インチキのできない世界で。『コードギアス 奪還のロゼ 第3幕』
『コードギアス 奪還のロゼ 第3幕』を観た。物語もいよいよ佳境。来る最終章へのお膳立てが整ったタイミングで、忙しくて感想を書けなかった2幕と共に今の状況を振り返りたい。
※以下、『コードギアス 奪還のロゼ』のネタバレが含まれる。
『奪還のロゼ』の物語は、始まった瞬間からトリッキーなアニメだった。囚われの姫を救うはずの物語は、一幕ヴェールを剥がせば「姫が影武者を救う」話にすり替わっていく。名無しの傭兵を名乗る兄弟は、実はギアスで作られた偽者の関係性。主人公のロゼは本当は女性で、お姫様で、自らを弟として守ってくれるアッシュを殺そうとしている。
事前のあらすじを、そして世界や周囲の人間を“騙す”。第1幕、そして『反逆のルルーシュ』の作品のキモは、ここにあるのだと、今でもそう思っている。ルルーシュ・ランペルージという天才が、味方すらをも欺き、奇想天外な策で世界ごと翻弄していく。そして視聴者たる我々は、振り回され、驚き、天晴なり!と騙されることを楽しむ。コードギアスはいつだって、こちらの想像の斜め上を行ってくれるアニメだ。
続く第2幕は、「ダモクレス」と「フレイヤ」という、『反逆』時代の忘れ形見を葬るための物語だった。復讐心にかられ大量破壊兵器を産み出してしまった過去の過ちを精算するべく『奪還』の物語に介入するニーナ・アインシュタイン。ロゼとアッシュの働きにより、フレイヤはこの世界から消失し、彼女は禊を済ませることとなる。
配信版で言うところの4〜6話、中盤戦にて展開される、ダモクレス攻略戦という大きな舞台。それ自体は魅力的であり、ダモクレスがまんまコロニー落としの構図でホッカイドウに迫る絵も、見ごたえはあった。しかし、前述の“騙される”快感原理に則るのなら、どうにも物足りない。実のところ、ロゼ(サクヤ)とアッシュの関係性に進展が見られるのは、第2幕終盤(6話)まで待たねばならず、ダモクレスやフレイヤも、対ネオ・ブリタニアを盛り上げるためのギミック以上の働きはしていなかったように思える。
そして今回の第3幕は、言うなれば種明かしの回だ。アッシュは本当に皇重護を手に掛けたのか。思わせぶりに登場したギアスキャンセラーは効果を発揮するのか。サクヤはその正体を知られてしまうのか。第2幕の最後に流れた次回予告から連想する内容と、実際の本編の内容は、そう乖離がなかった。明かされるだろうな、と思ったものがご丁寧に提示された。劇場に明かりが点いた最初の感想は、これまでよりも冷静だった気がする。
第3幕は、サクヤが嘘の代償を支払わされる展開の続く、とても重苦しいものである。サクヤは教会を訪ねアッシュの過去を知るが、彼にかけたギアス―「最も大切な人だと認識して守らせる」とは、アッシュの心の支えに自分が成り代わり、その座を奪うという、許しがたい行為であることを知る。しかも、皇重護がアッシュに自分を託していたということは、元よりギアスをかける必要すらなかった、というオマケ付きで。
その罪の意識に苛まれつつ、クリストフに囚われた彼女は今度は無関係の人々にギアスをかけろと命じられる。それを拒否すると、実験体と称された人々が無惨に殺されてゆく。絶対遵守のギアス。他人を自分の思い通りにする異能、「チート」と読んで差し支えのない能力を振るってきた報いを、サクヤの心が最も傷つく形で積み重ねられてゆく。肉体的・精神的な苦痛と辱めを受け、アッシュを前にしてただ謝ることしか出来ず、それでいてサクラを奪還するまでは協力してほしいと懇願する姿は、かつてのルルーシュの姿が重なる。全ての盤上をひっくり返してきた絶対無敵の能力者も、タネが割れればただの人になってしまう。
オンラインゲームで不正をすれば、アカウントがBANされて二度とログイン出来なくなる。それのもっと規模の大きい報いを受け続けるサクヤと周囲の人物たち。アッシュは大切な弟の記憶や想いを踏みにじられ、七煌星団は戦力を大きく削られ、特攻で死んでいった者たちに報いる策など思いつきようもない。このタイミングで持ちかけられた停戦協定も、ノーランドの策略の一環に過ぎないだろう。特使として派遣されたナラは、あの恐ろしい殺人ロボの餌食となり、全面的な武力攻撃の口実にされてしまうのだろうか。
この状況下において、もはやギアスなど、なんの力も持たないのである。絶対遵守の能力をノーランドに奪われなかったとはいえ、ギアスキャンセラーを持つアーノルドが健在だし、“目を合わせる”という前提条件が知られている以上、ネオ・ブリタニアが対策をしてこないはずがない。どんな戦況でも優位に立てるはずの力を、ほぼ無効にされてしまったのだ。
そんな状況下で、サクヤはサクラとホッカイドウの奪還を果たせるのか。『コードギアス』でありながら、ギアスに頼れない物語。サクヤが失意の中で己を奮い立たせたように、残されたのは「覚悟」だけなのである。しかし戦争というのは非情なもので、政治的にも優位に立っていたネオ・ブリタニアは、その上で特使がいる超合衆国ニッポンに謎の殺人ロボを放った。つまり、武力の上でもこちらが上だと宣言し、特使ナラを守りきれなかった時点で相手に武力侵攻の口実を与えてしまいかねないこの状況は、万事休すと言う他ないのである。
およそ考えうる最悪な事態に、あと1幕(3話分)でこの風呂敷を畳めるのか、心配になるほどに、スケールの大きい事態に発展してしまった。それでも救いとなるのは、サクヤ(ロゼ)とアッシュの絆が、首の皮一枚で今も繋がっていることだ。皇重護の娘を想う気持ちが紡いだ、辛うじて生きているこの関係性こそ、全ての頼みの綱なのである。
思えば、「王の力は使う者を孤独にする」ことを描いた『反逆』のその先に『奪還』の今がある。そしてこの言葉が正しければ、アッシュの記憶に割り込んだサクヤは、見捨てられ、顧みられず、あの実験施設で殺されるはずだった。その運命を、ギアスなんて持たない一人の父親が、防いだのだ。この数奇な運命の先、サクヤがL.L.やC.C.とは異なる結末に導かれるのだとしたら、人の道を外れてしまった魔王と魔女にとっての「救い」になるのではと、そんな妄想をしてしまうのだ。
全ての答えは、8月の最終章にて。何にせよ、この日までに自分は『亡国のアキト』を観なければならないことが決定したので、残り一ヶ月の待ち時間もコードギアス漬けになったことが確定。ここまでの陳腐な予想をあざ笑うようなどんでん返しに期待しつつ、リアルタイムでコードギアスを浴びれる幸せに、もう少し浸っていたい。