【25】商標調査を依頼する場合の注意点とは?

こんにちは、横浜市の商標弁理士Nです。
最近、近所の公園でカモの赤ちゃんが生まれて、幸せな気分です。

さて、前回の記事では、商標調査では何を調べるのか、そして、商標調査は具体的にどうやってやるのかについて、お話ししました。また、一般の方が自力で精度の高い商標調査を実施することは実質的に難しく、しっかりと商標調査をしたい場合は、専門家である弁理士等に依頼をするのが良いということも述べました。

それでは、商標調査を依頼するとした場合、どのような依頼先を選べば良いのでしょうか?調査を依頼するにあたって、何か注意点などはあるのでしょうか?

というわけで、今回は、「商標調査を依頼する場合の注意点」について、お話ししていきたいと思います!少々長い記事になりますが、とても大事な点ですので、ぜひ熟読いただければと思います。

1.調査結果の完全性は保証されない点に注意!

まず、商標調査を依頼する際に、大前提となる注意点があります。

それは、どんな依頼先としても、「調査結果の完全性は保証されない」という点です。

もし、依頼先が「うちは100%正しい調査結果が出せます」などと言っていたら、嘘つきです(苦笑)。そのような依頼先には、依頼しないことをオススメします。

「調査結果の完全性が保証されない」理由としてまず、本番の審査は、特許庁の審査官が行うという点が挙げられます。
審査に関しては、審査での判断を統一するためのある程度の基準(商標審査基準)がありますが、はっきり言って、微妙な場合にどう考えるかは審査官次第なところもあるのです。

ですから、A審査官ならスルーするような点が、B審査官は問題視する、なんてことも起こり得ます。特に、「商標が似ているかどうか」の判断は、どうしても個人の主観が入ってしまう点が否めず、こういったケースが起こりやすいと言えます。

このように、本番の審査では、予測し得ない判断がされることもありますので、事前の調査では完全にはカバーしきれないという問題があるわけです。

また、商標調査には商標データベースを利用するわけですが、ここに格納される商標データにはタイムラグがあります。現在は、約1か月くらいでしょうか。これもまた、商標調査に完全性が保証できない大きな理由の一つです。

たとえば、「他人の似たような商標が先に出願されていないか?」を今日調査するとした場合、確認可能なのは1か月前までに出願された商標ということになるのです。そこから昨日までに出願された商標については、いわゆるブラックボックスの状態となるわけです。

もしかすると、似たような商標が昨日出願されたという可能性もゼロではありません。その可能性がある以上、やはり調査結果の完全性は保証できないのです。

以上を踏まえますと、商標調査とは、あくまで「事前に行なう審査結果の予測」という位置づけで、理解していただくのがよろしいかと思います

ただ、この「予測」にも精度はあります。
後述のように、「誰が」、「どこまで」調査をするかによって、その精度は変わってくるのは間違いないでしょう。

2.誰が調査してくれるのかを、事前に確認する

商標調査を依頼できる先は、さまざまです。
主には特許事務所(弁理士)が挙げられますが、民間の調査会社というのもあります。

ここで重要なのは、依頼した場合に「誰が」調査をしてくれるかです。

特許事務所に依頼したら、担当弁理士自らが調査をしてくれるのか?
それとも、調査専任の(無資格の)スタッフ・社員が行うのか?

弁理士が行う場合、どんな弁理士が調査をしてくれるのか?
商標を専門とする弁理士なのか?違うのか?
その弁理士のキャリアはどれくらいなのか?

はっきり言って、誰が調査を担当するかで精度や質は変わってきます

たしかに、大枠の調査結果としては、あまり変わらないとも言えます。
しかし、細かいところや、見落としそうな点、広い視野から見たリスクの指摘など、一見すると気付かないところで精度が大きく異なるということは、十分にあり得ます

ただ、この点は、残念ながら一般の依頼人にはわかりにくいのが実状です。

とはいえ、「誰が調査をしてくれるのか?」を依頼前に確認しておくことで、ある程度予測できる点もあるでしょう。たとえば、弁理士のキャリアや主な専門分野は、「弁理士ナビ」でも確認ができます。

ちなみに、有資格者である弁理士の調査能力が、必ずしも無資格者より優れているとは限りません。たとえば、業界歴1年の有資格者と、業界歴10年の無資格者、どちらの方が調査経験豊富でしょうか。つまり、そういうことです。

3.どこまで調査してくれるのかを、事前に確認する

依頼先が「どこまで調査してくれるのか」を確認することも、重要な注意点でしょう。

前回の記事でお話ししたように、特許庁の審査では約30の項目がチェックされますが、これらの項目のすべてを事前に調査することは、まずありません。

一般的には、「【22】商標登録が認められない理由とは?」で述べた「よく引っかかる理由」のうち、以下の2点を調査内容とする場合が多いです。

(1)その商標が、商標として機能し得るかどうか?
(2)その商標と、同じ商標・似ている商標が他人に登録されていないか?

