第1485回 戦争遺跡の可能性
1、考古学研究の紹介から
『考古学研究』71巻1号 通巻281号 2024年夏
この中でシンポジウム「戦争遺跡の保存と活用」参加記(髙田健一)が掲載されていました。
個人的に関心の高いものでしたので、こちらを紹介しつつ、いま考えることを付記しておきたいと思います。
2、戦争遺跡を考古学する
このシンポジウムは2024年2月11日に島根大学で開催されたものです。
島根県出雲市の旧海軍大社基地遺跡群の保存運動が契機となって企画され、基調講演と事例報告4本の後、デスカッションを行う、というよくあるパターンのタイムスケジュールだったとのこと。
YouTubeでその模様が公開されています。
基調講演は
慶應大学教授の安藤広道氏による「戦争遺跡のポテンシャルーその可能性の広がりー」
戦争遺跡は通常の史跡とは違い、「負の歴史」としての側面があり、誇りや愛着などとは一見縁遠いように見えます。
一方で、戦争という大きな歴史的な事象に対して、あらためて向き合い、今後同じ轍を踏まないようにするために考える場として貴重であることは間違いありません。
安藤氏は戦争遺跡の規模の大きさと現代ゆえの複雑さを、関心がある者のアクセスのしやすさとして肯定的に捉えているようです。
ただ、現在の文化財保護制度、史跡指定の要件とは合致しづらく、未指定の文化財も含めた柔軟な取り組みを推奨している点において
「保存活用計画」にどう盛り込むかが重要になってくる、という趣旨の講演だったようです。
事例報告の4件は
①岩本 崇(島根大学法文学部・准教授)
「旧海軍大社基地遺跡群の考古学的調査と意義」
②森 幸三(加西市役所 観光課「soraかさい」・学芸員)
「鶉野飛行場跡(旧姫路海軍航空隊)の整備と活用」
③弘中 正芳(宇佐市教育委員会社会教育課・副主幹)
「宇佐海軍航空隊跡保存整備のあゆみ」
④平本 真子(錦町立人吉海軍航空基地資料館・副館長)
「集客施設としての戦争遺跡〜錦町の取り組み〜」
詳細は『文化遺産の世界』Vol.42特集「文化遺産としての戦争遺跡」
https://www.isan-no-sekai.jp/report/9302
にも掲載があります。
一つだけ少し詳しくご紹介するのは錦町の取り組み。
報道で遺構が発見された後、問い合わせが殺到し、
年間1000件にも及び、職員だけでは対応が難しいという実態があったとのこと。
国庫補助を活用して資料館を開設すると、人口1万人の町に年間17,000人の来館者があるという快挙を成し遂げているといいます。
これには愛称をつけて敷居を低くする、対話を重視しガイド養成に力を入れる、マンガを有効なコンテンツとして活用する、などさまざまな工夫が込められていることが紹介されます。
また当日の報告映像を見ると、地域の人々の熱意、それに応える行政の素早さなどがずば抜けていることが伝わってきました。
地下壕が50本以上あり、すべて3D測量を終え、VRでの公開が予定されているというから驚きです。
3、フィールドミュージアムの可能性
国の文化庁では
近現代の遺跡は、地域にとって「特に重要な」ものを対象とする
という指針が示され、この「特に重要な」ということの判断が地域に任されていることが課題となっています。
当町にも海軍工廠の関連遺構が残存しており、調査保存を訴える方もいらっしゃいます。
錦町の取り組みを見ると、うちでもこんなふうにしたいと思えてきます。
むしろ、負の歴史だから、とか安全上の問題があるとか、言い訳していたのが悔しくなりましたね。
大いに刺激を受けた、ということから記録に残しておきたいと思います。
本日も最後までお付き合いくださり、ありがとうございました。