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アニメ『機動警察パトレイバー』鑑賞録(3)【TV版 後編】

 パトレイバー鑑賞記も第3回になりました。4クール全47話、1年に渡り放送されたシリーズをイッキ見する贅沢。達成感もありますが、アニメばっかり観てていいのか俺は…と謎の焦りが生じますね!!

【ON TELEVISION 25~47話】

【これまでのパトレイバー】
香貫花が来た!帰った!!

 作業用機械「レイバー」を用いた犯罪に対処すべく設立された警視庁警備部特車二課、その第二小隊の日常をコミカルに描くTVシリーズ。24話で研修期間終了のためNYに帰国した香貫花・クランシーに代わり、25話より熊耳武緒巡査部長が配属。文部両道に秀でた才女で、インターポールにもお呼びがかかるほどのエリート。性格も優等生気質で自他問わず厳しく律することができる鉄の意志を持ち、縦社会の規律には厳しい太田を唯一抑え込める現場担当者として、2号機のバックアップに就任。小隊の再編成が持ち上がったことでオリジナルメンバーにも一時緊張が走ったものの、香貫花の後釜として上手く収まった印象があります。

 28話より、本シリーズには珍しい連続劇として、黒いレイバー「グリフォン」と、謎の男・内海のエピソードが始動。「つまようじからスペースシャトルまで」を合言葉に、あらゆる事業に展開する多国籍企業「シャフト・エンタープライズ」の日本支部「企画7課」課長である内海。アーケードゲームの市場調査を行う傍らでグリフォンの建造を指揮。その操縦をバド少年に委ね、自身は戦闘データの収集を目的に第二小隊のイングラムとの戦いの機会を狙います。前クールに登場した黒崎も内海の部下であることが判明し、グリフォン建造のためには手段を選ばない大胆さが見て取れます。

 グリフォンとの激突は30~35話の連続エピソードで描かれ、第二小隊も苦戦を強いられます。現行の機体とは異なる独自の規格のため互換性がなく、作業用機械という本来の目的を逸脱した飛行能力を持つグリフォン。その設計コンセプトは明らかに戦闘用レイバーとしてのもので、陸上自衛隊の軍事用レイバーすら圧倒する性能を有しています。太田の2号機も敗れ、孤立無援と化した野明の愛機、1号機“アルフォンス”も大破寸前まで追い込まれます。最後は性能差を技術と勇気でカバーした野明の機転により勝利を収めますが、熊耳が内海の部下に撃たれ重傷を負うなど、その被害は甚大と言っていいでしょう。

 全く腹の読めない趣味の男・内海。採算度外視なグリフォン製作に金を惜しまないなど会社からある程度の自由を与えられた身であるらしく、その行動も利潤の追求などという企業使命に縛られることはありません。グリフォンを黒に染めたこともパトレイバー(パトカーの白)へのカウンターで、警察(公権力)を打倒するヒールを演じつつも、それを世界に広めようなどの思惑はなく、あくまで自分自身の享楽のためと割り切った節さえあります。承認欲求に踊らされない、自己完結のエンターテイナー。正義と悪の二元論では割り切れない、恐ろしくも魅力的なキャラクターですが、その結末はあっけなく後藤隊長との意味深な口論の後、物語から退場となります。

 グリフォン編終了後は再び一話完結型に立ち戻り、キャラクターをフィーチャーしたエピソードやレイバーが日常化した世界観の描写がメインとなります。依然レイバーによる迷惑行為が絶えない中、「レイバー損害保険」の存在を軸にした37話はどこか旧OVAを彷彿とさせるテイストで印象深く、ロボットがあれど『パトレイバー』はあくまで警察ドラマであることを思い起こさせます。

 最終3話は野明の物語に立ち返り、自身のキャリアや生き方に悩む等身大の女性としての姿を描き出します。45話では陸上自衛隊からの転属のオファーを受けることをきっかけに「なぜこの仕事に就いたのか」「なぜ続けるのか」を問い直します。続く46話ではパトレイバーの世代交代を迫られる中、アルフォンスへの愛着故にその流れと上手く折り合うことができず、故郷に帰ってしまいます。

 イングラムを動かしたいという想いで警視庁に入庁した野明は“好き”を仕事にできる恵まれた人生を送り、その才能を評価されるほどに適職であったと言えます。反面、その操縦以外にモチベーションを持たず、レイバーの代替わりを契機に職務を放り出した彼女の行動は、未熟で軽率であったという批判は逃れられません。1号機に「アルフォンス」と名付けたことも、彼女の幼さゆえの行為であることも明かされます。

 大好きなものと一緒にいたい、心地いい環境を守りたい。しかし、時代の流れや組織の中では、その願いが叶わないことも多々あります。働く大人であれば一度は向き合うことになるでしょう、いたって普遍的な痛みに、野明も直面します。しかし、彼女はレイバーの操縦士の前に一人の警察官であることは、46話を観た方なら異論はないでしょう。困っている人を助け誰かの役に立つこと。「おまわりさん」としての職務をレイバー抜きでも果たせることを学んだ彼女は、遊馬の迎えと共に特車二課に復帰します。

 仕事に誇りを持つこと、その本質は道具や環境ではなく志にあること。警察官の日常を描く『機動警察パトレイバー』の初志貫徹とも言うべき本作の締めくくりは、どんな職業にあっても大切で、しかし見落としがちなテーマを描く、爽やかな成長のドラマでもありました。いずれ来るであろうアルフォンスとの別れを予感させつつ、それを乗り越えた泉野明、第二小隊の愛すべき仲間たちを微笑ましく写した、作り手の深い愛情を感じるラストカットにて、本作は幕を閉じます。

 全47話『機動警察パトレイバー ON TELEVISON』これにて完結。TV放送のロボットアニメとして、対レイバー戦の要素を拡充させ、より広い層へのアピールが感じられるライトな作風ながら、人命救助や災害派遣など「ロボットのおまわりさん」としての一面は守り抜かれています。巨大ロボットが一般化した風景を様々なモチーフで描くSF要素も醍醐味ですが、地に足の着いた職業ドラマとしての印象が後を引きます。ロボットが主題のようでそうではない、旧OVAや劇場版の作風は、濃度の差こそあれ受け継がれていたようです。本項では個々のキャラクターまで深く言及はしていないものの、後藤隊長をお父さんとした第二小隊のメンバーの明るく愉快な雰囲気も心地よく、清々しい気持ちで47話を完走できました。

 次回は本シリーズに続く新OVA版。DVD特典映像の告知にて「しぶとい」と評されたパトレイバー、マラソンとしてようやく折り返しでしょうか。気になった方は以下のリンクからどうぞ。


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