口下手で不器用な、可愛い女(ひと)。『ゼノブレイド2』とぼく。
noteを始めてから、遊んでみて気に入ったゲームについては備忘録も含めなるべく記事を書くようにしていました。続編が出た時にプレイ時の思い出せるように、そのゲームを誰かにプレゼンしたい時に持ち出せるように。
ただ、どうしても書き切れない題材が一つだけあります。遊んでいたのは2020年の頃だから、もうクリアして一年以上放置していることになる。なのに一向に下書きが埋まらない、書き終わらない。8,000字ほど書きなぐった後に「これではいつまで経っても終わらない」という実感が脳内を駆け巡り、それもゲームのシステム紹介に必要以上に文を裂いてしまい、星の数ほど存在する情報サイトに掲載されたものと何ら変わらない、無個性の長文が生まれてしまったことに気づく。
自分で読んでいて、面白くない。親が子に抱いてはならぬ感情の芽生えに気づきつつ、数か月放置されたこの下書きをどうするか。葬るか、情けない言い訳と共に公開するか……。
そんなモヤモヤとお別れするために、これまでの下書きを再考かつスリムにして、コンパクトに再生産させてみることにしました。これでもう、成仏できると思う。楽しくもあり苦しかった、『ゼノブレイド2』との長旅の思い出が。
『ゼノブレイド2』は、Nintendo Switch の名作に必ず名前が挙がるゲームの一本だ。かつてWiiで発売され、神ゲーとの呼び声も高い作品の続編。スマブラSPにホムラ/ヒカリが参戦したり、多くのユーザーからベストゲームに選ばれたことで2022年の年明け早々にトレンド入りしたこともありました。
とくに前作のリマスター版『DE』がめちゃくちゃ面白かったこともあり、前作プレイ後に即購入。ちょうど大型台風が近づく中、引き籠りの御供として選んだのは、外の曇天とは正反対に明るく開けた雲上の世界。ここから始まる新しい旅、新しい仲間、そしてボーイミーツガール。期待に胸膨らませ挑む新しいゲームとの出会いは、ボタンを押す指ですら軽快にさせる。
“口下手”な神ゲー
プレイが始まって一時間後、頭を抱えることになった。わからん。何もかもわからん。その辺のザコ敵にすら勝てないまま、主人公レックスの悲痛な叫びがアヴァリティア商会に響き渡る。
話は前後するが、本作『2』は前述の『DE』より以前のソフトである。つまりは、『DE』は『2』の経験やリソースも反映された、より洗練されたゼノブレイドだった、ということなのだ。あの痒い所に手が届くユーザビリティも成功体験を上手くユーザーに与える仕掛けも、全部が『2』の礎あってのものだったのだ。
『2』は何というか、口下手なゲームだ。前作のバトルは主に敵と自身の位置取り、「アーツ」の選択と発動のタイミングを意識していればよかった。本作ではそこに「コンボ」「属性」「ブレイド」「チェインアタック」といった新要素が乗っかり、プレイヤーは情報の洪水を一気に浴びせかけられる。そして、親切丁寧なチュートリアルが必要なそれらの多くを、本作はテキストで済ませてしまう。
「ブレイドの必殺技を当てると、その属性に沿ったルートのコンボが始動するから、対応する属性の必殺技をLV.2⇒3と繋げていこうね!あとドライバー側にもコンボがあってね!ブレイク⇒ダウン⇒ライジングの順で繋げるのがオススメ!あ、ドライバーのコンボとブレイドのコンボは並走して繋げるとダメージも加速するから、頑張ってみてね!!!!!」
いや知らんて。そもそもこっちはドライバーもブレイドもよくわかっていないのに、前作から刷新された戦闘システムの要点が文字情報のみでワッと流れてきて、それらを再読することが出来ないと知る頃には戦闘は手詰まりになっている。雀の涙しかダメージを与えられないオートアタックだけでは凌ぎ切れず、レベル差の開いていないザコ敵に5分もの死闘を繰り広げ、ようやく理解したのは「コンボがないとお話にならない」ということ。
コンボ?ルート??属性の相性????「チェインアタックを成功させるとダメージはさらに加速するよ!」いやだから知らんって。『ゼノブレイド2』はこの繰り返しだ。一つのシステムに対してこちらの「理解」が及ぶよりもワンテンポ早く次の「解説」が始まってしまい、プレイヤーは困惑する。あるいは、ゲームから新しいシステムが開示されても、その時プレイヤーにはそれを実行する手立てが与えられていない、という局面も一度や二度ではなかった。どうしてこんなにも、楽しく遊ばせるための「導線」が下手なんだろう。怒りよりも疑問が先に出る本作は、しかし多くの人が絶賛する「神ゲー」である。ウソだろ??????
