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【物語】戻ってもう一度

生きとし生ける者



ぼくには何もなかった。
才能も、技術もなかった。
だから中途半端にプライドを守ることで保っていた。

真夜中。
テレビを見ていた。
薄暗い部屋にテレビから漏れる光が広がっていた。
ぽちぽち、かちゃかちゃ、チャンネルを変えた。
かれこれ二時間経っていた。
泣こうと思った。何か溢れてしまえ、と思っていた。
でも出てきたのは笑いだった。
(バカバカしいよな、ホント...)
自分を哀れに思ってカラカラ笑ってしまった。
涙を流そうと努力するぼくが醜く思えた。
自嘲的に笑うことしかできなかった。

何度でも思った。
小さいことだろうが、何だろうが何度でも思った。

『やり直したい。』

物語も、ゲームも、やり直せる。
消せばなかったことにできる。
でもぼくらが生きている世界はそうはいかない。

セーブして中断することも、リロードすることもできない。
再挑戦したりすることも書き直すこともできない。
これをどう捉えるのかに困っているのかもしれない。

ぼくが戻れるなら、何をするのだろう。
不思議と同じことをしてしまいそうで怖い。
この時点で中途半端な願いなのだろう。この願いは忘れることにした。

でもぼく以外の人は?
ぼくは偽善者だ。
でも、苦しい。
だったらぼくの羽を捥いで、あげたら。飛んでくれますか?
それが偽善の塊でも飛んでほしい。
(偽善者なんて消えてほしいよね。)
ぼく以外にもっと切実にやり直しを願う人はいくらでもいるから。

「本当の感情ってなんなんだろ。」

思わずつぶやいた。
いつまで経ってもぼくのコアが見えてこない。
何を求めて、どうしたいのか。
矢印を他人に向けることしかできないわがままな人。
感じる恐怖は多分本物だ。痛い目にさんざんあったから。
だがたまに芽を出す、俗にいういい感情が本当にぼくのものなのか
ぼくの中でぼくが感じている感情なのかわからない。

だってぼくはこれまで
押し付けて、逃げて、はねつけて、生きてきたから。

(ぼくは苦しいのかな、)
そうやって手紙を自分にかいていた。
幼い字で
『こうかいするな』
って書いてあった。
思わず泣きそうになった。今も昔も変わっていない。
焦り、劣等感、孤独。
幼いぼくは書き残していてくれた。
ぼくは言葉を話すのが苦手だった。だから書いて残していてくれた。

昔のぼくも行き先を見失っていたようだ。
平仮名だらけの手紙に
『教えてください。』 と書いていた。
自分を認めてあげられないことも、満足できないことも、
少しだけ不器用に書いてあった。
ぼくが一番強かったころ、同じことを感じていたようだ。

なんで、あの子を忘れていたんだろう。
精一杯、一生懸命生きてくれていたのに。
あの子のほうがきっと苦しかった。いろいろあったこと覚えている。
幼いぼくを少し愛せた。
(ありがとう。)
そう思えたよ。ボロボロの手紙は未来にちゃんと届いた。

ぼくは幼いぼくからいろんなものを奪ったかもしれない。
あの子が想像していた明るい未来を奪ったかもしれない。
友達も、先生も、仲間という概念も奪ったかもしれない。
でもきっと頷いてくれる。
そう思えた。
だって、ぼくはぼくだから。あの頃も、今も。

打ちのめされた時、逃げる先。
文を書く行為をくれた、想像と創造を繰り返せた、
未来のぼくが今のぼくを肯定してくれるのかな。
待ってるよ。





おしまい。

読んでくださってありがとうございました。

バイバイ

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