マヒシュマティ王国民体感型上映『#バーフバリ絶叫』レポin新宿ピカデリー
私が『バーフバリ 王の凱旋』を観たのは1月14日のこと。“豪快”を擬人化すればこうもなろうと納得せざるを得ない王の中の王バーフバリの一挙手一投足に見惚れ、戦う女の美しさに心は沸き立ち、死と継承のドラマに涙したあの2時間強。その後はと言えば、業務中だろうが満員電車に揺られていようが「バーフバリが観たい…」とうわ言のように呟く異常者と化しており、どこか満たされぬ日々を過ごしていた、がっ…!この度のっ…!新宿ピカデリーでの絶叫上映開催の報っ…!
というわけで、有休取れるかも決まらぬまま勢いでチケット争奪戦を制し、晴れて絶叫上映参加の資格、もとい王を讃える権利を獲得したので、その熱狂の様子をお伝えしたい。なお、上映時の法と心得るべきルールは以下のように定められた。
どうだろうか。人としての常識を問われているかのように錯覚するほどにパンチの強い文章。とても映画館のホームページに載ったとは思えない文言だ。だがしかし、時として『バーフバリ』が人々をいかに熱狂させてきたかは、Twitter界隈で有名な例の動画を観た方ならご納得いただけるであろう。予告編が流れただけで暴動のような騒ぎを産みだしてきたのだ。日本でも何らかの事件が起きてもおかしくない。
そして迎えた当日の新宿ピカデリーは、どこか独特の空気に包まれていた。都内では4年振りの大雪の影響で交通網が乱れ、誰もが体を震わせながら歩を進めたあの日。劇場ロビーではサリーを着た女性同士が会話をし、劇場の至る所でタンバリンの鈴の音が漏れ聴こえ、終いには例の盾を持った男の登場(後に主催者側の持ち物と判明)で、場内は「写真いいですか?」の大合唱だ。サリーはそもそも生地が薄く、その傍らで鳴り響く鈴の音…。外との気温差で頭がクラクラし始めた私はと言えば、前日から泊りがけの出張会議だったことも伴いノーコスプレ、ノータンバリンの体たらくだ。申し訳程度に持ち込んだサイリウムの細さに思わず恥ずかしさがこみ上げる。結局のところ、この場では誰にも話しかけることが出来ず、入場開始と共にスクリーンに駆け込んだ。
さぁ今宵マヒシュマティ王国と化すのは、新宿ピカデリーのシアター3。場内を見返すと、年齢層は若く、どことなく女性の方が多く感じられた。開始直前までは主催のV8Japanスタッフによる、映画の内容と絡めたユニークな注意事項アナウンスが場を温め、隣同士での交流も盛んな様子。同じ映画を愛好する者同士、気兼ねは不要らしく、本編を観た回数や好きなキャラクターの話で場内は盛り上がり、宴の始まりを待ちきれない様子が肌で伝わってきた。
そして20時20分、V8Japanによる前説によって、『バーフバリ絶叫上映』が幕を開けた。開催までの経緯や某ラジオ番組で取り上げられたエピソードで観客の笑いを誘った後、会場となった新宿ピカデリーへのお礼を込めた「ありがとう」の発声練習。次に「バーフバリ、ジャイホー!(万歳)」からの「バーフバリ!バーフバリ!」コールへと進み、ついに劇場が暗転。2時間半ノンストップ、声帯の限界と向き合う時間が始まった―。
開幕はおなじみ、前作『伝説誕生』の5分間ダイジェスト。この映像ではキャラクターの紹介も兼ねているので、要は叫びやすい。何せ初っ端から割れんばかりの声で響く「シヴァガミさまーっ!!!!!!!」のコールに続き、赤子のアマレンドラ・バーフバリが映れば「かわいー!!!!!!!!!!」、青年になったアマレンドラの素敵ウィンクに「fooooooooooooo!!!!!!!!!!」といった様子で、ペース配分などは考慮されておらず最初からクライマックス状態。やはりキャラクター人気に声量が比例するのか、一番人気は我らがバーフバリ(父子)で、続いてシヴァガミ、カッタッパが映るたびに黄色い声援が飛び交い、黄色いペンライトが一斉に暗闇を照らし出した。最早アイドルのコンサート会場と化したシアター3、その中心席にいた私はどうしていたかと言えば、スラディング忠誠の構えを披露したカッタッパのシーンで「バーフバリさまーッ!!私も踏んでーッ!!!」とこのように心が王に頭を垂れていた。
そしてこのダイジェスト内にて、最初の「バーフバリ!」ポイントが訪れる。国民が慕う王の名を高らかに宣言するこのシーンに、映画を観る我々も参加できてしまうこと、この瞬間こそ、絶叫上映の真の醍醐味であることは間違いない。皆これをやりたくて1,800円払って、深夜のチケット争奪戦に臨んだのだ。
「バーフバリ!バーフバリ!」
本編開始前でこの熱狂、事前の打ち合わせを疑うほどに統制の取れたコールに導かれ、『バーフバリ』という映画がさらにパワーアップしていく様を、身をもって体感した至高の5分間であった。
