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『CRYSTAR -クライスタ-』カタルシスを得るための苦行を愛せるか?

 『星のカービィ ディスカバリー』をクリアしました。さすがは安心と品質の任天堂&ハル研だけあって、ポップで親しみやすいゲームデザインながら終盤には手強い挙動のボスとの闘いもあり、万人にオススメできる良作でした。ワドルディの街にわたしも住みたい。

 そう、カービィは間違いなく面白いし、switchのオススメタイトルを選べと言われて100人中98人くらいはディスカバリーを挙げると思う。ですが、万人に薦められるということはすなわち「尖っていない」のです。……いや、カービィの容姿の話ではなく、ゲームデザインもキャラクターも音楽も背景も何もかも、カービィにはトゲがなくてユーザーにケガを負わせない、ユニバーサルな仕上がりになっている。そして、そうした人畜無害なゲームでは物足りない捻くれた人間というのも、確かに存在するのです。

 昨年発売の『カリギュラ2』がまさしく「尖った」ゲームで、ボーカロイド文化を背景に持ち「現代病理×偶像殺し」という物騒なテーマを引っさげた異端児は、社会と自分との間に軋轢を抱いてしまった者たちが敵味方に分かれつつも善悪という二分論で切り捨てられることなく、多種多様な悩みや後悔に寄り添いながらもそれらを無下に否定しない態度に満ちており、歪ながらも優しい物語が展開されました。

 個人的には、配信機材と少しの知識があれば誰でも発信者になれる時代、すなわち「誰もが誰かのアイドルになれてしまう時代」に対して一つの答えを提示したエンディングのとある展開は、先鋭すぎるあまり数年後には通用しなくなってしまう危険性を感じさせつつ、虚を突かれたような驚きと感動が待っていて、ぜひともたくさんの人に触れてもらいたいと常々思っています。

 大手の万人向けタイトルが取りこぼしてしまうテーマへの目線を持ち、多数派よりも少数派に刺さる作品で勝負する。そんな気構えが見えるのが『カリギュラ』シリーズを送り出した最近のフリュー。グラフィックや演出は二~三世代ほど前のクオリティだし、音楽やストーリーが一級品でも予算と開発力がコンセプトに追い付いていない。そんな印象を抱かせるフリューの自社タイトル群ですが、少なくとも光るところはたくさんあって、それが刺さった少数派だからこそ、応援したくなる。それが『カリギュラ』以降の私からフリューへの片思いの矢印なんです。

 そんな折に思わず手に取ったのが『CRYSTAR -クライスタ-』というタイトル。元は2018年にPS4専用ソフトとして発売されたアクションRPGで、後にsteamとswitchにて移植版がリリース。プロデューサーは後に『モナーク』を手掛ける林風肖、シナリオは『Kanon』の久弥直樹、開発はジェムドロップが担当している。美麗なイラストの美少女が、泣きながら剣を握る――。一筋縄ではいかないだろう雰囲気にフリュー懇親の新規タイトルの息吹を感じ、switch版を購入しました。まさかカービィより高い買い物になるとは思わず苦笑するも、これまた応援したくなる一本だったのでご紹介したいと思います。

心が軋むダークなストーリー

 学校に通わず、家に引きこもりがちの少女・幡田零は、死者の魂が流れ着く「辺獄」と呼ばれる世界に、妹のみらいと共に迷い込んでしまう。不気味な世界を旅する中で零は守護者ヘラクレイトスの力に目覚め、辺獄に点在する魂である幽者と闘う力を手にする。しかし、彼女たちを辺獄に誘い込んだ幽鬼アナムネシスとの闘いで力を暴走させてしまい、零は自らの手でみらいを殺してしまった。

 悲嘆に暮れる零の前に現れたのは、辺獄を管理する双子の悪魔。悪魔は「イデア」と呼ばれる自意識の結晶を集めれば、みらいを「ヨミガエリ」させることができると語る。零は悪魔と契約し、妹のヨミガエリのため辺獄の最下層へ向かう。

