「烏の巣」ピーターの日記(ピーターの下積み)
ー10年前
「これだよ。」
「ほう、これかい。うん、まあまあだね。」
大人たちがズカズカ僕の部屋に入り込んでくる。
しかし、しばらくの間見物するとため息をついた。
「これではお前にこの家は渡せない。もう、5歳かそこらじゃろ。
お前のお父上はもっと上をいっておられた。さあ、もう一度!」
「はい。」
僕はせっかく作った人形を壊した。
機械のお人形。
僕にそっくりなお人形。
これは課題だった。
僕の周りにはいつだって大人がいて、
僕を審査していた。
”父を越えろ。”
それが僕に課せられた義務だった。
多分、この世に権利なんてものは存在しない。
僕は言われたとおりにしか動いてはいけない。
僕には友達がいなかった。
周りの子は薄々、僕が普通の家のものではないことに
気づいていたのだろう。
1人でいつもいつもトボトボ帰って、
学校の宿題より家の課題を死にものぐるいでやって、
徹夜して、
翌日宿題をまた出してないって後ろ指をさされる。
帰って来て、同じことを繰り返す。
でも死にものぐるいで課題をしたって認めてくれない。
それがわかっているはずなのにやめられない。
どうしても、父上と母上に抱きしめてほしかった。
苦痛に耐えて、寝る間も惜しんで、研究を重ねた。
研究室には僕以外に人は一人も入ってこなかった。
自由がきいていたのはその空間だけだったのだ。
来る日も来る日も研究をしているうちに
その不健康さは日に日に表にあらわれるようになり
ついには学校にもいけなくなった。
立てなかったのだ。
それからタイヤが付いた椅子で一日を過ごすようになった。
足で床を蹴って椅子を動かしながらしていたから
たまに机の角に体が当たることはあったが、絶対に
タイヤを当てることはなかった。
倒れたら二度と起き上がれなくなると思っていたからだ。
だが、学校に行かなくなったことで良かったこともあった。
クラスの奴らから暴言を浴びせられることがなくなったのだ。
奴らは父上と母上が怖いことを知っていたから、家までは来なかった。
白い大理石の研究室の高い天井にある窓一つ。
それだけが僕と外の世界を繋いでいた。
人形を作り続けるごとに愛着が湧いたのか
人形の顔は次第に僕に似ていった。
最後に作った人形は大人たちもケントも僕と見間違えた。
彼はチューブ無しで動けたし、充電なんてものもいらなかった。
だが欠陥も作った。
自分で考える能力は封印した。
勝手に暴れられても困るからだ。
制御不能になれば僕は行く宛をなくす。
僕はこの家に頼るしかなかった。
僕は結局生きていくので精一杯だった。
仲間なんていないし、友達もいないし、味方もいない。
学校でも家でも居場所がない。
幸い学校からは逃げられたが家からは逃げられなかった。
それが僕の最後に残った愛情だったのかもしれない。
ピーター。
辛いのなら一ミリでもいいから行動してみて。