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碇シンジくんに伝えたい、YOU ARE (NOT) ALONE.

 劇場で『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:序』を観てきました。来年1月公開の『シン・エヴァ』に向けた過去作の再上映。何度も繰り返し観たはずなのに、劇場の大画面・大音響で鑑賞することで新たな発見にもつながる、素晴らしい試みだと思います。

 『序』に至ってはもう13年前の作品で、一人の人間が義務教育を修了するレベルでご無沙汰の劇場鑑賞となり、大変貴重な2時間を過ごさせていただきました。以下、鑑賞前後のツイートをご覧ください。

 エヴァで泣く。それ自体珍しいことではないのですが、よもや映画も序盤、わけもわからず招聘されたシンジくんがエヴァーに乗れと数年ぶりに再会したパッパから言われた挙句、助けを求めたミサトさんからは「なんのためにここにきたの」「逃げちゃだめよ、お父さんから、何よりも自分から」と正論めいた暴論で煽られ、終いには前任者(綾波レイ)がケガしていることを見せつけられ、空気を読んで「ぼくが乗ります」と言ってしまう、あの一連の流れ、涙が止まりませんでした

 前々から思ってたんですが、この一連の流れ、頭おかしいんですよ。まず、倒さなければ人類が滅びるとされる敵・使徒が現れる当日にパイロットとなるシンジを呼びつけるゲンドウ、「まずは歩くことだけを考えて」という実戦初日とは思えない指示を飛ばすリツコさん、敵に頭を掴まれた状態で「よけて!!」と無茶振りしてくるミサトさん等々、理に叶ってなさすぎる。死海文書あるから第4の使徒の襲来日は(少なくともゲンドウは)事前にわかってましたよね!?!?事前にちゃんと訓練とか説明とかしようよ、人災だろこんなの!!!!!

 大体なんなんだミサトさん。シンジと上手くコミュニケーションできないことを自責する幼い面が強調されてはいるものの、初手で「お父さんが苦手なんだ。アタシと同じね」とシンパシー感じさせといて、いざとなったら「乗りなさい」ですよ。「なんのためにここにきたの」って、お父さんに会うことと!!!巨大ロボット(エヴァーはロボットではない)に乗ってワケわからんやつと闘うのは!!!ぜんぜん違うだろ!!!!!!!!!よってたかって14歳を追い詰めないでよ特務機関。

 これらのエヴァー・ハラスメントを受けるシンジくんを観て、胃を痛める大人の観客も多いのではないでしょうか。そう、シンジくんが受けるこれらの苦難、規模のデカさは違えど、社会人の苦悩とまるっきり重なりますよね。ワケもわからず未経験の仕事を任されたり、そもそも引き継ぎや説明もないまま実戦に駆り出されたり、現場でのベストを尽くしても失敗や命令違反として周囲から叩かれる。挙句の果てに、仕事(エヴァーに乗る)がツラいと愚痴をこぼせば「ツラいのはお前だけやないんやで」という純・日本人しぐさによって是正されてしまう。

 シンジくん、14歳にして社会人が味わうであろう理不尽の大部分を経験し、大人への階段を否応なしに上がっている。久しぶりのオフはイヤホンで音楽聴きながら寝るというイヤすぎるリアリティまで披露し、運命を仕組まれた子どもたちの過酷さに、我が身を投影し泣き崩れるアラサー=かつて“チルドレン”だった企業戦士たちの慟哭が、スクリーンにこだまする。

 あぁ、シンジくんよ、キミは一人じゃないんだ。キミが頼るべきはネルフの大人たちじゃない。キミを救う人はtwitterにいるはずなんだ。弱音を吐いたり、エヴァに乗るのが怖いと愚痴ツイートしたって構わない。それを責めたり、クソリプかましてくるやつは、まぁ一定数いるだろうから、そこは上手いことブロックしていただいて、ご自分に都合のいい情報だけ摂取して、健全なタイムラインを構築してほしい。

 なんにせよ、コンプライアンスで雁字搦めになった現代日本のサラリーマンは、碇シンジくんの人生が搾取され、違法危険労働に従事させられていることに、たぶん義憤にかられ、「#ネルフは碇シンジくんを開放しろ」「#少年兵育成非人道組織ネルフ」とかハッシュタグ作って、社会問題にすると思う。その流れに負け、ネルフが謝罪会見して業務改善命令とかを国から出されて、人員の補充とか休暇の取得推奨とかでシンジくんらチルドレンの心と身体のケアがたぶん拡充されるはずだ。もう一度言う。キミは一人じゃない。インターネットの善意が、キミを悪い大人から助け出してくれるはずだ。たぶん。

 エヴァンゲリオンとは、95年のTVシリーズからずっと「人と人とのコミュニケーションの難しさ」を描いてきた作品だ。肌を寄せれば互いのトゲで相手を傷つけ、わたしとあなたを隔てるA.T.フィールドはどんどん厚くなり、次第に他者を拒絶するようになっていく。相互理解など不可能、不要な身体を捨て単一の個体としての種に進化しようとして、でもやっぱり他者がいない世界なんて恐ろしくて、その選択の果てにあるのは「キモチワルイ」の一言だけだ。

 そんなクソッタレな世界で、それでも「絆」めいた何かを頼りに前に進み、何度も裏切られながら、どうにかこうにか生きていく。旧劇場版で庵野氏は「アニメより現実を見ろ」と突き付けてきたわけだが、エヴァンゲリオンにおける哲学やシンジくんが辿る運命そのものが、私たちが生きる人生や現実と等しくシンクロしてしまうのは意図的なのだろうか、それとも皮肉な偶然なのだろうか。

 終盤、ヤシマ作戦にて砲手を担当し、結果としてこの星に住まう全ての命を背負うことになったシンジさん(もはや“さん”である)に、かろうじて闘う力を与えたのは鈴原トウジと相田ケンスケの言葉だろう。それは、仕事としての義務や責任感に訴える大人の論理ではなく、同年代からの飾らない素直な激励のメッセージ。YOU ARE (NOT) ALONE. 『新世紀エヴァンゲリオン』をリビルド(再構築)した『ヱヴァンゲリヲン新劇場版』、その第1作の副題として添えられたこの言葉は、人と人が争う地獄絵図を目の当たりにして(旧劇場版)、それでもなお他者と繋がろうとする不器用なキャラクターたちに贈る、作り手からのメッセージなのかもしれない。リモート環境を構築し何とか社会を回そうと全世界が奮闘しているこの2020年の今、図らずも本作のメッセージが鮮明に浮かび上がり、微かな希望を見せてくれた。

 ……とまぁここまで良いこと言った風なアレですが、我々はシンジさんが『破』『Q』でどんな目に合うのかを知っているので、この文章あんまり意味ないですね。続き観たら何か書くかもしれません。

つづく

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