第1160回 注目される塩の荘園
1、読書記録239
今回ご紹介するのはこちら
月刊文化財 通巻696号 特集 新指定の文化財ー記念物・無形文化財ー
ちなみに前号の紹介はこちら
2、新指定一覧
文化庁の文化審議会から令和3年6月18日に答申のあった新指定の記念物(史跡名勝天然記念物)は以下の通り。
【史跡】
岩手県住田町 栗木鉄山跡
福島県白河市 天王山遺跡
千葉県船橋市 取掛西貝塚
大阪府大東市・四條畷市 飯盛城跡
奈良県曽爾村 伊勢本街道
島根県邑南町 久喜銀山遺跡
広島県庄原市 佐田谷・佐田峠墳墓群
愛媛県上島町 弓削島荘遺跡
熊本県甲佐町 陣ノ内城跡
【名勝】
愛媛県大洲市 臥龍山荘庭園
【天然記念物】
愛知県豊橋市葦毛湿原
また同日に【重要文化的景観】の選定も行われました。
山口県岩国市 錦川下流域における錦帯橋と岩国城下町の文化的景観
登録文化財としては
【名勝】 滋賀県東近江市 松樹館庭園
山口県周南市 漢陽寺庭園
無形文化財として
琉球舞踊立方の保持者2名
工芸技術 茶の湯釜製作技術
人形浄瑠璃文楽人形の保持者1名
選定保存技術として
表具用木製軸首、美術工芸品保存箱紐(真田紐)、在来絹製作、規矩術、表装建具製作、漆工品修理などの保持者について掲載されています。
3、瀬戸内海の誘惑
上記一覧のなかで一つだけ詳しくご紹介するとしたら、
愛媛県の弓削島荘遺跡ですかね。
瀬戸内海は芸予諸島の中に弓削島があり、
12〜15世紀の荘園遺跡になっています。
というのも塩の生産が盛んで、領主である京都の東寺に納めていたことが各文書で明らかになっています。
在地領主は武蔵七党の流れを汲む小宮氏でしたがやがて東寺と対立して失職したとのこと。
製塩に際しては塩分の濃い海水を得るために「塩穴」を掘っていたということや、その濃い海水を煮沸する「塩釜」、燃料のための「塩山」という構造が必要になりますが、島の各所に「塩釜」や「塩山」が確認できると言います。
鎌倉時代末期から南北朝時代には
「悪党」や隣国安芸の小早川氏、伊予の村上氏らが進出してきたそうですが
本書によるとこれらの勢力を取り込んで年貢納入の請負を期待していたとのこと。
史料に登場するのは寛正四年(1463)までなのでやがて荘園としての実態は無くなっていくようです。
地元である上島町教委では平成二十八年から令和二年まで文献史料から石造物、民俗に渡るまで各分野からの総合調査に乗り出しているとのこと。
本誌ではその成果を7つのポイントに整理されており、
①発掘調査により12世紀まで遡るとされた東泉寺
②中世の平瓦が出土し、14世紀と考えられる五輪塔を有する願成寺
③12世紀の作と考えられる定朝様の阿弥陀如来坐像を安置する定光寺
④鎌倉時代製作の可能性がある獅子狛犬を伝来する高浜八幡神社
⑤同じく獅子狛犬があり、文治五年の目録に登場する「浜途明神」の後進とされる弓削神社
⑥発掘で13世紀代と確かめられた大田林の塩浜
⑦漁業利権に関わる重要な位置を占めた百貫島
と中世の宗教施設と生業に関わる遺構が指定対象となっていることがわかります。
あとは当時の人々の住居(集落)が見つかるといいですね。
それかやはり中世から変わらぬ景観を保っているということは近世以降に同位置で建て替えなどを行っているため、もう遺構としては残っていないとか。
やはり残そうとしないと中世の痕跡を止めるのは難しいようです。
本日も最後までお付き合いくださり、ありがとうございました。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?