第167回 古代中国の実情
1、読書記録10
古代中国の虚像と実像 (講談社現代新書) / 落合 淳思 #読書メーター https://bookmeter.com/books/543512
著者の落合氏は日本における甲骨文字研究の第一人者。
本書は正当な歴史学の手続きに則って、というより少し冷静に考えれば嘘だとわかることを容赦なく切り捨てていくスタイル。
序盤から甲骨文字の発生に入れるメスも鋭い。
亀の甲羅を火で炙って、できた割れ目から吉凶を占う
というのが古代中国では盛んに行われていたのですが、
実験的に検証した結果、事前に細工しておけば
いかようにも割れ目を作ることは可能だ。
とのこと。身もふたもない。
2、何を信じればいいか
基本的なスタンスは
誰かが人知れず呟いたセリフ
陰謀めいた密談
が書かれているエピソードは全て嘘。
誰がそれを記録し得たのか、と言われればまったくもってその通り。
結果だけが残され、その理由を考えた歴史家が納得できるエピソードが取り入られただけなのだろう。
例えば項羽と劉邦の争いで一つの見せ場である
「鴻門の会」
項羽の参謀を務める范増が、ここで劉邦を殺すべきだと進言し、合図を送っても項羽か劉邦を見くびって機を逃す話。
范増と項羽だけの話を誰が記録したのか、そう考えると、作り話だとわかるという。
四面楚歌という慣用句も、項羽が最後に篭った垓下という城で、周りから項羽の故郷、楚の国の歌が聞こえ、
すでに郷里の人も劉邦に降ったかと、絶望したことから
周りが敵だらけだ、という状況を表す言葉として使われていますが、項羽が漏らした独り言を誰が記録したのか、という話。
これも作り話ということになります。
3、虚像を超えて
史記や三国志に描かれる英雄達の生き様は、悠久の時を経て現代の人々の心を揺さぶります。
ですがその大半は作り話と言われて困惑してしまいます。
しかし、これこそ歴史学の成果。
俗説や面白可笑しく追加されたエピソードは魅力的だからこそなくならないのです。
真実の歴史は特に地元に大事にされてこそ。
面白いからと言って人任せにせず、自分ごととして考える姿勢が大事なんだと思います。