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『アイカツフレンズ!』、強固なコンセプトが持つ魅力と、失ったもの。
スターズ!→無印→プラネット!、とかなり入り組んだ順番で取り組んできたアイカツ!シリーズ、ついにシリーズ3作目となる『フレンズ!』全76話を見届けた。歌唱担当の廃止、「フレンズ」の概念、海外でのアイカツなどの新しい要素が盛り込まれた新機軸であることを受け止めながら、個人的な所感を言ってしまえば「合う/合わない」の天秤が毎話ごとに大きく変動し未だに全体的な評価が定まらないような、不思議な一作だった。
"フレンズ"という関係性
本作で大々的に打ち出されるフレンズというあり方。デュオやユニットといった言葉が作中であまり用いられなかったように、本作は徹底してフレンズの仲と関係性を推していく。この言葉が内包する意味は格段に広く、フレンズとは時に友達を時にはライバルを示し、その上さらには恋人のニュアンスさえ帯びるようになっていく。決してこれはオタクの独りよがりな解釈ではなく、11話では「遠距離フレンズ」なるワードが登場することで、作り手も意図的に”それ”に寄せていることは明白だろう。
そして、この概念を最も象徴するのがピュアパレットの二人だった。友希あいねは過去二作の主人公とは異なり、元よりアイドルへの憧れを持たない少女ではあったが、湊みおの誘いを受けてアイカツの世界に飛び込み、やがては頂点のラブミーティアに勝利するまでに成長する。困っている友達を見過ごせないあいねに対し、みおがアイドルへの道を指し示す。そんな流れから始まった二人だが、いつしかみお→あいねの感情の矢印の方が大きくなっっており、二人が互いを求め合い、乗り越えようとしながら絆を深めていくドラマは、とてつもなく面白かった。
なにせこの世界は、まるでフレンズの成就に全てを奉仕しているかの如き視線に満ちているのだ。伝説の第11話 「告白はドラマチック」において、フレンズの成就とは婚姻と同じ重みとシチュエーションが用意され、いざそれが果たされれば鐘が自主的に鳴りて二人を祝福する。二人でアイドルユニットになろうと誘うことが「告白」と明言される世界であり、そんな二人が一度仲違いでもしようものなら大ホールを貸し切って「仲直り」をコンテンツにしてしまう世界なのである。すごくない?ミライさんが強火すぎない?
ピュアパレットが特大の爆発力を持つエピソードを連発していく裏で、その他のフレンズの物語も積み重なってゆく。当初は正反対に思われた二人がお互いの個性を認め合いながら切磋琢磨していくハニーキャットの蝶乃舞花と日向エマ。双子の姉妹であることを活かしたシンクロとゴシックな衣装や趣味でファンを魅了するリフレクトムーンの白百合さくや、白百合かぐやの二人。二年目からは5年越しの復活を果たした伝説のフレンズ I Believe の天翔ひびき、アリシア・シャーロットも加わり、「ふたり」の結びつきをとある例外を除いてストーリーの推進剤としていく『フレンズ!』は、これまた別ベクトルでのチャレンジングなアイカツ!だったということなのだろう。
"フレンズ”推しゆえに失ったもの
「ふたり」こそを尊ぶ作風ゆえに、それぞれの絆が変化するエピソードはどれも湿度が高かったり、強い感情移入を促す展開や演技が多かったからこそ、かなりの見応えがあった。それこそ、本来のメインターゲットではない私のような大人がうっかり「百合」と認識してしまうほどの艶やかで美しいエモーションが、各所に散りばめられていた。
反面、本作がフレンズを強く強く推していくばかりに、普段の会話劇は個人と個人ではなく、フレンズとフレンズ、という場面がほとんどだったように記憶している。例えば、同じ場面に4人の女の子がいて、ピュアパレットとハニーキャットの二組が談笑している、というように。
これの何が気になるかと言えば、関係性に広がりがないように見えることである。フレンズは基本的に二人一組で行動し、仕事のスケジュールなどで阻まれない限りはいつも一緒にいるらしい。ゆえに、フレンズとフレンズとの会話になるのも自然の摂理である。その際、どうしてもおざなりになってしまうのが個人と個人の触れ合い、例えば「日向エマと白百合さくやの絡み」といったものがあまり観られない、ということなのだ。
第55話はまさにその欠落を埋める試みであり、とても新鮮味が強くたのしく観ることが出来た。フレンズの構成をシャッフルすることで浮き彫りになる、別フレンズの女の子への印象や自身の立ちふるまいの変化、普段の相方の大切さに気づくなどなど、関係性が変われば見えてくるキャラクター像も変わるというユニークな1話。これこそ、『アイカツフレンズ!』のコンセプトが強固であるがゆえに失われてしまった拡張性なのではないだろうか。
『アイカツ!』ではアイカツ8が、『スターズ!』にはゆずこしょうやSKY-GIRLのような期間限定ユニットが存在し、そのメンバー構成や楽曲が様変わりすることで多様性を発揮していた。大勢のアイドルが存在するからこそ、組み合わせを変えれば無限の輝きを見せてくれる。ところが本作では、基本的に固定されたフレンズの構成を逸脱することはなく、よって楽曲のバリエーションは従来の作品よりも狭く感じられてしまった。
