。
◆最後に、今はなくなってしまった千住の場所にまつわる記憶を教えてください。
家劇場からすぐの学園通り旭町商店街の飲食店を頻繁に利用しています。駅と住宅街をつないでいて、ほどほどに活気のあるちょうど良い商店街です。でも、その商店街のなかでも移り変わりが結構あって。
4年前に引っ越してきた時、焼きそば専門店だったお店はその後2回お店が変わっています。はじめの焼きそば屋さんは味はソースに醤油、塩味もあり、麺は太麺と細麺、具はお肉やシーフードなど色々と選べて。私は醤油味の太麺が好きでよく買っていました。でも、しばらくすると無くなってしまって。
今度は生姜焼き専門店になりました。ここはがっつり系の専門店ばかりができるなぁと思いましたが、そのお店も行きつけになりました。私はお酒を飲まないこともあり、しっかりしたご飯を求めているので重宝していました。生姜焼きの乗った丼ぶりに納豆とおくらを乗せるのが好きでしたね。
しかし、そこもまた変わり、今は中華系居酒屋です。この商店街は良い中華屋さんがたくさんあるので頑張ってほしいですね。今度行ってみようと思っています。見守りたいです。
◆西口にはあまり行かないですか。
基本的に家にこもっての活動がメインなのと、生活するにしても徒歩圏内がとても充実しているのでほぼ東口と駅中心部で用事が済んでしまいますね。近いのになかなか行かない距離感ってあるなぁと思います。
多くのチェーン店が駅を軸にして左右対象にあることに最近気がついて。大きなまちの特徴なのでしょうか。今、この商店街にとても大きいマクドナルドがあるんですけど、あそこは以前は上がアパートで、下はいい感じの飲み屋さんとか定食屋さんとかが並んでる場所だったんです。昔ながらの雰囲気で好きでした。
◆そこで何を食べたか憶えていますか。
定食屋さんで何回かごはんを食べたことがあります。その時はからあげ定食を食べました。たしか、衣に七味か何かが混ざっていて、もう予めまとわれているような感じだったと思います。ちょっと辛くて美味しかったです。
その上のアパートには知り合いが住んでいて、もう取り壊されることを聞いていました。しばらくして本当に大規模な改装がはじまって。悲しみつつ、大きい土地に何が出来るんだろうと、ちょっと楽しみに日々眺めていたのですが、開店したら、大部分がマクドナルドでした。
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改装前にあった餃子太郎は、新装しても同じ場所で復活した。
定食屋「かあちゃん」は同名で綾瀬店が現在も営業中。
(同じからあげがあるかどうかは未調査。)
◆それはちょっと寂しい気もしますね。
昔のいいお店がなくなって寂しい気持ちはもちろんあるんですけど、暮らしていると、このマックめっちゃ便利なんですよ。家劇場を貸しているときは家に帰れないので、ここで時間を潰すことも多いです。充電も出来るし、Wi-Fiもあるし。だから、東口のマックは銭湯などと同様にもう家の延長って感じで。つっかけでいける場所ですね。でも、ときどき昔のことを思い出すこともあります。
◆家劇場にある小屋も以前はお店だったと聞きました。
私が住む前は駄菓子屋をやっている方が住んでいました。ただ実際にお店を開いていたのはもう3〜40年以上前のことだそうで。たしかに母屋は綺麗なのに駄菓子屋さんだった小屋だけは何年も開けてないような廃墟状態でした。隣は歯医者さんだったらしいです。面白い並びですよね。お隣さんとうちは二軒長屋なので、テレビの音も聞こえるくらい音が届きます。イベントの前にはいつも挨拶に行っていましたが、いつも明るく「別にいいわよ」と言ってくれました。
◆ 家劇場もまた変わっていくことになりますね。
この二軒長屋は敷地として見ればきっと小さなマンションも建てられるくらいの大きさがあるんです。なので、ふつうに考えたら風呂がないような古い家じゃなくて快適にたくさんの人が住める場所になった方が絶対良いんですよね。駅近ですし商店街が便利ですし。だから私が建て替えに反対することは出来ないです。
ただ、ここにこんな場所があったこと、その記憶は忘れたくない。だからアーカイブには力を入れていますし、家がなくなったあともいろいろなかたちで記憶を残していきたいと思っています。それは文字や写真の記録としてだけでなく、絵やパフォーマンスなどでこの家や、家劇場を題材として扱い続けていくようなこともありなんじゃないかと思っています。
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家劇場 家主。2019年より千住旭町の築90年の風呂無し平家を借りて、家事をする感覚でいろいろ催しながらすごしています。幼少期よりクラシックバレエに勤しみ、大学にて建築やアートプロジェクトを学び、現在デザイン業に従事。今までのすべてを生きていくなかでずっと活かすために、改修したり、描いたり、踊ったりし続けています。
Photo:Seico
2022年12月15日
北千住・家劇場
取材=綴方書窓
文・構成=森崎 花
地図と記憶をコラージュする in千住
インタビューに登場した千住にまつわるエピソードは、「記憶の地図」として1月に家劇場で行うイベントで展示されます。
この冬、綴方書窓は千住にある築90年の平家を改装した家劇場というイベントスペースで、展示とシルクスクリーンのワークショップを開催します。
そこに展示するのは、千住にまつわる記憶を集めた「記憶の地図」。
かつて千住にあった、でもいまはなくなってしまった場所を「記憶の地図」として展示することで、日々、移り変わる千住の街並みに思いを馳せてみる。そんな一風変わった催しです。
さらに会場では、その地図の区画をデザインとしてシルクスクリーンでトートバッグに刷る体験もできます。
◆展示
「地図と記憶をコラージュするin千住」
日程:2023年1月4日(水)・11日(水)
時間:13:00〜20:00
会場:家劇場(東京都 足立区 千住旭町 34-10)
入場無料
◆ワークショップ
タイムテーブル
13:00
15:00
17:00
19:00
定員:各回6名
料金:1,000円(トートバッグ付き)
![](https://assets.st-note.com/img/1672931165661-w4dmsjuSCx.jpg?width=1200)
会場となる家劇場は、東京・北千住駅から徒歩およそ5分の場所にあります。
2023年1月4日(水)と11日(水)の2日間。13時から20時までやっています。
入場無料(ワークショップは各回1,000円)ですので、ぜひ遊びにいらしてください。