創造神を称えよ!!『#バーフバリ絶叫』監督&P来日レポin新宿ピカデリー(4.26)
王には王たる所以がある。蛮族・カーラケーヤとの闘いの最中、囚われた民の命を救いながらも勝利を収めたアマレンドラ・バーフバリを国母が称えたように、国民を愛する心と、どんな困難からも守り抜く力を持つ者こそ、真の王たる器なのである。
そして配給会社ツインにも、公式が公式たる所以がある。インドカレーやビリヤニを求めてインド料理店を探し回り、出演者の過去作のDVDを本国から輸入し、挙句の果てには“机の上にあるバナナ”にまで妄想を膨らませるほどに過激派と化した王国民の狂乱に対し、さらなる火種を投下すること。しかもそれは、誰もが一度は夢見て、諦めつつあった大いなる願い。そう、製作陣の“来日”である—。
4月7日に行われた狂気の宴「バーフバリ絶叫オールナイト」でサプライズとして発表された、我らが創造神ことS・S・ラージャマウリ監督と、ショーブ・ヤーララガッタPの来日舞台挨拶付絶叫上映。深夜開催にもかかわらず駆けつけた王国民を本編開始前に絶叫させ、結願成就の喜びに身もだえしつつ、誰もが壮絶なチケット争奪戦を予感したこの来日騒ぎは、大手映画サイトでも広く告知されたことで瞬く間に浸透し、日本のバーフバリブームを世に知らしめた大事件へと発展した。ファンへの手厚い福利厚生に定評のあるツインが成せる神の凱旋、いや“降臨”に対して、さすがの王国民も動揺したのか、突如某レンタル店から『マッキー』のDVDが消える、サリーの需要が高騰するなどの奇行がネットでも囁かれるようになり、今キーボードを走らせているこの私も「4/26に有休を取るための口実」しか考えられなくなるほどに全神経を集中させていた。もしチケットが取れなかったら…それはまるで“死”にも近い恐怖として、王国民の心に住みついていた。
そして迎えたチケット発売日。自動的に整理番号が振られる新宿ピカデリーのチケット販売システムだが、祈るように座席選択画面に進んだのは23時58分を15秒ほど周ったころ。24時(0時)ジャストのタイミングで整理番号が2桁になるよう祈ったその想いも虚しく、販売開始の24時を超えても自分は400番台。1分、2分、刻一刻と刻まれていく時間と徐々に数字が減っていく整理番号。それは同時に、残り席数も減っていくことを意味している。心臓は高鳴り、嫌な汗が滲む。たかが映画のチケットの予約と思うことなかれ、王国民にとっては生死にもかかわるほどの一大事であったのだ。
そして私が選択画面に進んだのは0時2分の頃、誰もが羨む最前列が黒く埋まっていることを確認すると、滑り込むように目に入った白い座席(未購入の座席)を指でタップし、決済画面に進んだ。運よく最前から3列目のC列中央右側通路寄り。決して最善とは言い難いが、それでも座席を得ることができただけで、これまで抱えていた不安は歓喜へと昇華された!!おお、神よ、シヴァ神よ!広大無辺の守護神よ!!
