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『ASTRAL CHAIN』とは結婚まで行けると思う。束縛がキツいけど。

 昨年の秋、ぼくは一人の女性とお別れをした。彼女の名前は『ベヨネッタ3』という。

 別れた理由は、ぼくにある。彼女は実に貪欲で、新しいことも面白いことも全部やろう!というポジティブさを保ち続けているのに対し、ぼくは彼女のサービス精神のようなものについていけなくなっていた。いつまでも前作のままじゃいられない!と、新しいドレスを着こんで舞踏会に旅立っていく彼女に対して、「そのままでいいよ」と相手を気遣った風を装いながら、自分の理想の箱に押し込めようとするぼくの醜さは、ひどく浅ましいものだった。

 彼女はいつまでも歳を取らない美魔女だが、こちらは年々老いていく。身体も無理が効かなくなっていったし、ゲームに割ける時間も減っていく。だがそれでも、ゲームは好きなのだ。敵の猛攻を潜り抜け派手な攻撃で一気呵成に攻め込んだり、目の前の屈強なボス敵をどうやったら倒せるのかと頭を悩ませたりといった体験を、まだまだ求めている。

 ところで、ぼくは世にも珍しい「ニーア オートマタを途中でリタイアした」人間でもある。つまり、プラチナゲームズくんが紹介してくれた女性に二連敗、2アウトの状態なのだ。これは由々しき事態だ。プラチナくんと相性が悪いということになれば、これまでの蜜月も終わりを迎えてしまうかもしれない。高品質・好レスポンスなアクションを手掛けることで知られるプラチナゲームズくんのゲームに対し「ちょっと味が濃くて量が多い。☆2つ」とか言い出したら、老害もいいところである。

 自分のゲームセンスが錆びていくのを、ただただ見送るだけの余生にはしたくない。それに、老いはすれど分類的にはまだまだ壮年だぞ!ということを声高に叫んでいくために、三度目の正直でプラチナゲームズくんからゲーム運命の相手を紹介してもらうことにした。今度こそちゃんと大人の男性として、相手とのちょうどいい距離感を保ったまま付き合っていこうと思う。

 さて、この『アストラルチェイン』なるゲームだが、作品の重要なモチーフがなんと「束縛」である。適切な距離感で交際しよう!と意気込んだ5秒後にこんな破局まっしぐらのワードを繰り出すことになるとは、ロマンスの神様は残酷でスキーをしない陰キャには優しくないらしい。

 そして、作品世界に住む人類が置かれた状況も、負けず劣らずハードである。ある日、異次元に通じる扉(ゲート)の影響で地球は汚染され、キメラと呼ばれる侵略生命体が人々を襲い次元の向こうへと連れ去ろうとする末法の時代。地球の約9割が汚染され、人類は最後に残された人工島「アーク」へと逃げ込むが、そのアークもまた徐々に汚染されつつあり、人類滅亡が間近に迫っている、という状況。そんなキメラや汚染への唯一の対抗手段が、捉えたキメラを人間が制御できるように「アストラルチェイン」と呼ばれる特殊な鎖で捕縛し使役する兵器「レギオン」である。拘束具をはめ、自分の意に沿うよう相手を支配するという、恋愛の指南書としては一切お手本にしてはならないモラハラ具合だが、人類の滅亡がかかっているので、四の五の言ってはいられない。主人公はレギオンを扱いキメラ事件に対応する警察内の秘密組織「ネウロン」の一員となり、様々な怪事件に対処していく。

 本作のアクションのキモは、主人公とレギオンが連携し闘う「デュアルアクション」と呼ばれるもの。レギオンは近くの敵を自動で攻撃するので、プレイヤーはレギオンを敵に放ったり逆に攻撃を回避するために引っ込めたりと、要は「猟犬と飼い主」のロールプレイをすることになる。して、この猟犬は実に好戦的なので、近づく者を容赦なく切り刻んだり凹ませたりするが、二人が別々の敵を攻撃するよりも、連携して同じ敵を叩いた方がよりダメージを稼げるため、プレイヤーは常に二人のキャラクターを掌握しなければならない。

 最初こそレギオンのリリースだけで単調に思えるが、スキルを習得しアクションの選択肢が増えると、本作は途端に深みを増す。本作は鎖のモチーフを活かし、レキオンが敵を囲むようにして鎖で縛り付け相手を拘束する、突進してくる相手に鎖を引っ掛け投げ飛ばすといったアクションで敵の身動きを制限することができ、そこからさらに主人公とレギオンの連携技である「シンクアタック」に派生させることができる。コマンドそのものは単純で、複数の敵が画面に写ってなくともお構いなく攻撃してくる激しい戦闘の中、いかにして相手の猛攻を差し止め、攻撃に転じられるかを考えながらフィールドを駆け巡るバトルは、その忙しなさが脳のリソースを加速度的に食い破る点で『Doom Eternal』の遺伝子を感じさせる。

 レギオンに攻撃を任せ、自分は安全圏から銃でチマチマ闘うのも、それはそれで一つの戦術だ。だが本作はプラチナゲームズ製、積極的な攻撃の姿勢こそが活路を切り開くような硬派な難易度に仕上がっている。

 主人公の武器となる警棒/銃/大剣の機能を切り替えることができる「エクスバトン」はとてもクールで、主人公は流麗でキビキビしたレスポンスで連撃を繰り出すことができる。シンクアタックは強力な攻撃手段だが、主人公とレギオンの密な連携が必要だし、一部の特殊演出が発生するものを除きそれを繰り出している最中は無敵というわけでもない。故に、敵の攻撃を潜り抜け「ここでシンクアタックを出すか?出さないか?」の駆け引きが発生し、判定が甘めのジャスト回避で発生するスローモーションはプレイヤーに自身のテクニックを過信させるだけのスタイリッシュさがある。キャラクターを動かすだけで気持ちがいいというのは、アクションゲームとして何にも代えがたいミソの部分であることは過言ではないはずだ。プラチナゲームズの作品には、常にそれがある。

