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『エースコンバット7』は一度しか遊べない

 きっかけは、地上波放送されていた『トップガン マーヴェリック』を観ながらダラダラしていた時だった。なんか、こういう感じで空飛ぶゲーム、やってみてぇ。思い立ったが吉日、「トップガン ゲーム」で検索すると、一番上に表示されたのが『ACE COMBAT 7: SKIES UNKNOWN』であった。何でも、トップガンとのコラボDLCが配信されており、あの「F-14A」や「Dark Star」を意のままに操ることもできるらしい。

 酒の勢いか、賞与をアテにしたのか、気づけば本作を購入し、新米パイロットの門を叩くことになった。エースコンバットはもちろん、フライトシューティングゲームも初めてだが、まぁイケるやろと、おれが西日本のマーヴェリックになったるわいと、意気揚々飛び出したのである。

 それが地獄の入口だと知らずに。

 本作は、ミッションクリア型のフライトシューティングだ。シナリオムービーが流れ、ブリーフィングを受け、機体や武装を選択して、いざ出撃。空戦では、敵機や目標施設の破壊、味方の護衛などを行う。ちなみに、主人公は「トリガー」と呼ばれているが、彼は無口で顔も映らないので好きなロールプレイを脳内で想像しながら遊ぶと吉である。

 いざ開戦。ミッション1では、鈍足な敵機を後ろから撃つだけの簡単な仕事だが、飛行機を操る独特な操作感を身体に叩き込まねばならない。360度全てが自分の移動範囲となり、地面に沿って進むレースゲームなどとはまるで違う感覚、要求される空間把握能力の高さに、まず面食らう。

知らない天井だ……。

 次にミッション2では、敵機の行動が激しくなる。そうすると、こちらのミサイルが当たらない。敵をロックオンしたらミサイルを発射!と先ほどのミッションで習ったのに、もう通用しなくなっている。このミッションでは、攻撃の当て方を実地で覚える、というのが目標なのだろう。

 では、攻撃を当てるにはどうすればいいか。それは、相手の背後に回って撃つ、ただそれだけだ。ミサイルの誘導には限度があり、相手の側面から撃ってもその弾道は空を切るだけで終わってしまう。そうならないために、こちらの機首と敵を一直線に結び、ミサイルを放つ。シンプルにして最善の答えが、ケツを追うこと。それこそがエースパイロットの条件だ。

 言葉にすれば簡単だが、実践するとなるとこれが難しい。敵も自機も忙しなく飛行していて、棒立ちになる瞬間などありはしない。しかも、飛行機は横だけでなく上下にも動く。そんな敵を追いかけて背後を取るのは、至難の業だ。縦横無尽に飛び回る敵を、こちらのターゲットサイトに捉える。ロックオンしても辛抱強く待ち、ミサイルの軌道を予想して、最適のタイミングで発射ボタンを押す。

 『エースコンバット』は、大げさに言ってしまえばこの繰り返しと言って良いのかもしれない。敵を追いかけ、狙って、撃つ。ターゲットサイトに敵を収め、撃つ。目標をセンターに入れてスイッチ、目標をセンターに入れてスイッチ……。トム・クルーズになるはずがなぜか碇シンジくんになってしまったが、意外なことにこれが楽しかったりするのだ。

 急速旋回で敵に狙いをつける、失速で敵にわざと抜かせる、といったテクニックで背後を奪いつつ、敵のミサイルをかわす。操作は忙しなく、常に考えながらプレイしなければならないが、攻撃と回避を同時にこなしていると、本当にエースパイロットになった気分だ。マーヴェリックの見えていた世界は、こんなだったのか!と、ふとしたきっかけでこのゲームを購入して正解だったと、蒼い空を眺めながらそう思った。

 ……ミッション3までは。

戦いは、男の仕事!

