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TCG未経験だけど、TVアニメ『遊☆戯☆王デュエルモンスターズ』を全部観る(ノア編まで)

 プリキュアに浮気したり、衝動的にゲームを買ったり、資格試験に失敗しながらも、実はこそこそ観ていた遊戯王DM、話数としてはもうすぐで折り返し地点らしい。数年に渡って展開されたTVアニメについてはアイカツ!で慣れたと以前豪語したけれど、当初の想定以上に険しい山だったのだと、認めなければならない。

 嗚呼、いったいいつまで続くんだ、アニオリ展開は。

 王国を抜け出し、いくつかのアニオリ展開を挟んで、ようやく人気エピソード「バトルシティ編」に突入するアニメ版。闇遊戯の失われた記憶を求める闘いは三枚の神のカード、そして千年アイテムの所有者たちが一同に介するこのバトルシティで本格化し、ダイレクトアタックの概念が実装された本ルールをもってよりカードゲームとしての戦略性も増していく。王国編のキャラクターの再登場、マリクやグールズといったアクの強すぎる連中の参戦によってより賑やかに、ストラジーとエモーショナルの両面で名場面を続出させた、高橋和希先生手掛ける原作漫画においても一番脂がノッたシリーズと言っても過言ではないはずだ。

 そんなバトルシティ待望のアニメ化だが、基本的には原作漫画を忠実になぞりつつ、声優による熱演が足されたことで盛り上がりはヒートアップ。ブラックマジシャン使いを自称しておきながらブラックマジシャンガールの存在を知らないでおなじみパンドラは子安武人氏、バトルシティ編の宿敵にして闇遊戯とも因縁の深いマリクには岩永哲哉氏と、エヴァンゲリオンファンとして実に美味しい人選がたまらない。通常時から闇状態になるにつれ、よりねちっこさが強くなっていく岩永さんのマリク演技が、聴く度にどんどん癖になっていく。

 原作漫画既読であれば、バトルシティ編に昂らないわけがない。あの名シーンが、名デュエルが、アニメーションによって再度命を吹き込まれる。オシリスの特性を最大限に活かすべく組まれたゴッド・ファイブをループコンボによって撃破する人形戦、洗脳された城之内との命をかけた闘いを強いられ、より強固になっていく二人の友情に涙するあの展開も、原作で得た感動や興奮が蘇るようなテンションで描かれる、この喜び。今更何を言わんやという話だが、原作漫画におけるゲームメイキングが優れているからこそ、アニメに翻訳されてもその魅力は希釈されることなく、むしろ劇伴や声の演技といったアニメならではの表現を武器により高次の次元でデュエルに没入することができる。

 とはいえ、原作漫画を忠実になぞると前述しておいて何だが、アニメ化に際しての改変も存在している。細かい点で言えば、原作漫画の人形戦において遊戯は敵に壁モンスターがいないにも関わらずダイレクトアタックをしないままターンエンドをしているシーンがあるのだが、アニメ版においてはダイレクトアタックができない理由を挿入することで、その違和感を払拭する、という改良がなされている場合もある。

 と同時に、そういった改変が決して小さくない影響を及ぼすこともある。とくに目についたのは、静香周りの描写の強化だ。城之内の妹・静香は城之内の闘うモチベーションとして機能しつつ、基本的には彼を鼓舞する役割を果たすのみで、デュエルとは無縁のキャラクターだ。だが、アニメ版においてはスタッフに彼女の強火のオタクでもいるのか、静香に割かれる時間は妙に増えている。手術を受ける勇気がないと塞ぎ込んでは医師を待たせ、包帯を取る勇気がないまま兄を応援するために病院にいた男の子と交流したり、本田と御伽が彼女を取り合ってライバル関係になったり……と、隙あらば静香が登場し、不安げな声を漏らす。

 このアニメに、初めて失望を抱いたのも、彼女にまつわるシーンだった。城之内VSエスパー絽場戦、サイコ・ショッカーとリフレクトバウンダーの特殊能力に追い詰められ、万事休すとなった城之内だが、彼の目には闘士は消えていない。勝利を目前にしても絽場は、不屈の闘士を燃やし続ける城之内にこう投げかける。

城之内「オレのターン!!」

絽場「なぜあきらめない!?」

城之内「決闘者だからだよ!」

 身震いするような感動を得たこのやり取り、なんとアニメでは改変され削除されている。絽場の猛攻に心折れそうになった城之内の前に静香が現れ、その激励を受け奮起する、という流れになっているのだ。

 城之内の闘う理由の一つでもあった静香によって城之内が再起する。わかる。わかるが、城之内はすでに遊戯と対等に闘えるデュエリストになることを目指し、ぐんぐんと成長していくことにこそ魅力のあるキャラクターだった。そして、彼もまたデュエリストとして最後まで諦めない矜持をいつしか身につけ、それを発揮したのが絽場戦だったのだ。いったいなぜ、このシーンは削られたのだろう。静香との感傷的なシーンに置き換えられる必要があったのだろう。これは好みの問題だが、この改変に対しては決して小さくない問題というか、not for me すぎて一時は視聴のモチベーションを失うほどの騒ぎであった。

