第131回 文化財とバリアフリー
1、毎月届けられる文化財情報
月刊文化財というコアな広報誌があるのをご存知ですか?
最近理解ある上司のおかげで職場で定期購読することができ、時間を見つけては目を通していました。
今日読んだのは
旧石器時代から縄文時代草創期遺跡の再評価と保護
を特集した646号。
全く専門外の時代ですが、近場にある仙台市の地底の森ミュージアムも特徴ある展示として取り上げられているなど興味深いものがありました。
2、洞窟を活用する術
特に取り上げるのは
愛知県豊橋市教委 学芸員 村上昇氏のコラム
史跡嵩山蛇穴の三次元レーザー計測とその活用の展望
旧石器時代の遺跡はのちの時代と違って定住的な集落を営むわけでもなく、住居の痕跡が見出しづらいのです。
代わりに当時の生活痕跡がよく残っているのが洞窟遺跡。
ラスコーの壁画ではないですが、石器時代と言えば洞窟!というイメージありますよね。
ただこのような遺跡を活用するというのは非常に難しいのです。
交通の便が悪い山中にあったり、そもそも安全性の問題で中に入れて実物を見せられるような遺跡整備はかなりハードルが高いです。
そこで登場するのが最先端のデジタル技術。
レーザーの光が返ってくる時間を計測する測量機械で三次元のモデルを作ります。
そうすると画面の中なら自由に洞窟を観察することができます。微妙な凹凸はもちろん、写真と組み合わせて色も実物に近いものにすることができます。
さらにこのデータから模型を製作することもできます。3Dプリンターですね。極論を言うと快適な博物館の中で1/1スケールの洞窟遺跡を体験することも可能です。
これをコラムでは史跡のバリアフリーと呼んでいました。
3、二つの方向性とせめぎ合い
文化財とバリアフリーはよく衝突します。
山岳信仰をとどめる山の上にある寺社は基本的に石段を登っていかなくてはたどり着けませんし、
遺跡も基本はバリアフリーとは縁遠い環境にあります。
本来文化財は国民共通の宝であるべきですが、物理的制約でどうしてもできないこともあります。
そこで出てくるのが最新のデジタル技術。
先に触れた三次元レーザーもそうですが、このnoteでも何度か触れたAR(拡張現実)VR(仮想現実)でその場所に行くのと同じような体験ができれば、文化財の価値を伝える事になるのではないでしょうか。
逆に無理くり本来の参道の景観を破壊してエスカレターをつけたり、車で登れるようにしてしまうのはどうでしょうか。
文化財の本質的な価値には周辺環境や景観も含まれています。
価値の普遍性と利便性を天秤にかけるわけではありませんが、
大切なことはよく議論して決めること。
文化財の直接の所有者だけではなく、地域の方々や専門家、そして遠方から訪れる愛好家にも納得してもらえる形を模索することが必要になるのです。