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『メトロイドプライム リマスタード』はようやく出会えた“オモロイド”

 2023年2月9日、布団から出ることを何よりも忌み嫌うはずの私の目覚めが珍しく快調だったのは、その日が「Nintendo Direct 2023.2.9」の配信日だったからだ。胸躍るようなラインナップがサプライズ的にどんどん発表されるニンダイはいつもお祭りのようにワクワクしてしまうのだが、思いもよらぬタイトルが即日配信とのことで、衝動的に購入してしまった。そのゲームこそ『メトロイドプライム リマスタード』である。

 実を言うと、『メトロイドプライム』は長年“憧れ”のゲームだった。幼少期、今は亡き町のゲーム販売店にて繰り返し本作のPVが流れていて、衝撃的だったのだ。当時はまだ「FPS」なる言葉も一般的では無かったため、一人称視点のゲーム画面を生まれて初めて目にしたこと、主人公サムス・アランのパワードスーツの格好良さ、『エイリアン』を彷彿とさせる陰鬱でダークな宇宙船探索……。一目で「これは大人のゲームだ」と判断した私はこのゲームを誕生日プレゼントにおねだりするような度胸はなく、代わりにゴジラのゲームを買ってもらい熱中することになるのだが、胸の片隅にはあのSFゲームへの憧れが残っていたのだろう。

 それから時は経ち、少年は成人して、「Nintendo Switch」を手に入れた。有料サービス「Nintendo Switch Online」に加入すると、ファミコンやスーパーファミコンといった懐かしのハードのタイトルを遊ぶことが出来る。その棚に並ぶ『メトロイド』『スーパーメトロイド』の文字に、幼少期の興奮が蘇ってきた。ついにメトロイドを遊ぶ時が来たのだと、新作ゲームを中断してまで、私はサムス・アランと一体となって惑星ゼーベスに降り立った。

 が、数時間後には、新作ゲームに舞い戻ってしまった。志し半ば、愛しのサムス・アランはメトロイドのメの字も拝まぬまま未知の惑星に取り残され、「スマブラでチャージビームを撃つお姉さん」という事前知識は全くアップデートされることはなかった。

 メトロイドは、難しかった。迷路のごとく入り組んだ2Dフィールドは頭の中で意味不明な螺旋図を描き、壊せる壁壊せない壁を判別できずいたずらにミサイルを消費しては残弾ゼロの表示に途方に暮れ、挙句の果てには「壁キックが出来ない」という世にも恥ずかしい“詰み”にぶち当たって、抜け出せないフィールドで右往左往するサムスに切なくなってしまい、冒険はそこで終了となってしまった。続けて二作の2Dメトロイドを挫折したことで、このタイトルへの畏怖はより強まったと言える。攻略サイトやYoutubeに頼ることなくこれをクリアできた世代、マジでスゴイと思う。

 そんな2Dメトロイド弱者が、3D=奥行まで増えたメトロイドをクリア出来るわけないだろう―。という懸念が襲ってきたのは、決済を済ませソフトのダウンロードが始まった頃だ。もう引き返せない。過去の憧れだけでクリアできるほど、メトロイドは甘くないだろう。自分の稼いだお金で買ったゲームを自ら断念することほど、悔しいものはない。鬼武者(PS2)、エイリアン・アイソレーション、ディヴィニティ:オリジナル・シン2……タイトルを目にするたびに胃が痛む過去の挫折がふいに襲い掛かってくる。その末席に本作も加わることになってしまうのか否か、私VSメトロイドのリベンジが、ターロンIVにて幕を開けた。※以下、操作は『リマスタード』に準拠。

 ……という実に長ったらしい前置きをしておいて何だが、数日かけて『メトロイドプライム リマスタード』をクリアした。道に迷い、溶鉱炉に落ち、停電でパニックになりとスマートなプレイとは程遠かったけれど、何とかエンディングまでたどり着いた。取りこぼした要素も多々あれど、まずはクリアという「納得」に至れたのが大きい。そして何より、「メトロイド・オモロイド」という名コピーに偽りなし、ということを伝聞でなく実体験として会得できたこと、それが最高の収穫と言えよう。

 まず誤解していたのは、『メトロイドプライム』は「一人称視点であってFPSではない」ということである。確かに主人公サムスの視点で広大なマップを冒険する本作だが、ビームやミサイルを敵に当てる際には精密なエイムを必要とせず、偉大なる大先輩が起こした3Dアクション革命であるところの「Z注目」が本作にも採用されている。本作はむしろ正確なエイムよりも「敵を画面に捉え続けること」「敵の攻撃を回避すること」に重点が置かれており、ロックオンした敵を中心に円を描くようにサムスを動かすことで直線的な突進やミサイルをかわし敵の隙を付いて攻撃を叩きこむ、この基本が楽しい。

