【詩の森】種と土壌と土壌菌
種と土壌と土壌菌
小さな僕の庭には
どこからやってきたのか
実生の草木がいくつかある
紅葉はおそらく
庭の隅の大きな木から
飛んできたのだろう
未だ十センチにも満たない
紅葉の子供たちだ
南天はおそらく鳥が
鉄砲百合は
風が運んできたものだろう
年毎に増えて今では
夏ともなれば
庭を埋め尽くす勢いだ
その種はまさに鉄砲玉
どこに飛んでゆくか分からない
庭と呼ぶのも
憚れるほどの小さな庭―――
そんな庭にも
一粒の種に纏わる小さな物語がある
そして最新の植物の研究では
どうやら彼らも
コミュニケーションをとっている
らしいのだ
その仲立ちをするのが
土壌菌と呼ばれる微生物らしい
一握りの土の中には
何百億もの微生物がいるというから驚きだ!
OKシードプロジェクトの
印鑰智哉(いんやくともや)さんによれば
植物と土壌菌とは
みごとな共生関係にあるという
植物は光合成で作ったものを
土壌菌に与える代わりに
土壌菌から窒素などの栄養素を
受け取っている
さらに土壌に張り巡らされた
菌の糸を通して
親の木が子供の木に栄養や情報を
与えることもできるのだ
森や畑の地下に広がる
植物たちの未知の世界―――
それだけではない
異なる植物どうしでも
匂を介して食害情報を
交換し合ったりもするらしい
僕らは漸く植物たちの未知の世界に
手が届いたところなのだ―――
しかしと印鑰さんはいう
そこに化学肥料が投下されると
大変なことになるのだと―――
栄養素が簡単に手に入るため
植物は根を張らなくなり
土壌菌もいなくなっていく
つまり
共生関係が崩れてしまうのだ
やがて土壌は脆くなり
その結果各地で雨や風による
土壌の流出が頻発する
土壌がなくなれば
僕らは食糧を得ることができない
それが
化学肥料と農薬に塗れた農業の
結末なのだ
土壌が植物を育むように
社会環境分けても教育環境こそが
人を育む土壌だといえるだろう
子供たちはそこに撒かれた一粒の種だ
はたしてその場所は
子供たちがすくすくと育つような
滋養に充ちた
健やかな場所なのだろうか
化学肥料が
土壌を壊してしまうように
競争原理が子供たちの心を
蝕んではいないだろうか
耕すことで土壌が再生されるように
学校という土壌もまた
子供たちのために
普段の手入れが必要だろう
化学肥料を止めて
子供たちに有機作物を与え
競争を止めて
心の負担を取り除くことができたなら
子供たちの好奇心は
もっと自由で
もっともっと大きな学びに向かって
きっと羽ばたくことだろう
肝心なのは
子供たちを信頼し任せることだ
大人たちは土壌作りに専念すればいい
みんなちがってみんないい
若くして自死した金子みすゞが
心底願ったのは
そんな社会だったのでは
ないだろうか