噛み合わない歯車
一戦一戦にうんざりするほどの時間をかけながらゲームを進めていくと、本作の不器用さが紐解けていく。各要素の一つ一つは作りこまれているのに、それらが上手く噛み合っていないのだ。
コンボを繋げるキーは「属性」だが、その属性はブレイドの個性に紐づいている。そうなれば当然、コンボルートに沿った属性のブレイドが欲しくなる。ところが、ブレイドの入手方法はなんと「ガチャ」だった。
「コアクリスタル」を消費して回すブレイドガチャ。思い通りの属性と武器種を持ったブレイドが手に入るか、全ては「運」に託されてしまうのである。決して豊富とは言えないクリスタルを消費し、ご丁寧に「オートセーブなのでリセマラが出来ない」仕様に頭を抱えつつガチャを回して、同じ属性持ちのブレイドが5連続で出てきた時の怒りが、果たして未プレイ者に伝わるだろうか。快適なプレイングをゲーム側に阻害されたことの絶望が、どれほどのものかおわかりいただけるだろうか。ソシャゲじゃなくて、フルプライスのコンシューマーゲームなんですよ????????
そうした苦闘の末、ようやくコンボの完成を狙えるパーティが揃った。次に立ちふさがるのが「育成」である。
ブレイドの育成は主に戦闘で特定の行動を繰り返すことと、「傭兵団」によって進行する。「傭兵団」はいわゆるお使いで、様々な任務にブレイドを派遣してリアル時間の経過によって報酬が貰えるという、これまたソシャゲしぐさ全開のシステム。そして、本作を悪い意味で「時間泥棒」という評価に貶めた、最悪のシステムでもあった。
前述の通り、属性とブレイドが紐づいている以上、余剰人員なんて保有していない前半はどうしても「欠けてはならない」ブレイドが存在してしまう。そんな主戦力たるブレイドが強くなるために数度の「傭兵団」への参加が必要となった場合、数時間近く戦闘が立ちいかなくなってしまうのだ。
しかもこの傭兵団、街の発展やブレイドの強化に必須という代物でありながら、「待ち時間を短縮させる仕組みがない」「遊んでいない時間にタイマーが進行しない(放置プレイが出来ない)」という極悪仕様であり、プレイヤーは愛着を持ったブレイドと長時間の別れを何度も科せられた挙句、思い通りにいかない戦闘の味を噛み締める羽目に陥ってしまう。なぜそこだけソシャゲの真似をしないんだ……。
これらの仕様が、ゲームを進める程にジワジワと、ボディブローのように効いてくる。ゼノブレイド2くんはそろそろ「プレイヤーくん!!チェインアタックを覚えるともっと楽しくなるよ!!」と純粋無垢に語り掛けてくるが、こちらは対応するブレイドが不在なので、ゲームが遊ばせたいルートに辿り着かないのである。ブレイドが帰還した頃にはチェインアタックは「もう習得したもの」扱いなので当然、ゼノブレイド2くんはチェインによる撃破を前提としたHPのボス敵を用意するのだが、当のプレイヤーは「チェインアタックって何ボタン???????」くらいの理解度なのだ。これでは勝てない。なので当然、攻略wikiや解説動画を頼る。ようやく理解してボスを倒す。近頃、ゲームそのものがプレイヤーとの「対話」を試みるいくつもの良作名作があるが、その意味で言うと『ゼノブレイド2』とぼくは間違いなく「すれ違って」いた。
「理解」が追いついた瞬間、ゲームとぼくは同調する。
『ゼノブレイド2』は間違いなく、超大作の名に相応しいボリュームと遊びごたえを兼ね備えたソフトであるが、その全てに「待ち」と「我慢」が付きまとう、どうしようもない作品であった。戦闘と探索を楽しんでもらおうというコンセプトに対し、ブレイドガチャや傭兵団といったソシャゲめいた仕様が邪魔をして、快適なプレイングにいちいち待ったをかけられる。繰り返しになるが、本作はフルプライスのコンシューマーゲームである。にもかかわらず、時間というコストを払うことでしか育成を進められない仕様が、プレイヤーの意欲を削り取っていく。どんなに魅力的なキャラクターや長大なマップを用意したところで、全てを台無しにさせてしまっている。
なのに。悔しいかな、本作に感じていた怒りや失望が、突然転調する瞬間が、来てしまったのだ。
きっかけは、ブレイドの人員に余裕ができ、戦闘に参加させる「一軍」と傭兵団を周回する「二軍」が組むことに成功したこと。これでようやく、作り手が意図したであろう「戦闘の流れをプレイヤーが演出する」ことに着手し始められた。