かくして、王国民の悲喜こもごもの争奪戦は、またしても数分の内に決着が着いた。座席を得た者得られなかった者、あるいは4/26までに様々な事情で座席を放棄しなくてはならなかった者もいただろう。そんな中、誠に残念なことに、購入したチケットをオークション等で高額な値段で販売する、いわゆる“転売”の行為が見受けられたことは、記録に残しておかなくてはならない。あの壮絶な争奪戦の中に、作品を愛し創造神の御姿をこの目に焼き付けんとする王国民を押しのけて、邪まな想いを持った者が潜んでいた事実。それはバーフバリブームの肥大化を物語る証拠でもあるが、劇場・配給・ファンの熱意を踏みにじる行為であることは、強調しておくべきであろう。
これに対し、多くのファンは「通報」という形で毅然とした態度を示し、転売されたチケットには手を付けず立ち向かった。正義に背いた者は、首を切られ、奈落に堕ち、業火に焼かれる。新たな王に即位したマヘンドラ・バーフバリの教えを実行したかのように、多くの国民が許し難い行為にNoを突き付けたこと。これを“ファンの総意”とみるにはいささか主語が大きすぎるほどに主観が過ぎるのは承知で、私はこの民度に深く感動し、マヒシュマティ王国民の団結の力を、そこに見たのだった。
かくして、筆者も入国ビザ(座席チケット)を取得し、創造神の御姿を眼に焼き付け、同じ空気を吸う権利を得ることが出来た。バーフバリを愛する者の一人としてこのような機会に立ち会えた全てに感謝しつつ、その模様を出来る限り書き残しておきたい。民の熱狂が少しでも伝われば、幸いである。
筆者が参加したのは16:40の回。もはや絶叫上映の風物詩となりつつある光景だが、新宿ピカデリーのロビーではサリーを着た女性が多数入場しており、ここは本当に日本かと我が目を疑う景色が広がっていた。また、別の恒例として挙げられる特製の“うちわ”文化にも変化があり、今回はラージャマウリ監督とショーブP仕様のうちわを拝むことができた。キャストではなく制作陣のうちわの登場に、王国民の並々ならぬ期待感が察せられる。
いよいよ迎えた開場の時。スクリーン1の扉前には『王の凱旋』の通常版(インターナショナル版)と6月公開の完全版の両方のポスターが掲示されており、みな足を止めてシャッターを切る音が鳴り響いた。舞台挨拶を控えたこちらのスクリーンでは、安全面と取材陣のスペース確保のためか最前列は空席が設けられていたが、2~5列目付近は絶叫上映常連の王国民が名を連ねており、筆者もC列という好条件に恵まれた。
改めて確認をしておくと、バーフバリ絶叫上映とはペンライトやキンブレ等の光物、タンバリンや鈴の使用が許可された、発声可能上映のことである。音と光で場面とシンクロさせ、各々が愛のあるツッコミや歌唱を添えることで、作品を体全体で楽しむイベントである。そして今回はその絶叫上映の中でも特別すぎる回ゆえか、おなじみのV8Jスタッフによる前説も、テンションが当社比3割増しくらいの印象で、創造神を迎える空気を作り上げる。対する王国民ももう待ちきれない、といった様子で、その想いはツインのロゴが映った際の「ありがとー!!」の大絶叫からひしひしと伝わってきた。
冒頭のタイトルクレジットでは、ラージャマウリ監督とショーブPの名前が映ると、大絶叫が響いた。『王の凱旋』絶叫上映も数を重ねてきたが、意外にもこういった制作陣を称える発声は中々お目に掛かれず、今回の特別さを物語っていた。前説の段階では、創造神が場内の様子を何らかの形で見ている、というアナウンスがあり、直接熱狂ぶりを伝えられるだけあってか、場内のテンションもやはり過去の回とは異なっていた。絶叫上映は生もの、二度と同じ回は有り得ないということを、改めて意識してしまう。
さて、バーフバリは2時間半に渡る広大なドラマであるが、体感時間が恐ろしく早い。これだけ濃密で壮大な作品でありながら、あっという間に終わってしまう、不思議な映画体験をもたらしてくれる。あるいは、早く謁見したい!という気持ちが脳の処理速度を速めているのか、今回の絶叫上映本編は光の速さで過ぎ去っていった。今回はバラー派よりもバーフ派優勢だったとか、謎の「バナナ」コール誕生に爆笑、などと多々特筆すべき点があったはずだが、どうしても意識が本編終了後の舞台挨拶に向かっていたようだ。本当に情けない話ではあるものの、絶叫上映経験者も初体験者も、最後はバーフバリコールで締め、互いの健闘を称えあい、配給会社ツインや新宿ピカデリー、企画のV8Jへ惜しみない感謝と拍手を送った。
そしていよいよ、謁見の時間が訪れた。続々と訪れる取材陣と、慌ただしく準備を進めるスタッフの姿に、否応が無く緊張が走る場内。場内には「Saahore Baahubali」が流れ、王国民が自然と歌いだす中、にこやかな笑顔と共に、神が、民の前に、姿を現した。
