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愛ゆえに……?『宇宙戦艦ヤマト 新たなる旅立ち』

 2024年10月6日に庵野秀明氏がヤマト新作アニメに着手することが発表されたその日に、私もヤマトを履修すると心に決め、その旨をポストしたところ、いくつか反響を頂戴した。その際、旧シリーズを観る順番をガイドしてくださった方もいらっしゃったが、その中でも立ち位置がよくわからない作品があった。それが『新たなる旅立ち』である。

 なのでここは素直に、いつもお世話になっているスターチャンネル様の解説を引用させていただこう。

1979年にTVスペシャルとして放送され。1981年には劇場公開もされた長編第3作。新たな乗組員を迎えたヤマトは、暴走を始めたイスカンダルの救援へと向かう。

解 説
テレビシリーズ「宇宙戦艦ヤマト2」の続編で、『ヤマトよ永遠に』の序章的作品。ガミラス星の滅亡という衝撃的な幕開けに続くイスカンダル星の暴走という壮大なスペクタクルを背景に、ヤマトが謎の敵・暗黒星団帝国と激闘を繰り広げる。新たな乗組員を迎えた古代たちの人間的成長、ヤマトとデスラー率いるガミラス艦隊の共闘など、新味を加えつつ後続作品への布石も怠りない。

https://www.star-ch.jp/movie/detail/22964/

 『宇宙戦艦ヤマト2』では、多数の死傷者を出したものの、ヤマトそのものと主要な登場人物は生還し、無事地球に戻ることができた。この結末に到達することで、『宇宙戦艦ヤマト』の物語はさらに先を描くことが出来た。一作目から分岐して『2』か『さらば』のどちらに進むかで、彼らの運命も大きく変わったのは言うまでもない。

 白色彗星帝国との闘いから一ヶ月。ヤマトは訓練学校を卒業した新しいクルーを迎え、練習航海に出航する。先の闘いで失った人員を埋め、いずれ来るかもしれない脅威に備えよう、というのが地球防衛軍の意向なのだろう。古代や島といった最初のクルーを第一世代とするのなら、彼らは後輩たちを導き、訓練する側へと時の流れは移った。

 ところが、経験も練度も足りていない新兵は、ヤマトを飛ばすことにすら悪戦苦闘。言う事を聞かず増長した若者に手を焼く古代艦長代理は、かつての自分の姿を新兵の坂本に見たのかもしれない。そういえば、リメイクシリーズでは『2199』の時点ですでにメインキャラである機関室の山崎は、旧シリーズではこの作品が初出らしい。

 一方、古代との間に奇妙な友情を覚えたデスラーは、ガミラス人の新天地を求め彷徨う中でガミラス星に帰還したところ、その星で鉱石を無断で採掘している謎の集団を目にする。怒るデスラーはその謎の集団を攻撃するのだが、その戦火はガミラス星を消滅させてしまうのだった。えぇ……?

 この作品、なんとも不可解だ。ヤマトが新クルーを迎えるなど、明らかに『2』の流れを汲んでいるはずなのに、それまでの作品を無かったことにするような展開が散見される。本作の序盤では、デスラーがスターシャを愛していた、というような心情が描かれているが、TVシリーズ一作目にそんな描写があっただろうか。怒りに任せて謎の異星人を攻撃し、母星を消滅させてしまうような軽率な統制者として描かれていただろうか。『2』の武人のような彼は、いったいどこへ行ってしまったのだろう。

 混乱冷めやらぬ内に敵となる「暗黒星団帝国」がその姿を現すのだが、これまたなんとも気の抜けたキャラクター達である。ガミラス星で採掘行為に勤しんでいたのは他の国家との戦争に備えてのもので、ヤマトやデスラーとそもそも何の因縁も持たず、ガミラス星が駄目ならイスカンダルに行ってイスカンダリウムを取りに行けばよいらしく、急に生えてきた名称がどう戦争に役立つのかはあやふやなままだ。参照する画像が見つからないので彼らの容姿を文章に起こすとするのなら「筋肉のついたウォーボーイズ」が第一印象なのだけれど、おかげで個々人の見分けはつかないし、「グレートエンペラー」なる姿を見せない大首領様はどこで何をされているのだろうか。

 不可解さの最たるものは、古代守と遠いイスカンダルで愛を育んでいたスターシャをわざわざ引っ張り出して、今作にてイスカンダルと心中させる、本作の製作陣の意図である。愛するパートナーと娘を遺し、イスカンダリウムが悪用されるのは許せなかったと一人勝手に死んでしまう彼女は、本当に一作目と同じ人物なのだろうか。異変に気づき駆けつけたヤマトを、信じられなかったのだろうか。守と娘が悲しむことよりも、生まれ育った星のよくわからぬ鉱石?が悪の手に渡る方が辛いのか。

 キャラクターの死は良くも悪くも物語を盛り上げるスパイスとなるが、そこには必然性や、納得が伴ってこそ、という教訓を得られる。地球と異星とのいつ終わるかも知れぬ闘いとは無縁でいられたはずの守とスターシャを戦火に招き、喪失を味わわせることを、誰が望んだだろうか。彼女の死で視聴者の涙をもぎ取ろうとする者こそが、許されざる悪魔ではないだろうか。キャラクターたちに平穏に過ごしていてほしい、というファンの「愛」を根絶やしにして、この物語は消化不良のまま幕を下ろすのである。

 そのくせ霊体となったスターシャはわりと長く居座るし、デスラーは母星と愛した女を失って狂乱する有り様で、過去作の遺産にこれでもかと暗い影を落とす本作は、先の引用通り次回作への前フリでしかないらしく、実に後味の悪いものになっている。古代に自分もろともゴルバを撃てと迫るデスラーの姿に意外性はあるが、その前の失態(母星の消滅)を取り返せるほどのものでもないだろう。

 とても気落ちする一本ではあるのだが、次回作での逆転に期待したい。スターシャの死に意味があったのだと、どうか思わせてほしい。

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