 ……まぁ、この程度で怒ったりしていたら、身体がもたないので本題に入ろう。バトルシティ編にはいくつかのオリジナル展開が含まれていて、ジョン・クロード・マグナムという特大級のサプライズには手を叩いて喜びもしたが、バトルシティ決勝トーナメントが始まるという最高潮の盛り上がりの中で唐突に挟み込まれるのが「ノア編」と呼ばれるアニオリエピソード群だ。

 その話数は20話近く、2クール=半年の期間放送され続けたというノア編。アニメが原作に追いついたために製作されたと有識者より聞いたのだが、これから決勝!という段階で半年もバトルシティを先延ばしにするとは、何とも思い切ったことをするものだ。

バトルシティ決勝戦の舞台、アルカトラズへと向かうデュエリストたち。しかし、突如バトルシップが制御不能に陥り不時着すると乃亜と名乗る謎の少年が待ち受けていた…。“バトルシティ編”の間に起こる海馬兄弟を中心としたサイドストーリー。

バンダイチャンネルより引用

 我らが海馬瀬人に執着する、謎多き少年・乃亜。乃亜は遊戯たちをも巻き込んで、バーチャル空間に全員を閉じ込めデュエルを強制する。そんな乃亜の配下として遊戯たちを待ち構えていたのが、あのBIG5だった。

 デュエルモンスターズクエストにて敗れ、現実世界での肉体を失い電脳世界で意識を繋ぎ止めていた彼らは、遊戯たちに勝利することでその肉体を乗っ取り、現実世界に帰還するために乃亜に従っていたようだ。唐突に始まる『攻殻機動隊』みたいな倫理観で行われるデュエル、次回予告で杏子にすら「性懲りもなく戻ってきた」と揶揄される海馬コーポレーション元重役たち。彼ら一人ひとりの名前や個性が開示されたとて、その実態は若い肉体に執着する浅ましい中年男性であり、エロペンギンこと大瀧修三に関しては令和の放送コードに乗らない可能性すらある酷い有り様。アニメ化によってここまで極限まで核を下げられていく彼らに、涙を禁じえない。

 BIG5はさておき、ノアを巡る一連の物語は、わりと悪くないと思ってしまうのだ。

 海馬剛三郎の唯一の実子である乃亜は、海馬コーポレーションの跡取りになるべくして育てられるも、交通事故によって死亡。しかし剛三郎によってその意識と人格は電脳世界で生き永らえることになり、彼は拡張した頭脳によって海馬コーポレーションの全てを掌握し、兵器開発の知識をもって世界を滅ぼすことのできるシミュレートにまで到達する。そこには、幼くして死んでしまい成長が止まってしまったがゆえの幼稚さ、真の意味では孤独であり一番欲しかったはずの剛三郎の愛を得られず、自分の当て馬として養子に迎えられたはずの瀬人がいつしか跡取りとなっていく現実に、彼は我慢がならなかったのだろう。結局のところ、原作漫画から通ずる「遊戯王の父親マトモな奴がいない説」が、このエピソードでより強化されてしまった。

 電脳世界をたゆたい、超人的な能力を有しつつ、乃亜自身は孤独な存在として描かれている。それに対し、遊戯たちは言うに及ばず、海馬もまた他者との絆(兄弟愛)によって自分を奮い立たせ、強敵に立ち向かっていく。原作漫画のその本質がカードゲームのその先にある「友情」を描くものであったことを鑑みれば、これはこれで『遊戯王』の翻訳としては正しい……と思う。海馬の真意を悟り、彼のデッキを受け継いで闘う闇遊戯の一連のシーンは、最大瞬間風速ではこれまでのエピソードよりも抜きん出たものがあった。

 むしろ、悪しき父親への想いを断ち切れず、剛三郎と共に要塞と心中することを選んだ乃亜には人の情があったということにはなるが、毒親と真の意味で決別しきれなかったという惜しさが残る。さらに、原作漫画のバトルシティ編が海馬にとっても過去の憎しみから開放されるための物語であったことを思えば、剛三郎と物理的な決着を【バトルシティの最中に】果たしてしまうのは、わりと超えてはならない一線なのでは、という気がする。本当の意味で海馬こそが過去に縛られていることを遊戯が看破し、ゆえに敗北する、というロジックが使えなくなってしまうからだ。

 決して小さくない影響を今後にも及ぼしたであろう乃亜編。この物語を走り抜けた今、アニメオリジナル要素への期待値の天秤は、わりと厳しい方向に傾いている。面白い要素がないわけでもないのだが、時期も悪いし原作漫画のアツい展開にはどうしても勝らない。バトルシティも架橋に入る今、話数的には「まだ折り返し」というのが怖すぎる。

 一体何を喰らわされるんだ、遊戯王デュエルモンスターズ。

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