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『アサシン クリードIV ブラック フラッグ』で略奪王に、おれはなるっ!!!!

 昨年末、空のゲームこと『エースコンバット7』を一通り終えてから、次は大海原へ漕ぎ出すことにした。闇夜に潜むアサシン暗殺者のゲームだったはずなのに、なぜか海賊要素を大幅にブラッシュアップした意欲作、『アサシン クリードIV ブラック フラッグ』である。

 『アサシンクリード』シリーズのゲームは今回初めて遊ぶのだが、マイケル・ファスベンダー主演の実写映画は公開当時観ているし、そういえば「知らない人から急にアサシンブレードが送られてきたらどうしよう」と騒ぎ始めた界隈を目撃したことがあり、何かと記憶に新しい存在ではあった。ゲームではアサシン教団とテンプル騎士団が血で血を洗う抗争を続けているのだが、遠い遠い日本では胡乱軍団がSNSをない話題で染めている。

いちかばちか 無敵な風 君をみちびく

 『アサシンクリード』は外伝含めて作品数がかなり多く、『IV』とナンバリングされている本作は6作目であり、主人公こそ違うものの現代パート(アサシンクリードとくゆうのげんしょう)においては過去作と地続きになっていて……とあるのだが、そういうのはフレーバーということにして、これ一本で面白いぜ!という話をこれからします。

 本作が素晴らしいのは、快適な海賊ロールプレイを実現させるシステムの全てであると言い切ってもよい。こちらには身体がゴムの船長も三刀流の剣豪もいやしないが、もしあなたに海を渡り歩く無法者になりたいという気持ちが心の片隅にあるのなら、私は黙ってこのゲームのタイトルを書いたボトルメールを差し出すだろう。

主人公が手に入れた船、ジャックドー号。
船体や帆のデザインでイギリス艦隊に差をつけろ。

 主人公のエドワード・ケンウェイは、身重の妻を置いて一攫千金を夢見て海賊になるも、うだつの上がらない日々を過ごしていた。ある日、彼の乗る船は嵐に巻き込まれ壊滅し、生き残ったのはエドワードとダンカンという男の二人だけであった。エドワードは襲いかかるダンカンを殺害し、その衣服と身分を奪って「総督」なる人物を訪ねるが、ダンカンはなんとテンプル騎士団に亡命を企てているアサシンであった。ダンカンになりすましたエドワードは騎士団に入り込み、彼らが「観測所」なるものを探していることを知る。大義もなく、大金を稼ぐことを夢見るエドワードの、数奇な海賊人生が幕を開けるのであった。

 冒頭のいくつかのミッションを終えると、エドワードは無事に自分の船「ジャックドー号」を手にし、海賊団の船長となる。舞台となるのは、広大なカリブ海。マップを開けば、数え切れないほどのアクティビティが海に点在している。シナリオ進行上の制限もあるが、その範囲内であればエドワードは自由に行動することが可能だ。メインシナリオだけを猪突猛進してもよいし、目についた船を襲って資材を蓄えても良い。そう、海賊のお仕事といえば「略奪」なのだから。

視点を切り替え、異なる攻撃方法で
敵船を火の海にするのだ。

 「略奪」の工程は主に二つ。まずは船に装備された大砲や樽爆弾などを用いて、相手の船の体力を削ること。船の攻撃は視点(前方や側面、後方など)でそれぞれ異なり、自分と相手の位置を見極め、あるいは効果的な攻撃を加えるために立ち位置を調整しなければならないが、船の速度を段階的に早めたり遅めたりしながら、相手に砲弾の雨を浴びせていく。次に、相手の船が火の海となったら、次は「乗り込み」だ。相手の船にフックをかけ、船員と共に船に乗り込んでいく。船員を◯◯人倒す、海賊旗を落とすなど船の大きさによって異なる条件を満たせば、生殺与奪はキミのものだ。

 占領した船の資材は全てこちらのものとなり、船そのものの始末については解体して自船の修理(回復)、手配度を引き下げる、「交易艦隊」に派遣するといった三つの選択肢が与えられ、状況に応じて使い分けて自分の懐を肥やしていく。

