第151回 歴史文化で胃袋をつかめ
1、戦国の宴にかける想い
月刊文化財 661号 ◆文化財活用のアイデア
普段から向き合っている課題にダイレクトで関連する特集で、どれもここで紹介したい案件ばかりですが、
特に注目したのが、島根県益田市の取り組み。
「表紙解説 重要文化財 絹本着色益田元祥像」
「地域の人々とともにお殿様の宴会をプロデュース」
という題で
島根県立石見美術館専門学芸員 川西由里さんが紹介していました。
今からちょうど450年前、永禄11年(1568)に中国の覇者、毛利元就との和睦を図った石見(島根県西部)の豪族、益田藤兼は、毛利氏の本拠、吉田郡山城を訪れ、膨大な贈り物と豪勢な料理をふるまったとされています。
その効果あってか益田氏は毛利家で重用され、関ヶ原合戦後は家老として栄えます。
この饗宴の詳細は東京大学史料編纂所に所蔵されている「益田家文書」に記されており、平成27年から市民グループ(市内の酒・醤油・豆腐・菓子などの関係者)を主体とした「中世の食」再現プロジェクトが立ち上がったとのこと。
トビウオ・豆腐・自然薯を材料とするはんぺんやイカの造り、アユの白干しからなる「祝い膳」。酒も醤油がまだなかったので煎り酒を使うという徹底ぶり。
またこの料理を味わいながら中世に因んだ芸能を鑑賞する「よみがえる戦国の宴」というイベントが実施されています。
前述の益田氏のもてなしにも観世大夫の能もふくまれたこともあり、まさに歴史絵巻の再現といったところです。
2、政宗の食へのこだわり
実はこのような古文書から食事を復元する取り組みは全国で行われており、それを収集して紹介するWebサイトもありました。
そこでは
歴史的なストーリーを有した、価値ある食
『歴食』
として紹介されています。
残念ながらここには採録されていませんが、我がミヤギにも「伊達家の正月膳」という歴食があります。
これは伊達政宗の料理番であった犬童信太夫が残した覚書から復元されたもので、
本膳・二の膳・三の膳からなる豪勢なもので、領内の特産品が散りばめられています。
三陸のホヤやキチジという魚で作られた蒲鉾は今でもミヤギの名物です。
また政宗公は自ら料理も手がけ、将軍をもてなすほどでしたので、食へのこだわりは強かったようです。
寛永七年(1630年)四月、三代将軍家光を仙台藩江戸屋敷に招いた際の懐石料理はには「鶴のつみれ汁」もあったとか。
今はもちろん当時も高級食材というか珍味であったのでしょう。
3、学芸員も地域の食を楽しもう
歴史文化遺産を体感してもらうために味覚に訴えるというのは、とても効果的でしょう。
また、食事をする場所が由緒のあるところならその感動はより高まります。
土産物にしても、全国どこでも買えるものではなく、その土地に根ざした物語があるものの方が人を惹きつけます。
資料を渉猟して物語を見つけるのは正に学芸員の仕事だと思いますが
それを商品化するのは、町の人たちの協力が必要です。
普段からさまざまな場所で交流し、歴史文化の普及活動に取り組むことで人脈を広げていくことが第一歩なのではないかと思います。
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