38.リニアック(放射線治療)の開始
マーキングは治療開始前に儚くも消えてしまったが、書き直してもらったので、無事にリニアックが始まることになった。
なぜ、マーキングして、1週間も間をあけるのかと思ったが、マーキングした際に撮ったCTから、放射線を照射する位置を割り出していたようだ。
放射線治療開始の日、診察室に呼ばれて、照射位置はこんな感じです、とレントゲンを見せられて、あっさり診察は終わった。
着替えて、再び待合室で待っていると、名前が呼ばれて奥のリニアック室に案内された。
なぜか入口が蛇行していて、奥に入ると広い部屋に存在感のある高度な機械が鎮座していた。
数年前に建て替えられた病院は、基本真っ白だ。
病室も、診察室も、検査室も。
でもなぜかリニアック室は木目調なのだ。
妙に違和感を覚えた。
マーキングをした時と同じように、上半身丸出しで、両手を挙げて頭の上にある棒にしがみついたポーズで横たわった。私の体の中心に緑のレーザー光線が走り抜けている。
そのレーザー光線に合わせるように、技師さんが私の体の位置を調整してくれる。
緑のレーザー光線と、私の体に描かれた紫のシルシが一致したところで、技師さんたちは部屋を出る。
無駄に広い部屋の中にたった1人で、得体の知れない巨大な機械の中に私は両腕を挙げてしがみついていた。
巨大な機械は私を中心に何やら動き回る。
技師さんが再度部屋に入って、体の位置を確認し、部屋を出ていく。
「それでは治療を始めます。」
マイクで届く、技師さんの声。
巨大な機械の中でしがみつく私。
静かに私を狙う機械が私の周りを回る。
真上のガラス板にマーキングされた私の上半身が写りこんでいる。
左斜め上から、私の爆弾があった場所を目掛けて、霧吹きを吹いたような音だけがする。
何が出てくる訳でもない。
痛みも感じない。
大きな機械が再び動き、右斜め下から、再び霧吹きを吹く音がする。
それだけ。
ただそれだけ。
そして、治療が終わる。
不気味だった...。
MRIでなぜ過呼吸になったかわかった気がした。
あの時の感覚を思い出した。
大きな部屋に通され、部屋の真ん中には見たこともない得体の知れない巨大な機械が鎮座しており、そこに無力な私はただ横たわるだけ。
何をされているのか、どんなに目を見開いても、耳を研ぎ澄ましても、感じることができない。
痛みを伴ったり、血が抜かれたり、視覚や痛覚を、刺激される方がマシな気がした。
「治療を開始します。」
マイクから聞こえてきた技師さんの声に違和感しか覚えない。
治療って何!?
私のがんは取り除かれているはずで、いるかいないかわからないがん細胞に対してのアタックなわけで。
言い訳がましい思いが「治療」という言葉に反抗心を剥き出しにした(心の中で)
MRIの時のように、過呼吸になることはなかったが、初めてのリニアック治療はゾワゾワした。
私が横たわる左下にはモニターがあり、私の顔写真と名前が表示されていて、そこには何の数値だかわからない数値が常に動いていた。
健康であったら、こんな経験しないんだろうなと思うと、なんとも言えない複雑な気持ちが湧き上がる。
初日の治療を終えたら、スタンプカードを渡された。
日本一貯めたくないスタンプカード(泣)
しかも、初日のこの青いシール
25000円もした(苦笑)
戦いはまだまだ続く。