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好きなことは読書、音楽。好きな作家さんは辻村深月さん。 主にショートショートの小説を投…

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好きなことは読書、音楽。好きな作家さんは辻村深月さん。 主にショートショートの小説を投稿します。時には連作も。良かったら読んでください。作品に対してコメントやすきなどを頂けると幸いです。 最近は長編執筆に伴い投稿が滞っていましたが、また再会しようと思います。

最近の記事

ショートショート:子どもの兵隊

 「フリイ、危ない!」  お兄ちゃんの声が、荒野に響き渡ります。それから少し遅れて鉄砲の音が響き、僕の後ろの岩陰から赤い血がはじけ飛びました。  「お兄ちゃん、ありがとう」  振り返った僕が安心した表情を見せると、お兄ちゃんは微笑みました。それからお兄ちゃんは周囲を見渡すと、鉄砲を下ろしました。  「敵はもういないね」  僕は頷き、暑い夏の荒野に目を向けました。荒野には沢山の人が倒れていました。  「さあ、今日も終わったし、施設に帰ろう」  僕達は今、とある施設に住んでい

    • ショートショート:臓器くじ

       チャイムが鳴ったのは、穏やかな日曜日の午後のことでした。その時、僕はお父さんとお母さんと一緒に映画を見ていました。お母さんがレンタルビデオショップで選んできた映画で、家族愛をテーマにした映画なのよ、とお母さんは言っていました。お母さんの言っていることはあまりよく分からなかったけれど、映画を見ながらお母さんとお父さんは泣いていました。なので、きっといい映画なんだと思います。  チャイムが鳴ると、お母さんは少しむっとした表情を見せて「いいところなのに」と言いました。そして、玄

      • ショートショート:ほら吹きの詩

          「恥の多い生涯を送ってきました」  廃墟ビルの屋上で、僕はそう呟いた。 それから少し俯きながら、ゆっくり足を前に進めた。前方には錆び付いたフェンスが見えた。僕はフェンスに両肘を置き、そっと下を覗き込んだ。廃墟ビルの真下にはアスファルトが敷き詰められていた。これなら、死ねそうだと思った。  僕は小さく息を吐き、アスファルトに身体を打ち付け、潰れたトマトのようになる自分の姿を想像した。少しだけ、吐き気がした。  一度深呼吸をして、僕は決意を固めた。そしてゆっくりと、フェ

        • ショートショート:シャボンの姉

              千草が飛んだ。  屋根まで飛んだ。  屋根まで飛んで、壊れて消えた。    十一年前の夏、私と姉の千草に生まれて初めての夏休みが訪れた。私達は双子だった。  夏休みのほとんどを、私たちはある場所で過ごしていた。それは私達以外は誰も知らない二人だけの秘密基地だった。  秘密基地は家から少し離れた雑木林の中にあった。そびえ立つ木々の間を抜け、夏の青々とした雑草をかき分ける。それから小川を一つ越えると、まるで雑木林の中に出来た十円禿みたいな空間に辿り着く。そこには木はおろ

        ショートショート:子どもの兵隊

          エピローグ 夏の夜の終わりに

           その後の日々はとても単純なものだった。  退院すると、僕はスムーズに学校へ行くことが出来た。それは周りだけでなく、僕自身も驚くほどスムーズに学校へ行った。それからは一度も休むこともなく、周りと同じように高校を卒業した。もちろん、虐めが無くなったわけではなかった。最初のうちは前と同じように学校へ行くと殴られたし、嫌味を言われた。でも僕は何も感じなかった。君の感じた痛みや苦しみに比べると大したことではないように思えた。僕が無反応を貫き通していると、虐めは次第に無くなった。きっと

          エピローグ 夏の夜の終わりに

          夏の夜の終わりに ㉑

           それからしばらくして僕は補導された。どうやら急に飛び出した僕を心配してお母さんが警察に連絡したらしい。  僕は大体一時間ほど、警察から家を飛び出した経過について取り調べを受けた。取り調べ室は刑事ドラマと同様にこじんまりとした部屋だった。その中央にテーブルが置かれ、それを挟む形で僕は警察と対面した。  そこで僕は市川彩と知り合いだったこと。彼女の死を受け入れられなかったことを手短に話した。警察は僕の境遇に同情してくれた。そして淡々と、彼女の自殺について話してくれた。  どうや

          夏の夜の終わりに ㉑

          夏の夜の終わりに ⑳

           リビングに降りるとお母さんが夕食を作っていた。ボウルに蒸したジャガイモを入れて、マヨネーズと混ぜている。ポテトサラダを作っているようだ。「今起きて来たのね」「うん」と簡単な会話を交わし、僕はリビングのソファに腰を掛けた。テレビの上にある掛け時計は十八時を示していた。  「暑くて寝苦しかったでしょ」「うん」また簡単な会話をする。夏休み前の一件以降、お母さんは学校に行くことを強要しなくなった。その代わり、お母さんはよく朗らかな表情をするようになった。優しく頬を上げ、優しく声を掛

          夏の夜の終わりに ⑳

          夏の夜の終わりに ⑲

           彼女と再会したのは、夏休み最後の夜だった。 その日もいつも通り夕方に目覚め、適当に食事をした。そして日が暮れるまで天井のシミを眺め、ゆっくりと時間の経過に身を任せた。室内が暗くなると適当な洋服に着替え、夜道に繰り出した。特別に僕と彼女の因果律を崩す何かをしたわけではないと思う。何故なら僕はまるで精密機械のように寸分のずれもなく、変わらぬ日々を過ごしていたのだから。ここで僕と彼女が再会したのは奇跡でも何でもなくて、元々決まっていた因果に沿う結果だった。その因果に沿う為にも、僕