このような調査項目については、依頼前の確認は大切でしょう。

また、依頼先によって、「どのような商標データベースを用いて調査を実施するか」という調査方針が異なる場合もあります。この点も、事前にしっかり確認しておくと良いでしょう。

たとえば、無料の「特許情報プラットフォーム(J-PlatPat)」だけを利用するのか、それとも、これと民間企業の提供する有料商用データベースも併用するのか、併用する場合はどのようなデータベースを何種類使うのか、などです。

絶対とまでは言い切れませんが、一般的には、複数のデータベースを利用して調査した方が、精度は上がると考えて良いと思います。

それから、調査報告がどのようなものになるかの確認も重要です。
たとえば、調査結果に関する詳細なコメントやアドバイスまでもらえるのか、「〇」「△」「×」のようにシンプルな結果の報告だけなのか、単に気になる商標がリストアップされるだけなのか、などです。

これは、まさに商標調査のクオリティが問われるところで、非常に重要な点なのですが、残念ながら、「依頼してみないとわからない」というのが実状かもしれません。

もし、依頼先として考えている特許事務所などのウェブサイトに、調査結果報告のサンプルがあれば、事前に確認しておくと良いでしょう。

最近では、インターネット上に「調査無料」を謳った広告もよく見かけますが、このように、「どこまで調査してくれるのか」は依頼先によってピンキリですので、しっかりと調査内容を確認するように注意したいところです。

4.商標の具体的な態様を、しっかり伝える

依頼先に、調査対象とする商標の具体的な態様をしっかり伝えることも重要です。

シンプルな文字なのかロゴタイプなのか、図形(シンボルマーク)なのか、文字と図形の結合なのか、実際にはどのように商品やサービスに表示するつもりなのか、などです。

商標の実物を、一度見てもらうのがもっとも理想的かつ確実でしょう

「そこまで細かいことまで伝えなくていいんじゃないの?」と思われるかもしれませんが、たとえば同じ文字の商標であっても、スペースの有無や、文字の大きさ・色合いの違い、アルファベットの大文字・小文字の表記の違いなどによって、「商標が似ているかどうか」の判断が変わる場合もありますので、油断はできないのです。

商標の具体的な態様をしっかり伝えることで、より精度の高い調査に期待ができます。また、調査料金の見積りが欲しい場合も、これをしっかり伝えることで、より正確な概算を出してもらうことが可能になるはずです。

5.商標を使う具体的な商品・サービスを、しっかり伝える

依頼先に、調査対象とする商標を、実際にどのような商品・サービスに使うつもりであるかをしっかり伝えることも重要となります。

商標登録を考えている商標が、すでに他人によって商標登録された商標と同じ場合や、似ているような場合は、審査で引っかかり、登録が認められないことはすでにお話ししました(【22】商標登録が認められない理由とは?)。

しかし、ご説明したように、このような理由で引っかかるのは、「商品・サービスも、同一または類似であることが条件となります(商標法第4条1項11号)。

たとえば、商標Aを商標登録したいと思って、調査をしてみたら、似ている商標A’が発見されたとします。この場合、両者の商品・サービスが共通していたらアウトということになりますが、同一でも類似でもない全く別のジャンルのものであれば、審査で引っかかることは基本的にありません

また、「その商標が、商標として機能し得るかどうか?」という点も、その商標を使う商品・サービスとの関係で判断されることになります。

というわけで、商標調査において、その商標を実際にどのような商品・サービスに使うつもりであるかという情報は、非常に重要となるのです。逆に言えば、依頼された側としても、商品・サービスがわからなければ、基本的には商標調査のやりようがありません。

私も実際に、「まだ商品やサービスは決まってはいないが、〇〇〇という商標が商標登録できそうか調査をしてほしい」というお話をたまに受けることがあります。このようなご依頼の場合、基本的には「商品・サービスがある程度決まったら、あらためてご連絡ください」とお答えしております。

まぁ、調査をする商品・サービスを「すべて」として、簡易的にチェックもできなくはないのですが、商標によって調査結果の情報量の大小に幅が出すぎてしまいますので、基本的には、できかねるということにしています(苦笑)。ちなみに、図形商標の場合はまず不可能です。

このように、商標調査を依頼する際、その商標を使う具体的な商品・サービスをしっかり伝えることは非常に重要であるという点を、ぜひ覚えておいてください。もちろん、調査料金の見積りが欲しい場合も同様です。

まとめ

以上、今回は「商標調査を依頼する場合の注意点」について、お話ししました。要点をまとめると、次のとおりです。

1.調査結果の完全性は保証されない点を、理解しておく。
2.誰が調査してくれるのかを、事前に確認する。
3.どこまで調査してくれるのかを、事前に確認する。
4.商標の具体的な態様を、しっかり伝える。
5.商標を使う具体的な商品・サービスを、しっかり伝える。

「1」は、商標調査の大前提としての注意点と言えます。
「2」及び「3」は、依頼先を選ぶ際に注意したい点と言えるでしょう。
「4」及び「5」は、実際の調査依頼、料金見積り依頼の際に必須です。

繰り返しになりますが、商標調査の内容・クオリティ・精度は、依頼先によって様々です。少なくとも、「2」や「3」の要素がありますので、料金の安さだけで依頼先を選ぶのはナンセンスだと言えるでしょう。この点、理解されていない方も少なくありませんので、ご注意いただきたいところです。

以上を踏まえて、ぜひ貴社にとってベストマッチと言えるような、商標調査の依頼先を見付けていただければ幸いです。

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【企業・経営者向け】
「はじめての商標と商標登録のためのお話」は、
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