本作のコンボの基本はまず、ブレイドコンボを完走させ属性玉を敵に付与し、チェインアタックで付与した玉を反属性で割っていき、ダメージの倍率を伸ばすことだ。この仕組みを理解するまで、ブレイドコンボを1~2個完走させチェインでそれを割る、の繰り返しで凌げていた。ところがある時、ある閃きが浮かぶのである。「属性玉を増やせば、チェインコンボの回数増やせるよな」ということに。
もちろん簡単なことではない。コンボには制限時間があるので、必殺技を打つタイミングはもちろん、完走させる順番(最後の属性を重複させない)ことも重要だ。手持ちのブレイドから厳選し、パーティメンバーの手持ちとにらめっこする。アーツを発動させるにはオートアタックの効率も重要だから、攻撃回数の多い武器種をメインに据える。敵の行動を阻害しコンボの制限時間を延長させるドライバーコンボも差し込みたい。試行錯誤を繰り返して、最適なコンボルートを模索する。
そしてついに「至る」のである。属性玉の割れる心地よい音と共にダメージ倍率がグングン伸びていき、あっという間に×1000%を超えていく。そうなれば、たった数千のダメージをチマチマ与えるので精一杯だった必殺技の威力が「1HITが9999ダメージ」という異常事態へと変貌し、チェインを完走するころにはトータルで数十万、時には百万越えの総攻撃として帰ってくる。微動だにしなかったボスのHPがあっという間に溶けていき、ストーリー上では月とスッポンの実力差があるはずの敵をあっという間に下す快感。NPCであるはずのパーティメンバーに感じる不思議な一体感。
おそらく「これ」だったのだ。『ゼノブレイド2』のクリエイターがプレイヤーに提供したかったゲームというのは。コンボを制することで戦局をこちらに引き寄せ、膨大なダメージで敵をぶっ叩く。少し固めのザコからサブクエストで出会う強敵、ラスボスであっても基本は変わらない。敵の猛攻を耐えながら、ブレイドコンボで属性玉という名の「火種」を付与し、チェインコンボで一気に「着火」する。そうして打ちあがったドデカい花火は、数百万ダメージという形で出力される。耐え忍んでからの逆転!を自ら演出する本作の戦闘システムは、御した瞬間に「最高のカタルシス発生マシーン」と化すのである。
「ゼノブレイド2、ぜんぶ理解(わか)っちゃった……」。人間とは不思議なもので、知らない/理解できないものを忌避する習性がありながらも、それが解消された瞬間に怒りや憎悪はポジティブなものへと好転するのである。ゼノブレイド2を買えと鼻息荒くプレゼンしてきた人たちは皆、この瞬間の虜になってしまっていたのだ。一方的なすれ違いが相互理解に変わった瞬間、コミュニケーションが成った瞬間の「ときめき」に、やられてしまったのである。
50時間近くをかけてようやく相思相愛になったぼくと『ゼノブレイド2』は、そのまま添い遂げた。まるでレックスとホムラ/ヒカリのように、二人だけの楽園に向けて走り出して、そして辿り着いた。エンディングという名のゴールへと続く、二人だけのバージンロード。エンドロールは讃美歌へと変わり、ぼくと『ゼノブレイド2』は誓いの口づけを交わす。ありがとう、愛してるよ、ゼノブレイド2。
出会った頃からキミは、少しだけ気持ちが先走っちゃうというか、不器用な子だったね。だからぼくはキミの気持ちを汲み取ろうとして、でもすれ違ってばっかりだったね。わかるんだ。キミはゲームを純粋に楽しんでほしくて、でも邪魔者がいっぱいいて、伝えたい言葉の1/3も伝わらなくて、純情な感情は空回りして I love youさえ言えないでいたね。ぼくも最初はそんなキミがちょっとニガテで、会いたくない日もあったんだ。でも、今では考えられないよね、キミのことが嫌いだったなんて。足りなかったのは、ぼくの努力だったんだよ。キミのせいじゃないさ。まぁソートの使い勝手が悪いとかマップの目的地への誘導が鈍いとかもあるけど……おいおい叩くなって、冗談だよ。ソウイウトコロモスキダヨ(小声)。さぁ、二人だけの新婚旅行へ行こう。イーラってところさ。「黄金の国」って呼ばれてるんだ、きっと素晴らしい所に違いないよ!!