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【展覧会レポート】音の世界はとても複雑で豊かだ|evala 現われる場 消滅する像

東京・初台のICCで、サウンド・アーティストevalaの個展「evala 現われる場 消滅する像」が開催中だ。

evalaは音源やインスタレーションといった作品発表をはじめとして、アーティストや企業とのコラボレーション、映画音楽、ハイブランドや商業施設のサウンドプロデュースなど、幅広い分野で活動している。
文化庁メディア芸術祭や、アルスエレクトロニカといったメディアアートの重要な賞を受賞するなど、国内外での評価の高いサウンド・アーティストである。

サウンド・アートは、色や形、図像といった視覚芸術(visual art)に対して、音、つまり聴覚の芸術である。
この展覧会は、目で見る展覧会ではなく、音を見る展覧会だ
音で作られたインスタレーション作品をぜひ体験していただきたい。
会期は3月9日まで。



「evala 現われる場 消滅する像」展概要


「evala 現われる場 消滅する像」は、2000年代から活動するサウンド・アーティストevalaの大規模な個展だ。
今回の展覧会は、これまでの代表的な作品とともに、新作のインスタレーションも発表されている。

代表作でもある「大きな耳をもったキツネ」が体験できるので、ぜひ体験してみていただきたい。
「大きな耳をもったキツネ」は、世界的なサウンド・アーティスト鈴木昭男との共作で、2013年に今回の会場でもあるICCの無響室で発表され、その後のevalaの活動の方向性を方向づけた作品だ。
この作品が「See by Your Ear」というプロジェクトにつながっていくきっかけとなったそうだ。(「See by Your Ear」のコンセプトを引用しておく。)

サウンドアーティストの evala を中心とした
音 (耳) から世界をみつめるプロジェクト。

Invisible Art (見えない美術)
Invisible Cinema (見えない映画)
Invisible Architecture (見えない建築)

3つの軸をもとに
美術館、劇場・ホール、庭園などでの
作品を発表を中心としながら
新たな建築や都市設計をも提案していく
実験プラットフォームです。

See by Your Ears | evala, Official Website [About]

この作品は、体験するのに予約が必要となるので、ウェブサイトから予約をとって出かけるのがおすすめだ。(多分当日予約は平日でもほぼ空いていない。)
(暗い部屋に閉じ込められるので、閉所や暗所が苦手な方は避けたほうがいいと思います。)

アーティストのevalaは、立体音響システムを利用し、「音」や「聞くこと」を中心にした空間を構築するアーティストだ。
アーティストサイトの説明がわかりやすいので引用しておく。

立体音響システムを新たな楽器として駆使し、独自の“空間的作曲”によって、先鋭的な作品を国内外で発表。音が生き物のように躍動的にふるまう現象を構築する。

evala | official website [About]

先にあげた鈴木昭男以外にも、Perfume、Rhizomatiks、Kimchi and Chips、渋谷慶一郎といったアーティストとのコラボレーションや、映画音楽、ハイブランドや商業施設のサウンドプロデュースなど、幅広い分野で活動している。

今回の展覧会では、大きく8作品と、過去の作品のアーカイブの構成になっている。
印象的な作品をいくつか紹介していきたい。


「evala 現われる場 消滅する像」展のみどころ

「ebb tide」2024

「ebb tide」は、引き潮の意味をもつ、今回の展示で一番大きなインスタレーション作品だ。
暗く広々とした展示室に入ると、スポンジで覆われた巨大な丘のような構造物が現れる。丘の上では鑑賞者が、寝転がったり、座ったり、思い思いの姿勢で音に耳をすましている。

部屋のいろんな方向から音がする。
雨や風のような音、何かわからないけれど、少し懐かしい音など。
音と共鳴するように、遠くに淡い光が差して、刻一刻とその姿を変える。
音によって、自分の中にも、色々なイメージが浮かんでは消えていく。

こちらは、撮影不可となっている。


「Sprout “fizz”」2024

2024年3月にBunkamura Studioで発表されたシリーズの発展型だそうだ。
床にたくさんのスピーカーが配置され、スピーカーから伸びるケーブルが植物のつるのように床を這っている。空間の奥に一つ設置された光に向かうように、スピーカーは壁にもその茎を伸ばしている。