敵味方入り乱れる大乱闘。
この時ばかりは暗殺を忘れよう。

 略奪した資材には、売って金に換える「砂糖」「ラム酒」、船の強化に使う「布」「木材」「金属」の種類があり、基本的にデカい船ほど、それらを多く積んでいる。大きな船は砲も多く、故に強いのだが、勝利すればリターンもデカい。回頭まで時間のかかる船の操作には慣れが必要だが、操縦が身体に染み付いて、船もある程度強化が進むとポンポンと面白いくらいに敵船を沈黙させられるようになっていく。そうなれば、エドワード=プレイヤーの眼前に広がる大海原は、抱えきれないほどの宝の山に見えてくるはずだ。野郎ども、準備はいいか?目に見えるもの全部、俺達のものにしてやろうぜ。

 そんな海賊ライフを共にする船員たちは、副長を除けば皆、名前のないモブでしかない。だが、略奪戦をすれば命がけで闘い、船長である自分が船に戻れば歓声で迎えてくれ、帆を上げれば船乗りの歌で盛り上げてくれる。そんなアイツらが乗っていて恥ずかしくない船にしてやろう、という気概がわいてくれば、あなたは立派な船長だ。デカくておどろおどろしい装飾で、敵を震え上がらせ、海の死神になってみせようじゃないか。

 その他、砦を攻撃して外殻を破壊し占拠することで奪還する(ファストトラベルの座標を増やしていく)、沈没船のお宝を素潜りで獲得する、銛漁といったアクティビティが豊富に用意されていて、それを網羅するとなれば修羅の道だが、体感的には「3秒泳げば何かある」くらいにイベントが配置されていて、飽きる暇など与えられやしない。広大過ぎる海図を、自分の色に染め上げよう。

釣った魚や狩りで得た素材は
ケンウェイの装備を拡充する重要な材料となる。

頑張る君の“がむしゃら”がいま この世界を変えるぜ

 『アサシンクリード』のアサシンの部分についてもお知らせしておこう。その名に恥じず、本作は隠れたり、あるいは相手の死角を突いて潜り込み、無防備な背中に刃を突き立てる、アサシン・アクションゲームとして洗練されている。

シリーズお約束の「タカの眼」でまずは
敵の位置を確認。

 箱庭型のマップにおいて、敵を一人また一人と葬っていくのに、凝り固まった正解などはない。物陰から口笛で興味を引き近づいたところをグサリ、建物の天井から飛び降りてズブリ、暗殺を諦めて乱闘騒ぎにするのも、立派なソリューションだ。だがやはり、音を立てず一撃で仕留める暗殺がワンボタンでスムーズだし、大勢いる見張りの兵士などを一人一人片付けていくにはどうするかを考える内に、プレイングも洗練されてゆく。

 環境や人員の配置によっては一度も見つからずに任務遂行には至らない場面も多々あるが、中盤に差し掛かったところで手に入る「吹き矢」は、その突破口となるであろう。音を立てず相手を眠らせるスリープダートももちろん強力だが、刺した相手を敵味方問わず襲わせるバーサークダートはもはやゲームバランスを破壊しかねないほどの利便性を有している。刺した相手が仲間に刃を向け、その対処に追われることで防衛網は脆くも崩れ去る。物陰から吹き矢を打ち、敵陣営が崩壊していく様を安全圏から見守るのは、他のゲームでは中々に得られない愉悦である。

真ん中のアイコンがついた兵士は、暴走状態。
仲間に向けて斧を振り抜こうとしている。
相手の立場に立てばこれほど怖いものはない。

 万が一避けられない交戦状態になった場合は、剣や拳、アサシンブレードを用いた通常攻撃に、敵の攻撃を受け流すカウンターやガード崩し、ピストルなどを織り交ぜて邪魔な敵を肉塊に変えれば良い。一対多になることがほとんどだが、カウンターがキマればほとんどの場合で他の敵から殴られることなく、比較的安全に処理できる。