そしていよいよ、『王の凱旋』本編。配給会社の「ツイン」に向かっての「ありがとー!!!!」の一声が先陣となり、最高潮の盛り上がりを維持したまま、誰もが度肝を抜かれたあの“インド象”のシーンへ突入した。
しかし、ただやかましいだけの鑑賞はマヒシュマティの民ならず。展開に即し自然と“タメ”を作り、一気に爆発させる。その緩急は映画本編のテンポと呼応し、最高の興奮を生み出す。
例えば冒頭、聖火を頭に乗せ歩くシヴァガミ様に向かって猛突進するインド象、その距離感を見せつつカメラが中央の門に寄った瞬間、これまで「暴れないでー!」「逃げてー!」と叫んでいた観客も静寂を守り、王の登場を固唾を飲んで待ちわび、そして門が豪快に開け放たれ山車を引くその男が大写しになった刹那、我が王を呼ぶ声が響き渡る。
「バーフバリ!!バーフバリ!!バーフバリ!!」
文字に起こすと何てことない、しかしその高揚感たるや。体が瞬時に熱を帯び、先ほどまで感じていたサイリウムを振る腕の疲れも消し飛ぶほどの衝撃。えっ何これ楽しい…楽しすぎる…。このあたりから(開始2分とかそこら)楽しさのあまり涙で視界が滲みだしたのを強烈に思い出せる…。感情がバカになったのか、叫ぶ、腕を振る、泣くしかできなくなった…。
それでも冷静に思い起こすなら、やはりキャラクターの名前を叫ぶくだりが最も多く、上述の三人に加え、なけなしの勇気を奮うシーンが涙を誘うクマラさん、若き日のデーヴァセーナが映るたびに女性陣の声援が劇場を覆った。
一方で、発生上映と言えば大喜利の要素が強く、場面や状況に即したツッコミや、台詞への気の利いた切り返しが場内の笑いや賞賛を誘う場面が見受けられる。今回秀逸だったのは、デーヴァセーナにバーフバリの手が剣士のそれであると見破られたシーンでの「バレバレバーフバリ!」の一言。冒頭の挿入歌の歌詞と掛けた巧さに感心させられる一幕もあり、ただ叫ぶだけの野蛮な集会ではなかったことをご報告したい。
『王の凱旋』はそれこそ見どころばかりで、ノンストップのエンターテイメント性こそが大きな魅力の一作。それ故か、どのシーンが印象的だったかを問われれば「全部!」になってしまうほどに、一度達した盛り上がりはほぼ下落することはなく、ひたすら走り抜けた。中盤に訪れるある哀しき裏切り、そしてアマレンドラの死を巡る一連のシーンは誰もが静かに見守るも、それは決して中だるみと呼ぶようなものではなく、その先に訪れるマヘンドラの覚醒への助走であり、再び沸き立ったテンションはそのまま最終局面へ持ち越される。
クライマックスになるとついに我々のボキャラブラリーも底を突いたのか、5秒おきに「fooooooooooooooooo!!!!!!!!!!!!」と鳴る機械と化した観客たち。バドラの首が宙を舞い、バラーラ戦車が兵士を切り裂き、バーフバリが兵士をなぎ倒し、馬を駆り、ヤシの木パワーで空を飛び、ついに戦車を破壊し、殴り合いを重ね、デーヴァセーナ行脚が始まり、橋が燃やされ、金の像が倒れ頭が橋となり…と列挙していくのだが、ここまで全て同一のテンションで歓声が鳴り響き、拍手とタンバリンの音が映画のBGMと同化していた。
前人未到の映画体験。狂騒の宴もついに終わりを迎える。その豪快な中身と正反対にあっという間に幕切れとなるエンドロールが終わるころ、場内は何度目かの拍手に包まれた。そして、誰からともなく発せられた「バーフバリ!」の声がやがて観客みんなの声となり、最後にもう一度王を讃えることでこの映画が真に“完結”した。
本文章も基本一本調子になってしまい恐縮だが、事実、途切れることなく王とこの映画を讃え続けた観客一人一人のガッツ、それが重なることで生まれた一体感を、文字で伝えるのは容易ではない。そして何より、「バーフバリ!」と叫ぶことは作中の王を讃える民衆になりきれるため、あの劇場にいた者全てが、一人のマヒシュマティ王国民だった…。こんな幸せな映画体験があっていいのか。3Dでも4DXでなくとも、映画の世界を体感し、入り込むことが出来る臨場感。イベント上映の力を得て、『バーフバリ 王の凱旋』の世界にまた一歩近づけるような、稀有な体験であったことをご報告したい。
最後に、今回の上映を主催してくださったV8Japanのみなさま、新宿ピカデリー様、配給会社ツイン様、そして一緒に王の名を叫んだ参加者の全てに、貴重な機会を与えて下さったことを深く感謝したい。そして、この熱狂が様々な都市に広がり、王を讃える機会が増えることを心から願って、この拙文を締めさせていただきます。
次回、「ドキッ☆初めてのマサラ上映篇」に続きます。
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