 序盤から、おそらく無念を残したまま現世を去ったであろう魂(蝶々の形で辺獄を彷徨っている)から絶望と慟哭に塗れたテキストが投げ込まれ、思わずギョッとする。死者の魂が流れ着き、次なる転生のために生前の記憶や自意識を真っさらにクリーニングするために旅をする場所こそが舞台となる辺獄であり、その陰鬱とした雰囲気は最後まで続く。

 彼らと同じく蝶々の姿で彷徨っていた主人公の零は、自分が何者であるかを思い出し人の姿を取り戻すも、異形の化け物に囲まれ闘うことを余儀なくされる。まるでスタンドのように自分に追従する守護者の存在は『ペルソナ』のようでもあり、辺獄の風景は『魔法少女まどか☆マギカ』の魔女空間を彷彿とさせる。同作の劇団イヌカレーによるアニメーションを思わせる演出もあり、引用元として『まどか』の存在は大きいのかもしれない。

 ダークな作風かつ、零をはじめとする代行者(プレイヤーキャラクター)たちは全員女性なため、広義の意味では「魔法少女モノ」として読み解くこともできるでしょう。ただし、彼女たちは奇跡を願った代償のために闘うのではなく、それぞれが後悔と贖い、復讐といった仄暗い動機を持ち、幽者や幽鬼といった魂=元は人間だったものと闘うことを強いられます。零は妹を自ら殺めた罪を抱え、他の代行者たちも記憶の断片に触れることで生前の姿が明らかになり、そのどれもが悲惨で目を覆いたくなるほどに暗い。

 彼女たちは闘いの中で各々の傷と対面しつつ、それらが完全に癒されることはなく、折り合いをつけながら闘いに身を投じていくのも本作ならでは。「カタルシス」もテーマの一つとして挙げられながら、鬱屈からの解放がクライマックス近くまでお預けさせられる思い切った構成になっており、陰鬱なストーリーがずっと続くため脱落する人も出るかもという印象。

 一方で敵の設定も凄まじく、フィールドに散らばる幽者と呼ばれる敵も、その中身は自意識が芽生えかけている死者の魂という設定で、自らの魂の欠落を埋めるために生きた魂である代行者に襲い掛かってくる。その幽者の中でも頭上に輪っかがある「幽鬼」はとくに強い自意識を保ち、ゆえに死んだ際の記憶も鮮明であるという設定から、幽鬼を倒しその魂を獲得すると彼らの呪詛が画面を埋め尽くすという演出があり、主人公の零が自室に戻るメニュー画面でもず~~~っとネガティブな言葉が宙に浮かぶという凶悪演出。

 さすがにそのままだとプレイヤーと零ちゃんの精神衛生上に悪い、ということで、その魂を浄化する作業を行います。それが「泣く」ことであり、涙によって浄化された魂は「思装」と呼ばれる装備品に変化。その思装を合成して強化したり破棄してスピリットと呼ばれる貨幣に変換して、代行者を強くする。「泣いて戦うアクションRPG」と銘打たれた本作ならではのシステムで、アクションパートを終えメニュー画面に戻るや否や零ちゃんを泣かせて装備を回収するプレイヤーは、物語に介入するもう一人の「悪魔」と呼べるのかもしれません。

 ちなみに、幽鬼の魂を浄化すると元となった魂の「断末魔」が解禁され、その人物の死因や隠された正体が明らかになる……げっそりするような要素もあります。いずれも悲惨な死に方をした魂の集まりだったりするので、他人の不調に引きずられやすい方には要注意。

 陰惨な要素ばかりが目に付く作品ですが、ストーリー終盤こそ熱くカタルシスに満ちた展開もあり、丁寧にキャラクター描写を積み重ねてきたからこそクライマックスには大きな感動が押し寄せる、実は王道な仕上がりになっているのも事実。苦しみや悲しみを乗り越えながら、涙の数だけ強くなってきた少女たちの旅路を見届けた時、きっと遊んでよかった!と思わせるだけのポテンシャルは秘めています。それだけに人を選びすぎる後述のアクション要素が勿体なさすぎるのですが、『カリギュラ』『モナーク』ユーザーなら最後まで付き合っても損はありません。