SEも小気味よく、戦闘は楽しい。
ただし船内での戦闘は狭く密集するので
狙った相手を攻撃しづらいのが若干ストレス。

 海がそうであるように、陸地(港町や砦など)にもこれまた数え切れないほどのアクティビティがあり、暗殺の闇バイトで小銭を稼いだり、マヤ文明の謎解きパズルをしたり、「テンプル騎士団狩り」なんて物騒なことも出来てしまう。酒場でミニゲームに勤しむのもアリで、自由気まま、酒と女に明け暮れる海賊生活は、陸地でも続くのだ。

ダブル・アサシン二枚抜き

めざせ! まだ見ぬ新世界

 最後に、プレイヤーの分身であるエドワード・ケンウェイが送る海賊ライフの、その内容について少し触れて結ぼうと思う。

 前述の通り、エドワードは身ごもった妻を置いて海へ旅立った男であり、物語開始時点では歴史に名を残す大海賊へ成長する片鱗など一切なく、海賊団船長兼アサシンになった後も「傲慢」「信用できない」など酷い言われようである。確かに、CV:津田健次郎である以外いいところが見つからない。

 そんな凡人エドワードの周りにはしかし、“黒髭”ことエドワード・サッチベンジャミン・ホーニゴールドなど、名だたる海賊が集結している。彼らが時代に名を残すその瞬間、大海賊時代のひっそりとはしっこにいるのが、エドワード・ケンウェイなのだ。

そんな言わんでええやん

 だが、彼の名が隠された歴史になってしまった理由を、プレイヤーは目の当たりにすることになる。『アサシンクリード』は元より、人間個人の自由を尊重するアサシン教団と、支配による統治を旨とするテンプル騎士団の長きに渡る闘いを巡る物語だ。今作で争われるのは、「観測所」というオーパーツ。超古代文明人が遺したテクノロジーは、全地球人類の居場所を見通し、会話を聞き取ることすらできる、世界規模の監視システムだ。テンプル騎士団が血眼になって探すのも納得の代物である。

 しかし当のエドワードは、観測所を一攫千金のためのお宝としか思っていないし、彼に公共的な正義などは存在しない。アサシン教団にも、テンプル騎士団にもなれない、中途半端な存在。しかし、海賊団の船長として、あるいは「海賊共和国」を維持する役割を果たす上で、彼は一個人のエゴが通用しない場面にいくつも出くわす。揉め事があれば仲裁するし、疫病が流行れば薬を求めて右往左往する。妻の前で大人になれなかった男が、海賊行為を通じて社会性を学んでいく様子が、裏では積み重ねられていく。

これもまた青春の1ページ

 数多の裏切りや権力との抗争、「観測所」を巡る攻防の果て、エドワードは決断を迫られる。それは一個人の人生という“船”をどこへ進めるかの決断であり、人類文明の行く末を握る壮大な局面でもあった。悪夢にうなされ、多くのものを奪い、その手を他人の血で染めてきた。彼は決してヒーローなんかじゃない。簒奪者であり、パブリック・エネミー社会の敵である。そんな男の語る「自由」とは、「理想」とは、なんと都合のいいものであろうか。妻を泣かせ、大勢を悲しませてきたエドワードの脳裏には、殺してきた者の思い出がこびりつく。

 しかし、ちっぽけなならず者であるエドワードに、全ての運命が集約するのだ。その大一番で彼は、酒のツマミにしかならない理想ではなく、「信念」に従って行動した。過ちばかりの人生において、一つまみの勇気を、彼は発揮した。その結果が今の世界に繋がり、彼は歴史の闇へ消えゆく。だがしかし、彼は「無名の男」から「大海賊」へ成り上がり、そして最後は―。エドワード・ケンウェイが最後に“何”になるのかは、ぜひご自分の目でお確かめいただきたい。

 若干のSF要素に戸惑いもしたが、『アサシン クリードIV ブラック フラッグ』のエンディングは美しく、エドワードという一人の男の人生を追う物語を見届けた達成感は、「一本の映画を観たような」という使い古された文言がつい思い浮かぶものであり、特大の感動をもたらしてくれた。単品でも楽しめるアクションゲームの良作ゆえに、大海原へ漕ぎ出す選択肢を、どうか皆様のカートリストに加えていただきたい。

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