 『エースコンバット7』は戦争を描くゲームでもあるので、プレイヤーに降り掛かってくる任務は過酷なものが多いし、こちらには拒否権などない。どんな不利な状況でも確実に勝利を収め、命令は絶対遵守。悔しいが、それが軍属の努めなのだ。

 というわけで、単に空を飛んで敵を撃ち落とすだけで褒められていたのはルーキーまで。と言わんばかりにこのゲームはいきなりこちらを突き放すようなゲームデザインに移行するのである。

ミッション4。突如プレイヤーは、空中でのイライラ棒を強要される。
レーダーいっぱいに表示された赤い円に触れれば、一発アウト。
落ち着いて飛行すれば何ともないが、自由に空を飛ぶ爽快感はお預けにされる。
ミッション6。制限時間内に敵機や施設を破壊し規定のスコアを稼ぐ。
この制限時間が妙にいやらしく、
効率的に無駄弾なく撃破していかないと、突破は不可能。
ミッション7。雨雲で視界不良かつ、
こちらの計器を不調にさせる落雷を避けながら
救助を求める味方機を守らねばならない。
雷を見て避けるなんて芸当は出来ず、ほぼ運試し。
ミッション8。砂嵐でレーダーがまともに使えない状態で、
タンクローリーを目視で探してこれを撃つ。当然、制限時間つき。

 このように、特殊な状況下での戦闘を余儀なくされ、「自由に空を飛び回り、敵を撃つのが快感」だったゲームから、“自由に空を飛び回り”の部分を奪われ、ずっと窮屈な任務を課せられる。物語上、主人公が要人殺しの濡れ衣を着せられる展開に沿ってのことだろうが、いくら何でもやり過ぎである。

 これ以降も、敵の長距離ミサイル狙撃を受けないよう雲の下に隠れ続けるミッション、夜間でサーチライトをかわしながら進むミッション、集中砲火に晒されながら特定の高度から攻撃しないと破壊できない施設を狙うスコアミッション(またしても制限時間がギリギリに設定)などなど、プレイヤーの負荷が高く、自由に飛べないことへのストレスが積み重なっていく任務が続く。序盤は敵を追うか回避するかの判断だけで済んでいたのに、ミッション4以降は敵の配置や施設の破壊順などをトライ&エラーで頭に叩き込む、「覚えゲー」へと突然変貌するのだ。

嫌だ! もう嫌だ! ここから出して! 出してよ父さんっ!

 『エースコンバット7』の難易度は、高い。これは、シリーズに一切触れたことのない自分だからそう思う部分もあるだろう。とはいえ、EASY難易度でミッション12や最終ミッションを30回近くやり直す羽目になった時は、自身の無罪を訴えたくもなってしまう。

 本作の高難易度化の要因は、そもそも難易度設定があまり機能していないことにある。難易度を下げれば敵CPUの挙動や硬さが和らぎ、戦闘には勝ちやすくなるだろう。だがしかし、プレイヤーが詰まっているのは「トンネルくぐり」や「短い制限時間」や「天候による妨害要素」である。いくら敵を柔らかく愚かにしたとて、この条件を突破しないとミッションをクリアできない設定にしている時点で、意味をなさないのだ。

 それからもう一点が、シナリオに関わる部分として、敵機のほとんどが「無人機」という設定である。敵はこれを活かし物量で攻めてくるため、レーダーは敵機の表示に埋め尽くされ、ターゲット切り替えも煩雑になり狙い通りの敵にロックオンさせるには経験とコツを積むしかない。さらに、無人機は操縦者への負荷を考慮しなくて良い、という設定からか、そのどれもが高速かつ急旋回の挙動でこちらを翻弄する。背後を突いたと思えば急落下し、こちらが再び機首の軸合わせをする頃には遥か彼方へ、という展開は、幾度となくあった。

僕はもう、だれとも笑えません

 高度な操縦を要求するシチュエーション、失敗すれば一発死もあり得るギミック、高速で動き回る無人機やエース機体。それらの要素が複合的に襲いかかり、リアルを支える天候の要素がプレイヤー側にのみ課せられるハンデのようなものでしかないと気づいた時、無邪気に空を飛んでいた頃の自分が死ぬ音がした。攻略中に難易度を下げられず、一部要素を引き継いでのやり直ししか選択肢がないのも、心が折れそうになった。

 『エースコンバット』とは元々そういうもの、と言われたら、返す言葉がない。ただ、最終ミッションを何十回もやり直してようやく突破した時、真っ先に感じたのは達成感ではなく、「もうやらなくていいんだ」という開放感だった。やたらと脆い護衛対象や、厳しい制限時間に苛立ちを募らせる生活が、ようやく終わった。ようやく次のゲームに取りかかれる。私の中で『エースコンバット7』が、遊びではなく重責だったことに気づいた、悲しいゴールだった。

 ゲームが下手だから、老いたから、根性がないから。理由はいくらでも挙げられるけれど、私はエースパイロットにはなれなかった。ただ、それだけだ。

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