第124回 箱舟に乗るモノは誰が決める
1、ミュージアムと箱舟
リアス・アース美術館をご存知でしょうか。
公式HPによると
《リアス》とは三陸沿岸部の海岸地形を表す地理用語《リアス式海岸》の《リアス》であり、つまり転じて当館が三陸海岸に存在することを意味しています。《アーク》とは《方舟》を意味し、旧約聖書に記されている洪水伝説中に登場する《方舟》と共通するイメージを持っています。つまり、荒波にも似た時代の流れ、変化の中にある圏域の文化資源を《地域の記憶=無二の財産》として調査研究、収集し、後世に伝えていく当館の使命を象徴しています。
長い引用となりましたが、この美術館は気仙沼・南三陸地域の地域の記憶を後世に伝える役割を担っている、ということです。
2、被災から学芸員がつかんだもの
平成23年3月11日、この美術館も地震の被害に見舞われました。
だからこそ、地域の地震や津波についての記憶を伝える役割を担う存在として重要性を増すことになりました。
常設展では、当時の写真や被災物などから当時の状況を知ることができ、これらにどう向き合っていくのかじっくり考えられるものになっています。
実は職場に送られてきた某企業の広報誌にインタビュー記事が掲載されていて、ぜひシェアしたいと思いました。
そこには学芸員の山内宏康氏の想いが綴られていました。
実は東日本大震災が起こる5年も前に明治の津波被害を伝える展示を同美術館で企画したにも関わらず、2ヶ月で1200人しか来場者がなかったとのこと。単純計算で1日20人ですかね。
震災後に語られるのは、
想定外、未曾有、まさか
地元の資料が語る教訓が伝わっていたら、違っていたのでは、と忸怩たる思いになります。
復興を遂げた美術館が上記のように震災を伝える展示を常設していても、地元の学校の授業で見にくることはほとんどないと言います。
それでも
職務上の人生をかけて世の中にきちんと知らしめようと決意しました。
「そうしないと未来を守れない」という我々の「勝手な」使命感です。
と熱い言葉であふれています。
震災前から津波被害の恐ろしさを伝えてきた、そして目の前で震災を体験し、資料を使って伝える術を持っている、この美術館の学芸員さんだから言えることです。
3、もっと伝えられる力が欲しい
同じく学芸員と名乗っている身として、これだけの想いで日々資料に、伝えるべき人に向き合っているか、と考えさせられます。
誰よりも町の文化財の現場に出向いている自負はありますし、
なんとかしなきゃいけない、という危機意識は持ち続けています。
ただ、伝える力を磨くことはまだ不十分だと思います。
地元の人間が、自分の言葉で、地域の魅力を語れるような素地を作る。
それが学芸員の究極の目的なのでしょう。
明日からも誇りを持って仕事に向かえそうです。
そんな心境にさせてくれた文章との出逢いに感謝します。
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