『アイカツオンパレード!』光の中で輝けるものたちへ。
生きながらに走馬灯を観たことがある。
例えば、『アベンジャーズ/エンドゲーム』。アメコミの世界から飛び出したヒーローとヴィランとの闘いは映画という一つの文化を連続ドラマ的な在り方、すなわち「ユニバース」へと変容させ、その10年の集大成は数多の作品が一つの線で結ばれ、それを見続けてきた自分をも取り込んでしまう、壮大な体験だった。見守ってきたからこその感無量、人生の節目節目にMCUがあったことを、スクリーンと対峙しながら思い出していたのだ。
それに近い何かを、日本のTVアニメで感じるとは思いもしなかった。『アイカツスターズ!』の1話を再生したのが2021年の7月、実に一年半という長いようで短い旅の途中、公私共々に色々あったこと、その隣にはアイカツ!の楽曲と、作品を通じてSNS上で出会った人々との交流があった。
そんなことを思い出しながら、アイドルたちが世界の壁を超えて共演する『アイカツオンパレード!』をwebアニメ含め鑑賞した。順番は逆転したが、無印〜『プラネット!』までのアイカツ!本編を完走して、そのエンドマークをこのアニメで締められたのは、数奇な運命だったな、と思ってしまう。
『アイカツ!』『スターズ!』『フレンズ!』と続いてきたアニメシリーズの総決算として2019年に放送された『オンパレード!』は、後に実写+アニメという挑戦を果たした『プラネット!』が製作されたことを思えば、これまでのシリーズの歴史に一区切りを打つための、賑やかなお祭りのように感じた。世界観の垣根を超え、アイドルたちが交流し、時にコラボステージを披露する。ファンはアイドルたちとの再開を楽しみ、彼女たちの成長に涙し、サプライズ的にお披露目されるコラボステージに感情をかき乱される。
こんなに出し惜しみがなく容赦のないものを土曜朝にお出しされて、それをちゃんと咀嚼されていた先輩方には尊敬の念を禁じえない。自分なら終日身動きが取れなくなっていたと思う。それほどの何かを、本作は毎週送り出し続けた。
怒涛のクロスオーバーに殺される
『アイカツフレンズ!』の世界に生きる中学2年生の姫石らきは、アイカツエンジニアである姉のさあやが開発したアイカツパスによって別のアイカツ世界に行き来できるようになり、結果として全てのアイカツ界が一つになる……というどこぞの10周年記念作じみた展開から始まる本作。らきはピュアパレットの二人と共にスターライト学園や四ツ星学園を訪れ、数々のアイドルや彼女たちのドレスと出会い、経験を積んでいく。
『スターズ!』には限定的に前作のアイドルが登場するコラボ回があったものの、こうして全編に渡りアイドルが共演し続けるのは(アニメ本編においては)本作ならではのセールスポイント。世界を跨いでのアイドルたちの交流はそれだけでファンにはご褒美だし、出会いを通じて刺激を受けた彼女たちの全く新しいアツいアイドル活動に触れることが出来て、本作の「走馬灯度」は否応がなく高まっていく。
アイドルたちの本編終了後の姿が描かれるということは、らきの世代にとっては誰もが「先輩」である、ということ。経験を積んで頼もしく成長した彼女たちが、若い世代を導きながら「SHINING LINE*」を繋いでいく。大空あかりや虹野ゆめたちが下の世代を引っ張っていく姿はそれだけでこみ上げるものがあるし、「憧れが次の憧れを生む」ことを尊ぶアイカツ!なのだから、本作が世代を意識した作りなのは意図してのものだろう。ただの懐古企画なのではなく、TVシリーズを経たその後の彼女たちと再び会えるからこそ、『アイカツオンパレード!』はアイカツの輪がその先も続いていくことを予感させる、とても華々しいお祭りになっていた。そのことがまず嬉しい。
そうした本作の堅実な作りとは裏腹に「油断ならねぇ」と常に緊張感さえ抱かせていたのは、時折挟まれるコラボステージの存在。なんと2話にして虹野ゆめと湊みおの「STARDOM!」を披露し、ライブステージが過去作の流用なのか……と思わせておいての不意打ちで驚かせるのみならず、「EDはどの曲が選ばれるのか」「帰ってきた!アイカツ学園では誰と誰が喋るのか」「次回予告でどのアイドルが映るか」に至るまで、24分の鑑賞中つねに驚きが待ち構えているワクワク感。びっくり箱の小春ちゃんどころの騒ぎでは収まらない驚愕、毎話毎話何かしらに殺されているような、ぜんぜん穏やかじゃない鑑賞体験が続く。
突然のサプライズについては、枚挙にいとまがない。物語が進行している間、セリフがなくとも背景には常に誰かしらが交流しているし、20話の「ご当地アイドルフェスティバル」や21話の「アイカツ!大運動会フェス」は目に写ったアイドルの名前を全部言っていく、いわゆるおもちゃ屋の幼児と化してしまうほど。以下、死因を列挙する。
STARDOM!(みお・ゆめver.)
