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白銀リリィが出会わせてくれた、ぼくのはじめての「アイカツ!」

 何やかんやあって、『アイカツスターズ!』を履修している。これが初めてのアイカツ!で、感想をタグ付けして投稿しているとアイカツファンからいいねやフォローを受けることがあり、こちらの界隈でも初見の感想は貴重なご馳走として受け入れられているのをひしひしと感じている。

 前々から『アイカツ!』を観て欲しいというリクエストがあり、様々な切り口でのプレゼンを受け興味が湧いたりはしたものの、やはり全100話のハードルは高く、中々手が伸びないまま時は過ぎていった。そんな私の重い腰を上げさせたのは、やはり「推し」の力なのである。アイカツスターズ!には上田麗奈さんが出ている……。その一言で、私の初めてのアイカツ!は初代をすっ飛ばして『スターズ!』になってしまった。だって、上田麗奈さんがいるんだもん……。

 私が上田麗奈さんにやられてどうなったかはこちらの記事を読んでいただくとして、普段なら怖気づいてしまうような話数のアニメでも、上田麗奈さんが命を吹き込まれたアイドルに会いたい!というモチベーションがあれば簡単に再生ボタンを押すことが出来た。ゆめちゃん風に言うなら「アイカツ!始めます!」だ。

 『アイカツスターズ!』の舞台は、全寮制のアイドル学校・四ツ星学園。ここでは「花の歌組」「鳥の劇組」「風の舞組」「月の美組」の4組に分かれ、入学した生徒は各々が伸ばしたい部門に合わせて組み分けされ、各組の頂点は「S4」としてユニットを組み活動することができる。S4は専門のブランドを持つことが許されたり、メディアでの露出も増えるため、事実上アイドルの頂点とも言える存在。四ツ星学園に入学した生徒はS4に憧れ、自分もその座に就くべく日々鍛錬に励んでおり、それらの活動を総称して「アイカツ」と呼ぶのである。

 その四ツ星学園に帰還したのが、ツンドラの歌姫こと白銀リリィその人である。ミステリアスかつクールな印象を抱かせる女の子で、中々お目にかかれないことから学園七不思議ならぬ「四ツ星学園七つのラッキー」の一つにされているくらいの、かなり謎めいた少女。

 彼女は、アイドルとしてステージに立つだけでファンは驚愕し、ライブは必ず満席になってしまう。なぜなら、次いつ会えるのかわからないからだ。白銀リリィは幼少期から身体が弱く、ゆず先輩曰く「風邪が流行れば必ずかかる」というくらい、リリィはベッドの上で時を過ごしていた。物語が始まった時点では2年生だが、1話から登場しなかったのは「夏は毎年静養しなければならない」からであり、腕立て伏せを2回行っただけで体調を崩し、レッスンのほとんどが見学になってしまう、という描写さえあるくらいだ。

 『アイカツスターズ!』では、「個性」という言葉が重要視されている。1話でアンナ先生は各々の個性を見つけて伸ばすよう新入生に伝えるし、虹野ゆめが自分の個性に悩む話や、「ひめ先輩のようになりたい」という考えそのものを疑問視されるエピソードがあるくらいで、人気商売であるアイドル業界の頂点を往くには人を惹きつける強烈な個性が必要なのだと、本作は訴えている。

 この場合の個性が「他人にはない自分だけの特性や能力」を指すのであれば、白銀リリィの個性は「病弱」ということになってしまう。言うまでもなく、これは彼女がアイカツをする上での大きすぎるハンデを背負わされていることを意味する。同級生や後輩が日々アイカツに勤しむ間、自分はベッドの上で身体を休めることしかできず、経験と実力の差は日に日に開いていくだろう。だからこそ彼女は人一倍努力しようとするが、身体がそれを許してはくれない。この上なく不条理で、理不尽な運命に苛まれた女の子・白銀リリィ。

 しかしそれでも、美しく気高いリリィは、自らの不運な境遇を嘆いたりはしない。療養中は本を読んで知識や偉人の言葉を蓄え、「自らがプロデュースしたブランドのドレスを着てステージに立ちたい」という夢に向けて、静かに闘志を燃やしているのだ。いつかはS4へ、歌組のトップへ。それはまるで、「不思議な力」によってスターダムへの階段を登りつめている虹野ゆめに対するレジスタンス。泥臭く血を這うような努力と、命を削ってなお輝く、人間・白銀リリィの生を賭した羽ばたき。彼女は、命が、アイドルが、有限であることを誰よりも知っているからこそ、こう言って自分を鼓舞するのだ。「白銀リリィ、このひとときに魂を込めて」と。

 さぁいよいよ、白銀リリィ最初のステージだ。なぜだかこっちまで緊張してきた。果たして彼女は、最後までパフォーマンスをやり遂げることが出来るのか。いや、何を言っているんだ私は。彼女は白銀リリィだぞ。ツンドラの歌姫が、歌を届けずして散るものか。さぁ、その命の輝きを見せてくれ。その情熱の炎で私を焼いてくれ。こちらはCDを買う用意は出来ているんだ。白銀リリィには上田麗奈……様!!という現代の歌姫がついているんだ。何も怖いことはないじゃないか。よっしゃいつでも来いこっちは丸腰だぞ、遠慮はいらん、おれを殺してみ………んんんんんんん????