たまにこっちが泣きたくなるアクションパート

 物語、キャラクターデザイン、音楽、細かい用語設定まで行き届いたテキストの数々。そのどれもが作りこまれ素晴らしいものであることは断言できるのに、アクション要素が布教に足踏みをさせる、そんな出来栄えになっているのが惜しい。惜しすぎる。

 弱攻撃、強攻撃、SPを使用する必殺技の他ジャンプと無敵時間を有するダッシュがある、3Dアクションの基礎的な操作は兼ね備えている本作。ところが、本作の戦闘は驚くほどに爽快感がない上に、プレイヤーにストレスを感じさせる要素が多いんですよね。主に理由は以下の3つ。

①キャラクターの動きが「固い」ため、思うように動かしづらい。

 たとえば、攻撃の硬直をキャンセルするためにダッシュのボタンを押しても「しっかり攻撃のモーションが終わってからダッシュする」という風になっていて、プレイヤーの操作からキャラクターの動作に至るまで1秒ほどのラグが生じているような手ごたえがあり、これが気持ちよくない。というより、モーションのキャンセル自体がないのかな?と思うほどに、操作感は鈍重。

②被弾後の硬直が長く、無敵時間が発生しない。

 そのため、複数の敵に囲まれた場合一発でも喰らえば連続で被弾するし、ボスの中に広範囲&高誘導な連射攻撃を行う者もいて、たとえかすり傷のようなダメージでも回避の操作を受け付けない長い硬直によってハメられてしまい、全開だったHPが一瞬で半分以下、なんてシチュエーションもあり得ます。そうした仕様を見越したかのように、プレイヤーキャラクターをダウンさせず棒立ちに硬直させる攻撃ばかり繰り出す敵がいて、最優先に駆逐しない限りワンミスで半壊~壊滅状態になることも。

③プレイヤーキャラクターの攻撃範囲が狭い。

 ただ狭いのみならず、「画面上密着しているはずなのに攻撃が当たらない」という場面も多く、フラストレーションが溜まります。目前に複数の敵が迫ってきても目の前の一体しか攻撃が当たらずに側面から被弾したり、範囲攻撃の必殺技を使っても絶妙に届かなかったりと、一々「痒い所に手が届かない」バランスになっているのは、最早何らかのこだわりを感じずにはいられません。とくに近距離ファイターの小衣は攻撃範囲が誰よりも狭いため、難易度はグッと上がります。

 これらの不備を抱えたアクションパートは、辛辣な言葉になりますが「苦痛」に感じる瞬間さえありました。こちらの攻撃は中々当たらず、ぎこちないモーションを繰り返しては味気ない戦闘を噛み締め、理不尽な硬直ハメでやる気を失う。バトルの負担を減らすために難易度を「易しい」にしてもこの有様だったため、3Dアクションに不慣れな人には素直にオススメしづらいのです。というか、苦痛なアクションを早く終わらせるために難易度を下げる行為は、本当にゲームを楽しんでいると言えるのでしょうか?

 それでも遊んでみたい、という方へのソリューションが一つだけあります。中盤から仲間になる777(ナナナ、と呼ぶ)は唯一、遠距離攻撃に特化したキャラクター。攻撃の射程も長く速射性もあるためダメージ効率は他キャラよりも抜きんでたものがあり、ハッキリ言ってこの娘一人いれば何とかなります。敵の殲滅速度もダンジョンの踏破効率も一気に上昇するので、逆に777を使わないと縛りプレイと揶揄されるほどに、彼女は優秀なのです。仲間と力を合わせて闘う、そんなコンセプトを崩壊させかねないバランスブレイカーの力を存分に借りて、辺獄ライフを生きていきましょう!!