久しぶりの Message of a Rainbow
アイデンティティ(ミライ・あかりVer.)
天羽先生
アコガレカスタマイズ(いちご・らきVer.)
ネオヴィーナスアークにWMが乗船(??)
アイカツトップガン(????)
Take Me Higher(美月・エルザ・ひびきVer.)
(??!!!?????!!???!??)虹野ゆめ・大空あかりがフレンズ結成
モアザントゥルーED
ママザ・フォルテ
実質堂島ニーナ主役回
アイドル楽隊サンメガミ
アイドル楽隊サンメガミ?????????
18話における後方腕組彼氏の瀬名翼
カレンダーガール(ソレイユ&ルミナスVer)
ダイヤモンドハッピー(ピュアストロベリーパレットVer.)
スタートライン!(美月・ひめVer.)
22話と23話の全部
ゆめ「らきちゃん!みんな輝いてるよ!!」
SHINING LINE*
(いちご・あかり・ゆめ・ あいね・みお・らき ver.)webアニメ最終話の星宮と大空
アイカツ!新参のこの身で抜粋してもこの数と殺傷度。初期から追っていたファンはこれ以上の「死」を体験したに違いない。
このように、『アイカツ!』シリーズの資産、すなわちキャラクターと楽曲をシャッフルして、時に交差させて織りなす物語や新たな関係性はどれを取っても喜びしかなく、何が起こるかわからないというお祭り感は一瞬たりとも途切れなかった。それでいて過去作の余韻を壊したりすることなく、セリフの細部まで気を配ったであろうコラボレーションには、その全てに拍手を贈りたい。ただしちょいちょい作画が怪しい。
姫石らきの「継承」の物語にぐちゃぐちゃにされる
1話の限られた時間の中で2~3ステージをこなし、数々のアイドルを登場させなければならない都合上か、縦軸となるメインストーリーは冒頭から明示され、混線することなく飲み込みやすく、それでいて「アイカツ!とは何か」を巡る結論にまで発展していくという、クロスオーバーの醍醐味に耽溺することなく一本の物語としても高い完成度を有する本作。そのストーリーの中心にいるのは、これから羽ばたいていく若き姫石らき。
らきの夢は「自分だけのプレミアムレアドレスを着てステージに立つ」こと。アイカツ!において「芸能人はカードが命」であり、そのカードに紐づくのがドレスになるわけで、アイカツ!を総括する本作の題材選びとして的確と言える。そんならきは、他のアイカツ!界に飛ばされてもとくに動じず、嬉しいことや幸運なことが起きれば「ラッキー!」と決め台詞を吐いて受け入れる、どこまでも元気で明るく、裏を返せば世間知らずな少女。若いということは経験が薄く、故に視野はまだ狭い。そのことを如月ツバサやエルザ・フォルテというか叱り役はスターズ!が担当に指摘され、らきは徐々に「プロのアイドル」としての在り方を学んでいく。
プロのアイドルの使命とは、自分と共演者やスタッフ、そしてお客さんを笑顔にすることである。そのことを先輩方の背中から学んでいく中で、らきは自分のドレスを少しずつ形にしていく。エルザにキツいダメ出しをされても諦めず、結果がついてこないことがあっても努力だけは止めなかった。そんならきが導き出したモチーフは、人と人を繋ぐ縁、「結び」をリボンに託した「リルリボンストーリーコーデ」。
アイドルとして天性の才能があるわけでもない、まだまだ未完成の姫石らき。そんな彼女が選んだのは、自分一人で輝くのではなく人との繋がりの中で育まれる、絆の輝き。これまで出会ったアイドルから得た学びを吸収し、それを還元していく彼女ならではの「結び」のドレス。ありがとうを伝えるためのステージで披露される、ソロでの「君のEntrance」のパフォーマンスにおいて、オープニングとして何度も聴いていた歌詞がまた違った質感を帯びてくる。