声、違くない?????????????

 そう、この時、私は完全に忘れていました。『アイカツ!』とは元来、キャラクターにはそれぞれ声優と歌唱担当がいるということを。上田麗奈さんが声を当てている白銀リリィは、上田麗奈さんの声で歌わないということを、忘れていたのです。ここまで20数話観ていながら、私はなぜか白銀リリィさんは上田麗奈さんが歌うものだと、錯覚していたのです……なぜ……。

 この時私が受けた衝撃を、皆さん想像できますでしょうか。具体的に言うと一旦そこで視聴が止まりました。連休中にペース上げて、できれば2クールの折り返し地点まで行けたらなぁとボンヤリ思っていたのに、23話で私のアイカツマラソンは歩みを止めてしまったのです。上田麗奈さんであって上田麗奈さんではない、そんな白銀リリィに、少し距離を置いてしまったのです(そして『カリギュラ オーバードーズ』のサントラを聴く)。

 が、しかし。この態度は『アイカツ!』に対して、あまりにも無礼ではないか。台風の余波で大荒れ模様を見せる雨雲を見つめながら、私はそう思ったのです。4世紀のミラノ司教・聖アンブロジウスは言っています、「When in Rome, do as the Romans do」と。

ゆず先輩「郷に入れば郷に従えってことだよね♪
だいじょーぶ!ゆずも付き合うから!」

 私の頭の中のイマジナリーゆず先輩も応援してくれました。ありがとうございます。そうです、アイカツ!を学ぶのなら、まずは私がアイカツ!にならなければなりません。アイカツはキャラクターと声優と歌唱担当の三位一体でこそ成り立つもの。であれば、私は白銀リリィを構成する全てを、愛さねばなりません。それが「推す」ということなのだから。そうですよね、松岡ななせさん!?!?


 まず私は、「Dreaming bird」を何度も聴きました。病弱で儚げなリリィとは対照的に、激しい踊りを必要とするパフォーマンス。その歌詞には、翼を奪われ鳥かごに身を潜めるしかなかった少女=リリィの決意が、欠けた物を取り戻せないのなら、今の私で闘うという意思表示が、そこにはあったのです。

その場所へ飛んでいくことはできない
ならせめてこの歌声だけでも届け!
すべての傷を癒やす女神にはなれなくても 
木漏れ日のような安らぎを
恐れることなどない 
この青空の向こうにいる あなたへ
あなたへと歌う
あなたへ

折れた翼のせいにはもうしない
この手のひらに残された希望の種をぎゅっと握りしめて
いま歌わなくちゃ

 いや、めっちゃええやん……。めっちゃいいんですよ「Dreaming bird」って。薄幸の歌姫などと呼ばせない、必ずやS4になってやると言わんばかりの力強い歌唱とメッセージ性。その命尽きようとも、支えてくれたスタッフや自分の帰りを待ってくれていたファンのために、100%のパフォーマンスを披露するプロ根性。それらが全て詰まったのが、23話のステージなんですね。今、理解(わか)りました、「アイカツ」が何なのか

 そうして『アイカツスターズ!』への意欲を取り戻した私は今、27話まで到達しました。そこには、幼馴染であるゆず先輩との確かな親愛と、2度目のステージにかける想いの強さを、ひめ先輩のお仕事に密着しそれを超えようとする強さと、先輩らしさを垣間見ることができました。白銀リリィはいつだって気高く美しく、それでいて優しい先輩でもあるのです。いや、もう推せる。推したい。いまめっちゃ、白銀リリィがアツいのです。

 私は白銀リリィさんから、「アイカツ」とは何たるかを学びました。入口こそ不純でしたが、今では「上田麗奈さんが白銀リリィ役で無かったらアイカツスターズ!を観ていなかった」世界線の可能性に気づき、戦慄しております。もうこれで、全100話のマラソンに臆することはなくなりました。白銀リリィさんが魂を込めて歌い、舞う限り、私のアイカツも終わりません。どうぞ、最後まで見守っていただければ幸いです。よろしくお願いいたします。

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