寛大なことに、舞台挨拶は撮影が可能なため、その御姿をシャッターに収めることができた。緊張のあまり震える手を抑えきれず、このような不恰好な写真になったものの、お二人の終始にこやかなムードが伝わるだろうか。我々が勝手に「神」と崇め奉ったものの、厳格さとは無縁のその笑顔に、どうしても「可愛い…」という言葉が口からこぼれた。
まずラージャマウリ監督から、挨拶は「ナマステ」と「コンバンワ」の2段仕込み。舞台裏で練習したのかと思うと、微笑ましくてヤバい。そして監督はtwitterを通して日本の絶叫上映の様子を見ており、こうして生で体感できることを「夢のよう」と語った。こんなに嬉しいことはない、と言わんばかりに場内には大きな歓声が沸いた。
同じくショーブPも、twitterを通して日本のマヒシュマティ国民の熱狂ぶりをチェックしており、それらをリツイートしていることを語った。今やネットにより国を問わずコミュニケーションが可能な時代。我々日本のブームが本国に伝わっていることを、本人の口から聞くことが出来、またしても大歓声がこだまする。
続く質問では、本作の企画の発端を振り替えることとなり、ラージャマウリ監督は脚本を担当した実父が創造したキャラクターから、ストーリーを構想したことを明かした。その結果として、一本の映画では収まりきらないことを悟り二部作にしたものの、完成までに5年の歳月と多額の製作費がかかったことを笑い混じりで語った。キャスティングに関する話題では、それぞれの役者に自身が主人公であるかのように伝えることで、壮大な物語をコントロールしたことを告白。
インド映画史上でも最高額の製作費が投じられた『バーフバリ』だが、その資金集めについてショーブPが語るには「一作目は苦労した」とのコメントが。資金の調達は主にスタジオの協力と個人の出資、プリセール(配給権の売却のこと)によって行われ、ラージャマウリ監督や主演・プラバースの人気あっての資金調達であったことを語った。
そして話題は、本国インドでの上映の様子に移った。インドでは映画が一番の娯楽であり、観客の熱狂もとにかく尋常ではない。ラージャマウリ監督曰く、「俳優の声が聞こえないくらい絶叫していて、スパゲッティを上に投げる人もいる。何を観にきたのかわからない」と驚きの事実を語る。そして監督は日本の絶叫上映を「本編とシンクロしている」と分析した。ショーブPも、絶叫上映ではおなじみの「コスプレ」についても、インドではほとんど見られない習慣であると証言した。日本の熱狂の独自性が創造神にも印象強く残ったのか、個人的にはこの上ない喜びであった。
フォトセッションでは、キャラクターに扮した参加者と共にカメラの前で変わらぬ笑顔を見せ、観客に手を振る一幕もあった。本編同様、サービス精神旺盛な二人に、王国民も喜びの笑みが止まらなかったのではないだろうか。最後に監督は、日本でも6月公開となる完全版の見どころについて聞かれると、「息子と娘のどちらかを選べと言われているようなもの」と前置きしつつ、作品のエモーションや余韻、アクションについても長く楽しめる、と語り、さらに期待を煽った。続編については、「優れたストーリーが浮かび次第」とし、場内はまたしても大きな拍手に包まれた。
本編同様に、あっという間に舞台挨拶も終了の時刻となった。最後にラージャマウリ監督は「日本での思い出をお土産にしてインドに帰る」と語ると、王国民は大きな拍手と、バーフバリコールでそれに応えた。どこからともなく聴こえる「ジャイホー!」の大号令は、すばらしき世界観を作り上げた二人への感謝が詰まった、心からの絶叫に違いない。そんな暖かい雰囲気の中、奇跡の絶叫上映は幕を閉じた。
夢のような時間は瞬く間に過ぎ去るものだが、これほどに濃密で、計り知れない興奮と喜びに包まれる体験も、そうはないであろう。作品を愛し、劇場に通いつめ、その熱い想いを発信し続けたファンにとって、4月26日の夜はまさしく全てが「報われた」一夜であった。とくに、『伝説誕生』日本公開時から追いかけ続けた王国民にとっては、今日の結願は何よりの幸福であったはず。
そしてもちろん、その声に応える形で来日を実現させてくれた配給会社ツイン、最大スクリーンをあてがってくださった新宿ピカデリー、そして日本のバーフバリブームに大きく貢献したことは間違いないV8J絶叫上映スタッフの方々には、改めて感謝申し上げます。作品を愛し、その想いが成就すること。決して簡単な道のりではなかったはずだが、作中の言葉を借りるのなら「願いは叶う」ことを証明してみせた。そんな奇跡の一夜の記録を、愛と信頼の花束と共に捧げます。
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