第161回 静謐と高潔さ
1、秘色と呼ばれて
唐突ですが、私は陶磁器が好きです。
特に青磁。
あの吸い込まれそうな透明感。
青とも緑とも白とも云えぬ曖昧な発色。
あの器で茶を嗜み、硯で墨を吸って漢詩を認めてみたいですね。南宋時代の文人みたいに。
ちょっと暴走しすぎました。
実は大阪市立東洋陶磁美術館に行ってきたのですが、あまりに素晴らしくて我を忘れてしまいました。興奮が冷めないうちに書き留めて置きたいと思います。
2、幅広い魅力
東洋陶磁美術館では、特別展「高麗青磁ーヒスイのきらめきー」を11月25日まで開催中です。
高麗王朝時代の朝鮮半島で焼かれた青磁の器をこれほど集めた展示は日本でかつてあったでしょうか。
高麗といえば、918年に建国(今年がちょうど1100周年)、分裂していた朝鮮半島を西暦936年に統一した王朝で、日本の鎌倉幕府と同じ頃に武臣政権という軍人主導の運営を行っていたことも特筆できます。
話題の青磁はその少し前、中国の宋の技術を取り入れ11世紀に形作られました。器の形もよく似たものが多く見られます。
この写真の梅瓶なんて、遺跡から出土したら、宋のものか高麗のものかわかりません。正直これほどまでにそっくりな製品を作っていたことは知りませんでした。
高麗青磁の代表的な意匠としては象嵌(ぞうがん)があります。
象嵌とは器物に文様を刻んで、そこに別の材料と埋め込む技法のことです。金工品にもよく用いられますが、陶磁器では高麗独自のものです。
上の写真の皿形の磁器には見込み(上から見える部分)に白と黒の文様が見えます。これは胎土(器の基本となる粘土)に刻みをつけ、別の色の粘土を埋め込んでいるのです。
日本でも中世のお城や寺院の発掘で破片が出土することがありますので、象嵌が使われているものであれば、高麗青磁、というイメージを持っていましたので、
象嵌がない優品がこれほど展示されていると、固定概念を砕かれたようで心地いいです。
3、時を超えた共演
これほど優れた独自性を持っていた高麗青磁ですが、モンゴル帝国の侵攻で王朝が傾くと生産は一気に落ち込み、やがて忘れられることになります。
しかし、時を超えて近代に古墳の発掘品などが新たに世に出ることで再評価され、当時の作品を再現したものが次々に作られて行くようになります。
右と左区別つきますか?
技術史的なところからすると、まさに実験考古学的ですごくいいのですが
同じ穴にだけは埋めないでくださいね。
のちの考古学者が迷うわないように。