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『未解決事件は終わらせないといけないから』を見届けたので。
『未解決事件は終わらせないといけないから』を終わらせた。もっと詳細に言うのなら、セールで買った『未解決事件は終わらせないといけないから』をずっと寝かせていることをフォロワーに弄られ続けているので年始休みに一念発起して終わらせた、である。
前評判通り、とんでもないゲームであった。複数の証人の発言がタイムライン状に並び、発言内の矛盾や嘘を見抜き、発言の主と時系列を正しいものに並べ替えていく。最初はワケのわからない文字と状況の羅列でしかなかったものが、ある瞬間に一本の線に連なるような感覚があり、後はそのまま一直線になるまで解きほぐしてゆく、あの快感。しかしその攻略順はある程度プレイヤーに委ねられているというのだから、とんでもない完成度だ。エンドロールのテストプレイの人数も納得である。
プレイ時間としては2時間半ほどで、ちょうど小説一冊を読むのと体感が近く、その点でも遊びやすい作品であった。なぜこれを起動するのはこんなに腰が重たかったのか、昨日までの自分は理解に苦しむ。そしてもし、未解決事件を終わらせずにこの文章に辿り着いている人がいるとしたら、回れ右してこのゲームを遊んでみてほしい。本作は一度きりの体験であるからこそ、こんなnoteでわかった気になるべきではないからだ。
【注意】ネタバレしかない
「この事件、初めて接したときにすごく驚いた覚えがあります。
誰もがそれぞれの理由で嘘をついてました」
『未解決事件は終わらせないといけないから』は、記憶のパズルのピースを探して組み替え、未解決事件の謎を解く推理ゲームです。
退職した元警察官・清崎蒼をサポートして、陳述と手がかりを集め、事件の真相を確かめましょう。
2012年2月5日、公園で遊んでいた少女・犀華が行方不明になったという通報があった。警察は聞き込みと捜索を繰り返すが、事件は解決せずに未解決事件の書類ファイルに眠る。
清崎蒼警部の退職から12年後、ある日訪ねてきた若い警官。彼女は清崎が解決できなかった「犀華ちゃん行方不明事件」を終わらせるよう協力を要請してきた。
清崎はバラバラになった記憶のかけらを思い出して再構成するが、明らかとなったのは犀華の周りの全員が嘘つきだったということだけ。
本当に、もう、凄かった。それに尽きる。
本作は、ある程度謎の解明が進むと、BGMに変化が現れるようになっている。これはプレイヤーの推理が正解に向かっていることを示す合図であっただろうし、どんどん確信に近づいていく興味と不安に寄り添うような仕掛けで、とにかく止め時を忘れてプレイした。ゲーム側に上手く誘導されているに過ぎないのだけれど、作者が設定したミスリードを暴いてやった時の興奮は、筆舌に尽くしがたい。
ところがその興奮は、一瞬で背筋を凍らせるものに変わった。まさか、と頭の中で薄っすらとあった一つの疑念、「犀華という少女は二人いるのではないか」が真であるとわかった瞬間に、BGMに変化が生じたからだ。この心臓を鷲掴みにされるような感覚は、もう二度と味わえない。『未解決事件は終わらせないといけないから』というゲームは、一回こっきりの体験であるからこそ、プレイした誰もがネタバレに気遣うのだと肌で理解した。
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「誰もが嘘をついている」と最初からアナウンスされていた通り、全てに疑いの目を向けていた。そしてそのキャッチコピーに偽り無く、登場人物の全員が嘘をついていたのだけれど、その嘘の大半は誰かを守ったり、庇ったりするためのもので、その矢印が原島理佐子に収束していく様を見るうちに、「数奇」としか言いようがない複雑な心境に囚われていくことになる。
愛娘の死と向き合えていたら、ちゃんと死亡届を出せていたら、弱っていく彼女に手を差し伸べていれば……。そんな「たられば」を穴埋めするように起こった二回の誘拐事件は、宮城犀華という何の罪もない少女に癒えぬ傷を残したのかもしれない。当の理佐子については、そもそも本当の意味では「嘘」ではなく、彼女の歪んだ認知が見せてしまった幻想のようなもので、人間の「記憶」とは都合よく書き換わっていく危ういものであることを痛感させられる。
だからこそ、未解決事件は終わらせないといけないのだ。誤った記憶が真実になってしまう前に、組み立て直さねばならない。理佐子を守るために意図的に葬られるはずだった事実は、生き残ってしまった人たちが明日を生きるための軸にしなければならない。解体された事件の謎を組み上げていくプレイヤーは、この行いが自分を傷つけてしまうのではないかという恐怖に葛藤し、それに打ち勝とうとする理佐子の意思そのものであったのかもしれない。終わらせることで、救えた命があることは、希望なのだ。
この想いは、ずっと頭の中で残り続けると思う。未解決事件を終わらせたことは、正しかったのだと。
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