          夏の夜の終わりに ⑲

          夏の夜の終わりに ⑱

           目が覚める。僕は枕元に置いてあるスマホを手に取る。時刻は十八時だった。窓の外から差し込む光は赤オレンジに染まっている。カラスの鳴き声がする。とても悲壮感の溢れる声だった。  リビングに降りると、ダイニングテーブルの上に食事が用意されていることに気付いた。  『陽一、朝ごはんを置いておきます』  それはいつも通りの書置きだった。僕はそれを見て少しだけ笑ってしまう。お母さんは一晩僕がいなかったことに気付いていないのだ。結局、僕の存在などその程度なのかもしれない。  僕はサランラ

          夏の夜の終わりに ⑱

          夏の夜の終わりに ⑰

           翌朝、僕は十時過ぎに目を覚ました。四時ごろまでは記憶があるので大体六時間は寝たのかもしれない。僕は彼女よりも先に目を覚まして、ベッドの上で背伸びをした後彼女の肩を数回揺すった。優しい吐息を吐きながら眠っていた彼女は、一度怪訝そうに眉を下げた後、ゆっくりと目を開いた。  「おはよう。もう十時だよ」  「おはよう。もうそんな時間なのね」  寝ぼけ眼の彼女をベッドの上に残して、僕はコーヒーを淹れた。彼女同様に僕もポットのお湯が沸きあがるまで、その場に立ち尽くして待っていた。何とな

          夏の夜の終わりに ⑰

          夏の夜の終わりに ⑯

           彼女が泣き止むと僕らは自然にベッドへ向かった。特に何をするわけでもなく、二人で天井を見つめていた。彼女が言うように、確かに天井には小さなシミがあった。余程集中して見ないと分からない程度のシミだ。彼女はシミを見ることで無意識に苦痛から逃れようとしていたと思うと、胸を締め付けるような痛みが走った。  「もう四時だね」彼女が言う。「君はもう眠い?」と続けて彼女は訊いた。  「少しだけね」と僕は答える。  「朝まで起きていたいって言ったら、君は付き合ってくれる?」  「もちろん。案

          夏の夜の終わりに ⑯

          夏の夜の終わりに ⑮

           「少しコーヒーを淹れていい?」  僕が頷くと彼女は立ち上がり、ポットのお湯を沸かした。お湯が沸くまで彼女はじっとポットを見つめていた。その間、僕らに会話は無かった。お湯が沸きあがると当たり前のように戸棚からコーヒースティックを取り出し、二つのカップにお湯を注いだ。  「どうぞ」彼女が淹れたコーヒーを「ありがとう」と受け取った。彼女はまた僕の隣に腰を掛け、一口コーヒーを含んだ。  「全て、話した方がいいかしら?」  僕は首を横に振る。「あまり話したくないならいいよ」  彼女は

          夏の夜の終わりに ⑮

          夏の夜の終わりに ⑭

           受付は非常に簡単だった。タッチパネルに表示された部屋の中で、希望の部屋をタップする。ただそれだけのことだ。受付スタッフはその場にいなかった。個人的な営みに対する配慮なのだろう。しかし、何の説明もないので、最初は戸惑ってしまってもおかしくはない。実際に僕は何をどう操作していいのか分からなかった。けれど彼女は自動ドアを通るや否やタッチパネルに向かい、簡単に操作をして部屋を決めた。その姿から彼女の私生活が少し透けて見えそうで、僕は心の奥底にある目を瞑った。結局のところ、僕らは互い

          夏の夜の終わりに ⑭

          夏の夜の終わりに ⑬

           僕らは息を殺しながら煌びやかな街の夜を歩いた。駅前の通りはどこの店も煌々と電気が輝いている。その光の中では多くの人は手を叩き笑い、何度もグラスをぶつけ合っていた。その酷く下劣な笑い声と、アルコールのつんとした匂いが僕を襲う。僕は時折息を止めながら、必死に前だけを見て足を進めた。  深夜ではあったが、駅に近づくにつれて人通りも増えていた。そして僕らもその人だかりの一部と化していた。人の流れに沿って、普段は右に曲がる十字路を左に曲がった。僕にとって、多くの人の囲まれるのはとても

          夏の夜の終わりに ⑬

          夏の夜の終わりに ⑫

           それから、僕らは地べたに腰を下ろし、肩を合わせて月を見ていた。今日は綺麗な三日月だった。三日月に照らされた薄い雲はぼんやりと輝き、幻想的な雰囲気を醸し出している。  「三日月の欠けた部分に腰を掛けて、世界を見てみたい」  僕の肩に頭を乗せた彼女は吐息を吐くように言った。彼女の薄い息がふわりと僕の頬にかかった。  「そうすればきっと世界の全てが見えそうだね」  僕が言うと、彼女はゆっくりと首を振った。そして「きっと何も見えないわ」と言った。  「どうして?」  「だって、高い

          夏の夜の終わりに ⑫

          夏の夜の終わりに ⑪

            空き地に着いた時には、額から大粒の汗を流していた。上着の裾を持ち上げ、汗を拭きとる。どうしようもない寝巻で飛び出してきてしまったことにこの時気付いた。  「どうしたの、そんな必死に走ってきて」  フェンスに背中を預けた彼女は不思議そうに目を丸めて尋ねる。その瞳はまるで満月の様だった。  「ちょっと、色々あってね。家を飛び出してきたんだ」  「それは家出ってこと?」  「ある意味そうかもしれないね」  「だからそんな恰好なんだね」  「うん、とてもいい格好でしょう」  「今

          夏の夜の終わりに ⑪