自分のプレミアムレアドレスという夢を叶えたらき。彼女の次の夢は、学園の垣根を超えた大型ライブを成功させること。人と人とを繋ぐ彼女らしい新しい目標は、「アイカツオンパレード!」というファンが観たかった別の夢へと接続していく。
22話・23話の衝撃
選曲やコラボステージにおいて、序盤から一切の出し惜しみの無い本作だが、そのボルテージは終盤においてさらに跳ね上がる。
「アイカツオンパレード!」開催に向けて意気込むらき。出演者も会場もトントン拍子で決まっていく中、怖いもの知らずのらきはレジェンド・神崎美月にも怯むことなく出演交渉するのだが、厳しい言葉が返ってくる。
らきの企画は、先輩たちの優しさによって成り立っている。では、そこに姫石らき自身の努力はあるのか、という問いを投げかける美月。
もちろん、ここまで準備が順調なのは先輩たちの功績が大きいものの、それを手繰り寄せるらきの人脈、あるいは「協力してあげたい」と思わせる彼女の人徳もまた姫石らきの実力なのだが、「これはらきの作ったステージではない」と一刀両断する姿こそ、孤独の努力の人だった神崎美月"らしい”。どことなく初期の彼女を彷彿とさせる話運びに、熱が増していく。
対するらきは、おとめたちの提案も断って、自分で会場選びから企画することを自らに課す。結果として小さなステージになってしまったけれど、手作りのステージを誰の力も借りずに作り上げた彼女を先輩方は称え、パフォーマンスでそれに応じる。そして神崎美月もトライスターを引っさげてサプライズ登場する。この大人気ないところもめちゃくちゃ「神崎美月」すぎるし、その上でラストの「姫石」呼びにはとてつもないカタルシスが押し寄せる。アイカツ界を盛り上げるために時に観客さえも巻き込んでしまうところ、やっぱり神崎美月なんですよね。
さて、少し自分語りを挟ませていただくのなら、私個人がシリーズの中で最も好きな作品を選ぶとしたら、やはり『アイカツスターズ!』になってしまう。最初に観たアイカツ!だから、という補正も否定できないのだが、他作品よりも苛烈で、勝負には勝者と敗者がいること、努力が必ずも実るわけではないというシビアな面も描きつつ、夢に向かってひた走るアイドルたちの姿は美しかったし、幾度となく涙した。なりたい自分に向かって輝きを求めるアイドルたちの生き様は、暗い気持ちを跳ね飛ばすほどのエネルギーに満ちていて、受け取ったものが最も大きかったからこそ『スターズ!』は心の本棚があるとすれば一番目立つところに置きたくなってしまう、そんな一作だった。
その『スターズ!』にフォーカスした23話では、四ツ星学園でのライブの本番当日、トリを飾る白鳥ひめがいなくなってしまうところから幕を開ける。自分が企画したライブに責任があるからこそ、失敗してはならないという気持ちでらきは動揺してしまうのだが、そんならきを優しく手助けする虹野ゆめ。真昼やあこも彼女を心配し、S4の面々もひめの帰還を信じながらステージを進行させていく。
四ツ星の各組が協力しあって一つのライブを回していく様子は、彼女たちが若くしてプロとしての意識をハッキリ持ち合わていることが伝わるし、ローラや芦田が裏方として走り回っていると、それだけで彼女たちの手作りのライブなんだと実感できて、嬉しくなってしまう。そんな折、白鳥ひめはらきにだけ電話で真意を明かす。
お客様を喜ばせるためにとはいえ主催には報連相しようね☆コラボステージを取り付けたひめ。彼女がステージに立たせたのは……神崎美月!?
