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高校生が書いた小説『ツバキの花は落ちたまま』③

第三話 世の中に 絶えて桜のなかりせば 
    春の心も のどけからまし

 選挙の結果が分かったその日、朝のホームルームが終わると、つい数日前にあったテスト返しが始まっ た。正直選挙のことで頭がいっぱいだったから忘れていた。なんだか一気に現実へ引き戻された気分。

 テストといえば何が一番気になるだろう。自分のテストの結果だろうか。普通はそうだと思うけど、私は自分の結果よりも瑞稀の結果が気になっていた。だって、あの天才の瑞稀が、テスト期間の半分以上の 時間を柚葉の指導に使っていた瑞稀が一体どんな結果を出すのか、気になるのはおかしいことではないと 思う。

 この学校では、一日の授業を全て使って十教科のテストが順番に返却される。だから一教科あたり三十 分ほどで、心を休める暇がない。

 テストが返却されるたびに瑞稀に点数を聞きにいったら、国語に数学、英語や理科社会すべて満遍なく 九十五点を超えていた。数学に関しては数Ⅰと数A どちらも百点だ。私はどの教科も瑞稀の十点か十五点 下くらいで、柚葉は瑞稀の指導の甲斐あってか平均点くらいは取れていた。

 次の日、自分の学年順位などが書いてある個票が配られたので、さっそくそれを持ち瑞稀の元へ向か う。

「瑞稀、学年順位どうだった?」

 私は前置きなどなしに本題に入る。

「いきなり聞くね…… 一位だったよ!椿はどうだった?結構点数高かったよね」

 納得と言えば納得な結果が伝えられる。これで二位とかだったら一位の顔が見てみたくなる。

「私は三位だったよ〜とはいえ瑞稀との差は百三十点もあるから遠く及ばないけどね」

「瑞稀さんが天才なのはよく分かってますけど…… 椿さんもそんなに頭良かったんですね…… !」

 どうやら私の言葉を聞いていたようで、柚葉がそれに反応する。たしかに順位は三位となっているが、 点数で見れば分かる通り瑞稀との差は歴然だ。まして瑞稀は自分の勉強時間を犠牲に柚葉への指導に使っていたのだから、なおさら差が開いて見える。

「別に順位が全てではないからね〜ユズも頑張ったじゃん!苦手だった数学も良い点取れたみたいだ し!」

 柚葉を励ますように瑞稀が柚葉を褒める。こういうとき、順位の高い人が低い人によく頑張ったと言うとバカにしているように聞こえることがあるけれど、瑞稀の言葉にはそんなネガティブな感情が感じられ ず、本気で頑張った柚葉を労っているようだった。

「ありがとうございます…… !瑞稀さんのおかげです!」

 柚葉はそう言ってそっぽを向いてしまった。からかうように柚葉のことを見つめていると、一瞬目があって、それが柚葉の耳をさらに赤く染めあげた。照れてる。かわいい。


 瑞稀は美術部に所属している。本人から聞いたわけではないけどかなり上手いらしい。まだ六月なのに 将来の部長候補とも言われているとか。今日は美術部の活動日らしく、暇だから遊びに行って良いかと瑞稀に聞いたら快くOK してもらえた。美術部はゆるいようだ。

 美術部の活動場所の美術室へ行くと、そこには数人の部員がいて、黙々と絵を描いている人や、友達と話しながら絵を描いている人、スマホをいじっている人など様々だ。

 瑞稀はさっそく絵を描き始めた。美術室は少し話し声はするものの静かだったため、声を出すのも憚られ、ただ絵を描いている瑞稀を見つけていると、

「そんなに黙って見つめられると恥ずかしいっていうか…… なんか話そうよ!そのほうがボクもリラッ クスできるし」

 と言われてしまったので、雑談をすることにした。

「瑞稀はどんな絵を描くのが好きなの?」

 よくある質問をぶつけてみる。

「ボクは自然の風景を描くのが好きかな〜。自然の中の、ある瞬間の光とか、色とか、そういうものを鮮 やかに書くような人たちを印象派って言うんだけど、それに近いと思う」

 なるほど、印象派。名前だけ聞いたことあるような…… ?うろ覚えだけど睡蓮の花の絵が有名な画家 がその印象派だって聞いたことある気がする。

「いいね、自然の風景の絵って癒されそう!どの季節の絵が好きなの?」

 ここ日本は四季がはっきりしているとよく言われる。その通りで、春は桜に秋は紅葉と自然は一年を通 してその色を変えてゆく。となると話題に上がるのはどの季節が好きか、だと思う。

「そうだな〜秋の紅葉もいいけど、ボクが一番好きなのは六月とか七月の初夏に青く染まる木々の葉が綺麗だと思うかな!」

 てっきり王道の紅葉と返ってくると思っていた。しかし青葉か…… 確かにあの色は綺麗かもしれない。

 瑞稀の今まで描いた絵を少し見せてもらった。専ら自然の風景が多く、中でも青葉が主として描かれて いる絵が多い。

「すごいね!どれもすっごい綺麗で見てるだけで癒される!さすが瑞稀だね」

「ありがとう」

 瑞稀がどこか悲しそうな、諦めているような感情を乗せてそう言ったように聞こえたのは、気のせいだ ろうか。

第四話 夢
 ある日、夢をみた。

 その夢の中には、ある少女がいた。

 その少女は、逃げていた。何か大事なものから。

 その少女は、探していた。何か大事なものを。

 その少女は、幸せだった。何か大事なものが欠けていたのに。

 その少女は、儚かった。どこか不安定で、かろうじてバランスを保っているような。

 そんな少女を私は助けようとした。けれど、それは出来なかった。

 私とその少女の間は、暗闇によって分断されていたから。

 夢から目覚めたとき、私は泣いていた。

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