それだけではなく、フレンズの繋がりが強固すぎるゆえに、次回予告を観た際に「次はリフレクトムーン回だな」と思ってしまうと実際の本編にはそれ以上の飛躍を感じられず、これまでの作品と比べてもサプライズ感は目減りしてしまっていた。また、舞台となるスターハーモニー学園は女子校であるために「男子のアイカツ!」も描かれた『スターズ!』より後退しているし、フレンズ以外のアイドルのあり方を描かなかったために「ソロでやりたい子や三人以上で組みたい人はどうしたらいいのだろう」という無用な心配までしてしまった。フレンズという枠組みを強調したがゆえに、視野が狭くアイカツ界全体が窮屈なものに感じられたことが、個人的には大きなマイナスとして挙げられる。宇宙や国外でのアイカツ!というスケールの大きい物語が展開されているはずなのに……。
誰も蹴落とさない作風
ここからはさらに好みの話。本作の特徴の一つとして、過去二作と比べてもことさらに勝負を重視しない作風を選んだことも印象的だった。アイカツ!での競い合いも縮小され、目立った勝負といえばダイヤモンドフレンズカップといくつかのオーディションくらいのもので、前作『スターズ!』の苛烈さとはかなりの温度差があるように見える。
本作はカードもファンも等しく友達と掲げており、その友達が困っていれば手を差し伸べる、人が持つ優しさをフォーカスした作品だ。ゆえに、勝ち負けを主題とせずしてアイドルの物語を語り切る、という戦略があったのではないだろうか。
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そうした誰も傷つけない優しい作風ゆえに、立ちふさがる壁も人間ではなかった。二年目の『かがやきのジュエル』においてアリシアがアイカツ復帰への障壁となったのは、国王代理としての責任と、ブリザードという自然現象である。
一方は政治……というか人員と人の心の問題であり、もう一方は天災だ。これら一連のソルベット王国にまつわるエピソードにおいて、前者は国民の理解と弟のシャルルがその任を請け負うことで解消された。ところが後者は、あいねたちの発案によって「王国民がブリザードで凍ってしまい、それを解消するためにはアイカツが必要」というウソが展開されることになる。言うまでもないが、寒空の下で立ちすくむのは、生命の危機に直結する。なので国民に本当に求められるのは「暖かい屋内に避難」なのだけれど……。これが本当のアツいアイドル活動……。
元を辿れば、体調が思わしくない父・ソルベット国王の代理として頑張っていたアリシアは、その責任のために自分のやりたいことを封じることのできる強くて聡明な人であり、自分よりも民を優先して考え行動してきたからこそ、彼女は国民に愛されていた。ゆえに、国民がアリシアにありのままにアイカツしてほしいという願いは、わかる。しかし、そのためにあまりにも見え透いたウソをでっち上げ、これまで「大人」として振る舞ってきたアリシアがそれを信じてアイカツの封印を解くという、個人的にはかなり違和感のあるエピソードを持ってアリシア・シャーロットはアイカツの世界に帰ってきた。アイカツの世界に引き戻すために、都合よく唐突にIQを下げられたアリシアの姿は、作劇の限界を感じ取ってしまう。
このブリザード問題は終盤のジュエリングフェスティバルでも再燃することになるのだが、ここへ来ての解決策は「祈り」である。ピュアパレットにステージをさせてあげたいと願うアイドルたちの叫びを聞き取って突如その勢力を弱めるブリザードさんも、「鐘」同様にフレンズを見守る世界のシステムなのかもしれない。あるいは「脚本の都合」とでも呼ぶべきか。
何にせよ、「敵」「敗者」を極力設けないという優しい物語は、ドラマの盛り上がりを生じさせる装置として天災を選んだ。その結果、とくにロジックのない「想い」優先の作劇がなされ、キャラクターの行動もどこか現実味を欠いた、なんだか「子供だまし」にも近い言動を取るようになってしまった。「辛い時こそ笑顔でどうぞ」という名フレーズに代表される働く人としての目線を持つ作品だからこそ、このおざなりさは残念でならなかった。
未来へ、あるいは『オンパレード!』へ。
なんだかネガティブな言葉ばかりになってしまった。前述したフレンズに偏った物語へのカウンターとして期待していたココや春風わかばの処遇には物足りなさが残ったし、ジュエリングドレスが全員分揃わなかったのも、何らかの事情があったのだろう……こればっかりは関連書籍などを読んで察するしかないのが後追い勢が出来る精一杯だ。
言い訳みたいになるが、『フレンズ!』の物語を楽しめたし、欠け落ちたものばかりに目を取られ本作ならではの魅力を受け取りきれなかった私の審美眼こそを疑ってほしい。どんなに呪詛を並べても、「友達っていいな、フレンズっていいな」という友希あいねの言葉が正しくて、全てであることには変わりないのだから。そんなフレンズたちから受け取った優しさを胸にたくさんの子どもたちが育っていったことを思えば、成人男性の戯言なんぞに耳を貸す必要はないからだ。
さて、残すところいよいよ『オンパレード!』だけになってしまった。全てのアイカツ!本編を観てしまったら、後には何が残るのだろうか。何もわからない。今は、何も……。
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