あゝ イチョウの木
整形外科で腰の牽引治療を受けていた。機械に寝ているだけ、窓からイチョウ並木が見えた。
整形外科はビルの3階。だからいつも徒歩で下から見るイチョウ並木とは表情が違うのだ。
いつもは見えない、見ていない、遠くて見ることがない 木の先端。
あと1ヶ月もすれば黄色くなるであろう しっかりとした緑の葉たちが、青空に向かってのびている。
おお、お前の頂上はそうなっていたのか。
そういえば 整形外科に来る途中、枝を伐採されている木があった。
「イチョウの木は オスの木とメスの木があるんだよ!葉っぱをよくみると形が少しちがうんだよ!」と幼稚園児だった息子が教えてくれたことを思い出した。
そう、伐採されているのは雌(メス)の木。
この時期、実が落ちる。
空き店舗の前だけが掃除されず、落ちた実が歩道で人や自転車に踏まれ 普通に歩けないくらいになっていた。臭い、汚い、滑る…。
役所にクレームででも入ったのだろうか。
その汚れた歩道の木だけが伐採されていた。
枝の根元からきれいに。
そして 枝も葉も実もゴミ収集車に雑に放り込まれ、バッキバキのグッチャグチャにされていた。
遠い実家の近くにあるお寺のイチョウの木は、崇められ、実が落ちる季節になるとみんなが交代で拾いに集まり、なんなら洗って美味しそうな銀杏(ぎんなん)としてご近所に出回るのだ。
立派だね〜と言いながら、ストーブの上で殻ごと焼いて食べたり 茶碗蒸しに入れて食べたりするのだ。
育った場所 植えられた場所によって、こうも違うのか。それも運命なのか。
あるはずのないイチョウの気持ちに思いを寄せてみる。
あれから 駅まで歩くたび、その枝しかなくなり やけにさっぱりしたその子を見上げてしまう。
この秋は、綺麗だね〜!!とピュアな気持ちで色づいたイチョウ並木を眺める自信がない。
黄色く色づくイチョウ並木よりも、あの子に若葉がつくだろう春がすでに待ち遠しいのだ。
ただでさえ秋が短くなっているというのになあ。
今朝は北風が寒い。