 さて、取れる選択肢が多いということは、操作が複雑になることをも意味する。とくにレギオンの操作が右スティックに割り当てられたことで、カメラワークが制御できず敵と自機の距離を見失ったり、思い通りの敵に攻撃を仕掛けられなかったりといった軽微なストレスが、地味に積もり積もっていく。また、本作はフィールドを探索する際にちょっとした謎解きやプラットフォーム(足場渡り)アクションを強要されるのだが、主人公は自らジャンプができず、移動先にレギオンを飛ばし自分がそこに引き寄せられる「チェインジャンプ」を駆使することになるのだが、オブジェクトに引っかかって落下、着地時にふんばりが効かないせいで落下……と、戦闘以外の要素がストレス要因になるところもこれまた『Doom Eternal』と同様だったことは得たくない気づきであった。

 とはいえ、相手の欠点も込みで愛するのが大人の恋愛であるとするのなら、これらはまだ受け入れられる程度に過ぎない。むしろ、自機とレギオンを操作し敵の動きを拘束、圧倒的な連撃を叩きこむ本作ならではのアクションパートの快感が、他の粗を無かったことにするレベルで強烈であり、今のおれはハッキリ言ってアストラルチェイン中毒になっている。チュートリアル時に感じた「覚えられる気がしない」という不安はいつしか「もっと闘いたい」と血が沸き立つエンドルフェインに代わり、小気味良いSEと共にキメラをバインドしシンクアタックを叩きこみたくてウズウズしている。

 体験版が存在しないので気軽にレコメンドできず、この快楽を文章化するには書き手の知性があまりに足りないため空虚な言葉でしかこのゲームを言い表せないが、社名の由来の通りプラチナ劣化しないな作品であることは確かだ。恋愛の教科書には不適格だが、最高のアクションゲームに数えるのなら恥ずかしくない一本になることは保証しよう。

 気が付けばアクションのことしか書いていないので、その他の要素についてもつまみ食い的に書いてみよう。

 本作は刑事モノであるため捜査パートがあるのだが、舞台となる人工島「アーク」の雰囲気が実にいい。夜は青白いネオンを基調とした『ブレードランナー』っぽさ、日中ならNYの摩天楼めいた都市の表情を見せ、サイバーパンクと現代劇の折衷のような世界観は目に楽しい。フィールドはオープンワールドというわけではないが、かなり広い箱庭が用意されており、寄り道要素も多い。個人的には、この規模感でアニメ『PSYCHO-PASS』のゲームがあったら、ぜひ遊んでみたいと思った次第だ。

 捜査そのものは聞き込みや現場確認が主だが、レギオンは一般人にしか見えないという設定を活かしての盗み聞きや、逃走する犯人をキメラ相手と同様に拘束といった、作品のコンセプトと刑事モノというジャンルの融合がとても自然で、レギオンは捜査においても働きものだ。迷子の捜索や木に引っかかった風船をとってあげるといった、市民の困り事に親身になって対応するロールプレイも用意されており、“おまわりさん”としてこの世界を歩むことのできる自由度は本作の充実感に一役買っている。

 良いアクションに欠かせないものとしては、「BGM」もとくに重要だ。通常戦闘時のメタルテイストな楽曲はどれもハイな頭によく効くが、平成仮面ライダーのオタクにはおなじみBeverly歌唱による挿入歌「Dark Hero」が、使われるタイミングといい楽曲の格好よさといいオブザイヤー級だったので、なぜか配信が終了しているらしい「ASTRAL CHAIN VOCAL COLLECTION」は即座に配信復帰してほしい。プラチナゲームズ後追いオタクからのお願いだ。

 細かい欠点も多いが、新規IPの一作目として独自のコンセプトとそれに紐づくアクションの多彩さ、爽快感を兼ね備えている時点で、『アストラルチェイン』は他のアクションゲームにも負けない風格と遊びごたえを有していると言い切っていいだろう。操作に慣れるまでは一苦労し、思いがけぬ落下死にコントローラーをクッションに投げたくなる日も来るかもしれないが、主人公とレギオンの双方を思いのままに操っているという実感が得られた時、ゲームの楽しさにブーストがかかって、いずれは止め時を見失ってしまう。

 とくに、レギオンを出したとて自機が硬直したりせず、むしろありのままに操作することが出来るという時点で、後年の『ベヨネッタ3』におけるデーモン・スレイブの問題点を、ほぼ解消してしまっているのは個人的には特筆すべきポイントだ。ベヨネッタを自在に操る爽快感を奪い、回避を重視するシリーズのお約束を上書きしてしまったあのシステムは、やはりどうしても受け付けられなかった。それを想えば、我武者羅に敵を攻撃してくれて、ワンボタンで連携姿勢を取ってくれるレギオンくんの、なんとお利口なことやら。

 と、過去の女性の悪口を言うのはマナー違反なので、この辺にしておきたい。なんにせよ、プラチナゲームズくんとはこれからも仲良くしていきたいので、『アストラルチェイン』のさらなる展開に期待しながら、〆たいと思う。これからニンテンドーダイレクトが開催される度に、きっとこう言うハメになるのだ。

もっと縛らせて!!!!!!!!

と。

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