 ……とまぁ戦闘面は悪口が目立ってしまったんですけど、マップデザインも薄味です。幻想的な美術やBGMは素晴らしいのに、分かれ道が多く時間を食うデザインでアスレチック要素もないため遊びを拡充してくれないし、段差によってこっちの攻撃が空振りになりやすいのも難点。しかも物語の展開上、とある章を周回プレイする必要があるのですが、なんとその間マップやボスも使い回しが目立ち、ストーリーを読み進めたいモチベーションにブレーキを踏ませられてしまう。いくら何でも敵とマップにボリュームを持たせられなかったのか?という意味で予算とスケールの限界を感じてしまうのも、フリューならではなのですが……。

それでも嫌いにはなれない意欲作

 鬱屈が続くシナリオ、気持ちよさに今一届かないアクションパート。ハッキリ言って、高いお金と長い拘束時間をかけてまで万人にプレイしてほしい作品だとは言い難いのも正直なところ。ゲームとしてのオススメ度も質も、断然『カリギュラ2』に軍配が上がります。ですが、本作はどうしても見捨てがたいというか、深く深く刺さる人は必ずいるだろう。そんな確信があって、蛇蝎の如く嫌うことも出来ないタイトルなのです。

 アクションパートの粗には目をつぶるとして、シナリオと音楽と美術、そして何よりキャラクターボイスを担当された声優さんの熱演は、数多のタイトルと肩を並べて闘えるポテンシャルが十分にあります。物語は妹を自ら殺めてしまった零のトラウマに始まり、復讐に闘志を燃やす小衣、己の正義を貫きたい千、幽鬼でありながら人のような存在である777が集い、それぞれの運命が糸のように絡み合いながら展開され、地獄絵図のような人間模様に思わず絶句。さらにその上を行く、愛というよりは「情念」と呼びたくなるほどの大きな感情を持つとあるキャラクターの存在が物語の湿度を高め、終盤のループ構造の意味を知った時は、私はどうしてもあの愛するアニメのタイトルを思い出さずにはいられませんでした。

 少し踏み入った話をすると、本作のテーマはやはり「復讐」ですが、その対象が移り変わるところに、物語の醍醐味が詰まっています。人々を現世から辺獄へと引きずり込む幽鬼アナムネシスはもちろんのこと、その奥に潜むより強大な悪との闘いが少女たちを待ち構えており、そしてそれらの物語を見守ってきた“誰か”は「運命」そのものへの叛逆を志し、涙しながらも前に進む。全ての哀しみと別れと涙に意味を与えるような、壮大な物語の結末はアクションパートという押し込められた鬱屈からの解放、本作が目指す「カタルシス」のコンセプトに相応しいフィナーレでした。

 先ほどあえて「湿度」という言葉を持ち出したのですが、実は本作、百合としても大変な強度を誇る一作。それも全人類が愛してやまない姉妹百合で、しかも一種類(一組)ではありません。これ以上はネタバレを含んでしまうので濁しますが、千本木彩花さんに情緒めちゃくちゃにされてしまうのも、乙なものです。しっとりとした狂愛がたまらなくお好きな方は、ぜひ手に取っていただきたい。もちろん、イヤホンは忘れずに。

 この世は、面白いアクションゲームも、雰囲気ゲームも、ノベルゲームも、数えきれない程に溢れています。それらの名作群を差し置いてでも『CRYSTAR-クライスタ-』を遊んでくれと言うのは、正直憚られます。しかしながら、ダークで疑心に塗れた物語が一転して大団円に転じるカタルシスは、ゲームという体感性を伴ってより強く心に刻まれ、プレイヤーとしてそこに介入したという意識は、作品への愛着を深めてしまいます。極めて斬新というわけでもないし、日陰者として生きている人が救われる内容とまでは言わないけれど、涙しながらも剣を振るい続けてきた少女たちに感じる慈しみの情は、長いプレイ時間に見合うだけの価値はあったと信じさせてくれました。

 キーワードは「疑心暗鬼」「葛藤」「理念」「復讐」「罪悪感」「エゴ」、そして「」。独特の熱量を持つことで有名なフリュー愛好者なら、アンテナが反応するのではないでしょうか。今すぐ買え!とは言いませんが、心の片隅にでも憶えておいてくれると嬉しいです。

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