コラボステージだって言うのにバチバチに火花散らしてる美月さんと、涼しい顔してそれを受けるひめ先輩。現地チケット取れなかった配信勢(いるのか?)の苦悶の表情が浮かぶ中、彼女たちがステージで歌い踊る曲は、そう、「スタートライン!」。
まだアイドルになる前の虹野ゆめが観た、白鳥ひめのステージ。そこで歌われたこの曲は、いわばアイドル・虹野ゆめが生まれるきっかけになった曲なのだけれど、そこに神崎美月が加わるとどうなるか。言うまでもなく神崎美月は星宮いちごの憧れの存在であり、神崎美月なしにアイドル・星宮いちごはあり得ないのだ。そんな始まりの存在、憧れを受ける頂点のアイドル二人のステージ。「白鳥ひめと神崎美月がスタートライン!を歌う」という一文だけでアイカツファンなら卒倒するレベルの文脈が乗ったそれは、計らずも設けられた星宮いちごと虹野ゆめへのご褒美となった。かくして、観客のみならず全アイドルをこれ以上ない笑顔にしてみせた白鳥ひめの完全勝利によって、最高のステージが誕生したのである。
SHINING LINE*
ついに訪れる、お別れの時。一つになったアイカツ界を引き離すことで、世界は元通りになる。
その直前、らきは自分のファンだというこころちゃんという少女と出会う。憧れのアイドルと対面した時の瞳の輝き。それはいちごやゆめ、あいねとみおにとっても覚えがあるもので、らきもついに誰かに元気を与え、憧れを受ける側になった。
いちごたちかららきへ、らきからこころちゃんへ。未来へ続いていくアイカツの輪を見送って、最後のステージを飾るのはもちろん「SHINING LINE*」。
『アイカツオンパレード!』はアイカツ!を総括するものであり、同時に姫石らきの物語でもある。そして、彼女もまた「憧れが次の憧れを生む」ラインに上がった瞬間、その時こそ新しいスタートラインが始まる。別れの寂しさはあれど、最終回は新しいアイドルの誕生を祝福する喜びに満ちていて、遠く離れていても同じ光の中で輝き続ける彼女たちの絆は永遠だ。
そしてこれは、アイドルの輝きを信じ、そこから受け取ったものを胸に生きている私たちにとっても祝福の鐘になったように思える。いちごやゆめ、あいねにみお、そしてらきの世代のその先、ずっとずっと先の未来へと、この光のラインは繋がり続けていく。
アイカツ!は終わるのではないか
そんなことを考える日々が続いていた。プラネット!筐体の撤退、2月のライブには「FINAL」の文字、そして「卒業」をテーマにした新作映画。コンテンツとしての行く先についてアナウンスが無い今、不吉な想像はどれだけ重ねても和らいだりしない。12が月連続CDやライブが終わったら?そこで新シリーズの発表がなかったら??と、何度も何度も考えては泣き出しそうになった。
そんな不安な気持ちを鎮めてくれたのは、本作をもってアイカツ!とは「続いていく」物語だと再確認できたから。「SHINING LINE*」がある限り、先陣たちの光に続いて無数のアイドルが羽ばたいていく、アイカツ!は受け継がれて、続いていくんだと信じられる。たとえそれがアニメの中の出来事でも、そこから受け取った気持ちは本物だって、そう教えてもらったような気がする。
夢のようで夢じゃなかったアイカツ!界で過ごした時間の中から、「リルリボンストーリー」のカードを受け取った姫石らき。彼女は自分で自分のスタートラインを切った。今度は、こちらが『アイカツ!』から受け取ったものを活かしていく番になるだろう。
最後に、『アイカツ!』を観るきっかけをくれた人、アイカツ!行脚を見守ってくれた人、皆さんに感謝申し上げます。皆さんが紡いでくれたアイカツ!への愛、「SHINING LINE*」の果てに、今日という日を迎えられました。楽しかった。本当にアイカツ!を好きになれてよかった。ありがとうございました。今度は誰かにリボンを渡せる側になれますように。