きゅうりのきょうそう


お兄さんが、きゅうりの苗を植えました。

土を耕し、畝をつくり、支柱を立てて、苗の足元には、わらを敷いてやりました。

「元気に育ってくれよ、美味しいきゅうりを、たくさんならせてくれよ。」そう言って、水をまきました。


「さあて、ここからが勝負だ、いちばん先に、あのてっぺんについたら、勝ちだ!」一番背の高いきゅうりの苗が言いました。

他の苗たちは、支柱の上の方をチラリ、と眺めました。


まだ梅雨は明けていませんが、お天気のいいお昼間です。風がスーッと、苗たちの間を通り抜け、苗たちは気持ちがよさそうに、クスクス笑いました。

足元では、アリやダンゴムシたちが、忙しそうに動き回っています。

少し先に、お兄さんがまいた、ヒマワリの芽が、たくさん顔を出して、にぎやかにおしゃべりをしています。

「かわいいね、かわいいね。」きゅうりの苗たちは、その様子を見て喜びました。


けれども、背高の苗だけは、別です。

(虫なんてどこがおもしろいんだ、ヒマワリの芽なんか知るもんか、おれは、一番大きくなるんだ!)

背高きゅうりの苗は、上へ上へと、ぐんぐん大きくなっていきました。


”シャリ、シャリ、シャリ、”

明け方のこと、きゅうりたちは、不思議なもの音で、目を覚ましました。

”シャリ、シャリ、シャリ、”

音のするほうを見ると、1匹のヨトウムシが、背高きゅうりの苗の下の葉を、食い荒らしています。

「背高さん、たいへんたいへん、起きて起きて!」

「わあ!なんだこれは!どうしよう、シッ、シッ、あっちにいけ!」


他の苗たちは、伸ばせる限りのつるをのばして、みんなで、ヨトウムシを追いはらいました。

背高きゅうりは、しょんぼりとだまっています。葉もしおれさせて、元気がありません。


その時、鳥たちがいっせいに鳴きはじめました。

空が少しずつ白んできました。

朝です。


きゅうりたちは、みんな、上を向きました。背高きゅうりも、みんなにつられて、空を見ました。

空は、みんなにいっせいに見つめられて、ほんのりとピンク色に染まり、そしてまた、青く、青く、色を変えていきました。


「きれいだねえ。」背高キュウリが、ほうっとため息をつくように言いました。

「ぼくは今まで、この支柱のてっぺんしか見ていなかったけど、世界は、こんなに美しいところなんだね。」

背高キュウリは、自分のことしか考えていなかったことが、恥ずかしくなりました。


それを見て、他のきゅうりの苗たちは、にっこりと微笑みました。


「背高さん、元気を出して!競争は終わっていないでしょ?」

「今日はこんなにいいお天気、さあ、ぼくもぐんぐん伸びるぞー!」

「わたしは、見て!こんなに花が咲いてるの。実をならせるのは一番かもしれないわ!」



背高キュウリは嬉しくなって、「よーし、今年のきゅうりは最高だ!」朝方のまだ涼しい風に身をまかせて、その大きな葉を揺らすのでした。


鳥たちの歌声は、やがて方々に散っていき、いつもの朝が、はじまりました。

もうすぐ、お兄さんが畑にやってくる時間です。



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