植物のように配されたスピーカーのなかを歩き回りながら、音を聞くことのできる作品だ。
自分の足元から音がすることもあれば、遠くの方から音が通り過ぎることもある。
壁から降るように聞こえることもある。
ヘッドフォンのLとRから離れて、体中で音のする方を感じることができる。

evala「Sprout “fizz”」2024
evala「Sprout “fizz”」2024 部分

「Score of Presence」2019

暗い部屋に入ると、壁に絵画が展示されている。
部屋中から雨の降る音が聞こえてくる。
軒先をしたたるような水音、雨がトタン屋根をたたくような音。
四方八方から雨の音がする。

絵画作品は空間音響のデータを視覚化したものだそうだ。
そして、絵画自体がスピーカーでもある、「音の出る絵画」のシリーズだ。

evala「Score of Presence」2019
evala「Score of Presence」2019

「Studies for」2024

真っ白な光があふれる通路を進むと、やはりどこからか音がする。
音数は他の作品と比べると少ないような気がする。
鳥の声や水の音、何とも判別はできない環境音。

生成AIによって、空間的な音響作品を作る試みだそうだ。
これまでのevalaの立体音響のデータを学習させ、AIがevalaらしい音を生成させ続ける作品だ。

「Studies for」2024

「大きな耳をもったキツネ」2013-14 「Our Muse」2017

ICCには、無響室という部屋がある。
音の反響がまるでない部屋だ。
部屋中に音の反響を消してしまう素材が張り巡らされ、音の反響を消しているそうだ。
重厚な扉があって、外の音からも隔離されている。

本作は、そんな部屋のために作られた作品だ。
1回の予約で5曲のなかから、1曲を選んで聞くことができる。
これまであまり体験したことのないような音の体験になるのではないかと思う。
体を這うような粘度の高い音や、空間が見えるような音。
音を聞くことは、聴覚だけでなく、視覚や触覚が関与しているかもしれないと感じさせられる。

こちらの作品も撮影不可。

無響室の解説も面白いので、ぜひ読んでみていただくといいと思う。

アメリカの音楽家ジョン・ケージ(1912-1992)は,かつて無響室に入り完全な沈黙を体験しようとしましたが,音から遮断されたはずの耳に聴こえてきたのは,「血液の流れる音」と「神経系統の音」という二種類の身体内からのノイズでした.それにより,ケージは「沈黙は存在しない」という認識に至り,そこから20世紀の音楽史を塗り替える作品が生み出されたのです.

ICC Website [無響室]


音の世界はとても複雑で豊かだ

アートの展覧会は、通常目で見ることが多い。
目で見たものを、感情や過去の記憶や、別のイメージと重ね合わせて、体験する。

しかし、この展覧会は、目で見ることをそれほど求められてはいない。
目で見る代わりに、音を聞くことで何かを受けとる展覧会だ。

会場を歩いていると、聞こえてくる音から、イメージが浮かぶ。
目を閉じて、音に身を委ねると、右と左だけではなく、遠くや近く、速さや遅さ、硬い柔らかい、さらにはぬるっとした質感みたいな、もっと広くて、複雑な空間を感じることができる。

音を聞くことで受け取っているものが、こんなにもたくさんあるのだと気付く。
音の世界はとても複雑で豊かだ。

中世以前は視覚よりも聴覚が重要な感覚とされていたという。
活版印刷や遠近法といった技術が生まれ、「見ること」が、わたしたちの認識を作る最重要な感覚と考えられるようになったのは、人類の歴史に照らすと、わずかこの5〜600年のことのようだ。
聞くこともまた、見ることと同じように、私たちの認識を形づくる。

新たな感覚の発見に、ぜひ音の展覧会に足を運んでみてはいかがだろうか。

最後までお付き合いいただきましてありがとうございました!


展覧会情報(Information)

「evala 現われる場 消滅する像」
会場:NTTインターコミュニケーション・センター [ICC] (東京・初台)
   〒000-0000 東京都台東区上野公園7-7
会期:2024年12月14日[土]-2025年3月9日[日]
開館時間:11:00 〜 16:00
※詳細は以下の公式サイトでご確認ください。

関連イベント

アーティスト・トーク evala
2025年2月16日(日)14時〜
会場:ICC ギャラリーD
定員:100名(当日先着順)
当日のライブ配信もあるそうです。


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