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すっごい好きなのに手放しで喜べない『キングスマン ゴールデンサークル』のこと。
あけましておめでとうございます。今年もどうぞよろしくお願いいたします。
新年の挨拶はマナーの鉄則。マナーを守るのが紳士の務め。紳士と言えば『キングスマン』なわけで、新春一発目から景気の良い、人がたくさん死ぬ映画のご紹介です。
亡き師ハリーの教えを受け継ぎ、イギリスの諜報機関「キングスマン」のエージェントとなったエグジーの元に、巨大麻薬組織「ゴールデンサークル」の刺客が襲い掛かり、キングスマンの拠点はミサイル攻撃を受けて壊滅した。残されたエグジーと、教官兼メカニックのマーリンは、同盟組織の「ステイツマン」に協力を仰ぐため、アメリカに渡る。
誇大妄想を抱く犯罪者に奇想天外なガジェット、オシャレなスーツを着こなし華麗に任務を達成する。古き良きスパイ映画にオマージュを捧げた2015年の傑作『キングスマン』の、待望の続編です。これまた傑作『キック・アス』の原作者マーク・ミラーと、監督のマシュー・ヴォーンが再びタッグを組んだ話題作。
本作『ゴールデンサークル』は、まさしく正統派なパワーアップ型続編です。ド派手でポップなアクションは華麗さと残虐性を兼ね備えており、その密度は前作を超えています。愛すべきキャラクターの復活に加え、アメリカ版キングスマンたちのユニークな戦闘シーンも楽しく、観客を退屈にさせる隙を与えないノンストップ型のエンターテイメント性も持ち合わせています。
また、前作そのものがイギリスの階級制度への強烈な風刺であったことを踏まえるなら、今作の標的は「アメリカ」と「依存」がテーマになっています。大統領のビジュアルとその過激な政策は、あの人をモチーフにしていることは一目瞭然です。
みんな大好き『キングスマン』が、よりパワーアップして帰ってくる。そのことは非常に喜ばしいことです。特に、前作の印象的なシーンを再度なぞることでキャラクターの変化や成長を描く手法は、王道ながら観客それぞれの想い入れに直結する仕掛けであり、シリーズファンにはたまらない瞬間が何度も訪れる素敵な演出がいくつも散りばめられています。
一方で、前作が好きすぎる故に、私は手放しでこの続編を受け入れられなかった、という本音も同時に抱きました。本作では作風の一つであったグロ描写も強化されており、血や断面を描くことはなくとも何かしら“イヤ”なものを想像させるシーンがあります。前作でもハンバーガーが印象的なアイテムとして登場しましたが、あえてその点をより悪趣味に踏襲するあたり、マシュー・ヴォーンの悪意が感じられて思わず笑みが漏れます。
同時に、前作が映画史に残したあの名状しがたい何か、「教会」と「花火」のシーンの、あのどうしようもないカオスな魅力を超えられたかと言えば、「否」でした。通常なら憤りを感じるべき大量虐殺でありながら、作り手の倫理観を疑いたくなるような発想と映像のインパクトに圧倒され、呆れを通り越して笑うしかなかったあの名場面。差別主義者やスマホばっかり見てる金持ちは殺してもいい、という過激すぎて文章化すら躊躇ってしまうそのメッセージに、私は大スクリーンに釘づけになってしまったのです。
今回の『ゴールデンサークル』鑑賞にあたり、どうしてもこの二つのシーンを超えて欲しかった、あの笑うしかない阿鼻叫喚の地獄絵図がまた観たかった、という期待を抱えていたことは否定できず、それが満たされなかった故に一抹の物足りなさを覚えた、というのが今の面倒くさい心情です。この点に関しては正当性を欠いた個人的な主張であることは批判を免れませんし、「期待してたのと違った」からこんな物言いをされては、作り手からすれば傲慢にも程があります。
誤解を解くためにあえて言いますが、『キングスマン ゴールデンサークル』は続編として求められるハードルに対し、予想を遥かに上回るテンションで乗り越えた傑作であり、陳腐な言い方ですが、良く出来た面白い映画なのは間違いありません。麻薬の恐怖を訴えた物語であるにも係わらず、アクションシーンがドラッギーなあまり何度でも観たくなってしまう中毒性を孕んでいることが可笑しくて仕方ありません。これだけ文字数を重ねておきながら言うのも何ですが、『ゴールデンサークル』は「大嫌い 大嫌い 大嫌い 大好き Ah♪」な感じです。みなさんもハンバーガー片手に、劇場に足をお運びください。
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