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【詩の森】533 米からパンへ

米からパンへ
 
宮大工の棟梁西岡常一さんは
千年かけて育った木は千年持つといいました
薬師寺の西塔を再建された時のことです
木材の寿命の凄さに驚いたものです
もちろんそのためには
その寿命を生かし切るだけの技術が
必要だったに違いありません
実はあの塔には
木材と同じく千年は持つといわれる
白鷹幸伯さんの和釘が使われているそうです
現在の住宅の寿命が30年といわれるのは
釘の寿命が30年だからかもしれません
 
伊勢神宮では式年遷宮といって
20年に一度社殿が新築されてきました
1300年来欠かさず行われてきた行事です
その目的は
日本文化のルーツを伝え
伝統技術を継承するためといわれています
実はあの社殿は米蔵を模しており
建物が倒れることのないように
柱は穴埋めされています
米蔵には来年蒔くための種籾や
飢饉用の備蓄が収められていました
社殿はまさにいのちの糧の象徴だったのです
 
20年というサイクルは
天武天皇が定められたとのことですが
それにしても
なぜ20年なのでしょう
一つには直埋めした柱が
30年程しか持たなかったからのようです
そしてもう一つは世代交代です
今では晩婚化がすすんで
初産の平均年齢は30歳程ですが
当時は寿命も短かく早婚で
20歳前後だったのかもしれません
初産の年齢は世代交代を意味しています
  
千年かけて育った木が
千年持つということは
まさに大いなる恵みではないでしょうか
切られた直後に植えられた苗木が
千年後の再建を約束してくれるからです
一年かけて作られるお米は
一年分のいのちを約束してくれます
その恵みを信じて
人々はいのちを繋いできたといえるでしょう
ホトトギスの俳人村上鬼城は
生きかはり死にかはりして打つ田かな
という句を残しています
 
恵みとはまず
人々が今生きているその場所で収穫できる
作物のことではないでしょうか
日本人は稲を作り続けて生き延びてきたのです
しかし今や
日本の食糧自給率は38%
日本で米を作れる人は140万人に過ぎません
しかも高齢化で毎年減り続けているのです
日本人の主食が米からパンへ変わったのは
震災のあった2011年頃といわれています
私たちはルーツを忘れて
どこへ向かっているのでしょうか
 
2023.8.25
 
 

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