 このロックオンシステムは戦闘のみならず「探索」においても重要な意味を持つ。舞台となるターロンIVではあらゆるオブジェクトやギミック、果ては死体に至るまで数えきれないほどのスキャン対象があり、それを「スキャンバイザー」で読み取っていく。仕掛けの解除に必須なアクションでもあるのだが、その多くはストーリーや背景に横たわる設定を開示するためのフレーバーテキストであり、新しい部屋に着いたらまずスキャンバイザーを起動する癖が出来上がっていく。その際に役立つのがロックオンで、カーソル(視点の中心)を近づければ自動で対象物に吸い寄せられていくので、取りこぼしを起こさせないようかなり気を配ったデザインが随所に目立つ。

気になるものがあればスキャンバイザーを起動してロックオン、戦闘が始まればまたしてもロックオン。何よりもお世話になるのがロックオンに該当するZLトリガーであり、プレイ中のほとんどの時間このボタンから指が離れることはない。対人戦を基本とし個々人のエイム能力がキル数として可視化されるFPSとは異なる、「一人称視点を極めた3Dアドベンチャーゲーム」こそが『メトロイドプライム』の実態だったのだ。

とりあえず新しい敵を見つけたらロックオンしてスキャン。

 3Dで一人称視点、という新たな表現に着手した本作だが、『メトロイド』の基礎の基礎、面白さの神髄は正しく受け継がれている……という想像はできる。それはなんといっても、「探索」の醍醐味だ。

 ゲームが始まれば、サムスは広大なマップに一人取り残される。最近のオープンワールドゲームみたいにマップに目標地点が表示されることもないので、ただただ目についたゲートに向かって進んでいくしかない。故に最初こそ不親切なゲームだなと思うこともあるが、思い返せばその実はまったくの逆、とても丁寧で考え抜かれたマップデザインによって心地よく「誘導されていた」という感慨を得る。

 行き止まりに差し掛かっても、周囲のオブジェクトをスキャンすればヒントが表示され、特定の行動をすれば道が開けることを知る。その先で新しいアクションという「ご褒美」が得られ、さっき通れなかった道が通れるようになる。探索を続ければマップの「未到達」が埋まっていき、未開の地に対する恐怖が達成へと変化していく。本作が、というよりは『メトロイド』はこの繰り返しを気持ちよく遊ばせてくれるからこそ、「メトロイドヴァニア」なるジャンル名に冠される名作となったのだろう。

 とくに新しいアクションや装備を強化するタイプの「ご褒美」は強烈で、事前の探索にて発見した通れない場所が通れるようになったり、苦戦していた敵を簡単に倒せたりといった恩恵が得られる。出来なかったことが出来るようになるという、言葉にすれば単純だがそれ故にプレイヤーに与える喜びは凄まじく、アクションの広がりは探索範囲の拡大に繋がりそれが満足感や達成感に紐づくというゲームデザインは秀逸だ。そして、それをストレスなく抱かせるマップデザインは、一体どれほどの検証と考察を重ねたのだろうと、制作陣の苦労に思いを馳せてしまう。

ボス敵はスキャンすることで弱点を知ることが出来る。

 先の「Z注目」もあり戦闘は決して難易度が高いものに感じなかったが、いざ死んでしまえばセーブポイントからやり直しというのも適度に緊張感を与えてくれる。探索が奥へ奥へと深まっていくと「もしここで死んだら……」という想像力が働くこともあるし、回復も兼ねているセーブポイントを発見すれば不安は一気に安心へと転化する。多すぎず少なすぎないセーブポイントの数と配置も、サムスの寄る辺なさをプレイヤーが体感するためのちょうどいいスパイスになる。本当に隙が無い。

 また、本作は「探索」に注力してもらうために、ストーリーテリングにはかなり大胆な手法が施されている。ムービーが挟まるのは主に

  1. 強化アイテム取得時

  2. ボス登場時と勝利時

  3. 冒頭とエンディング

 となっており、サムスを動かせない時間を極端に少なくしている。これはプレイヤーが思う「このアイテムであそこが通れるかも」という思考から実行の間にゲーム側が介入してストレスを感じさせることを防ぐ意味合いが強く、ムービーを観ている間にどこへ行こうとしたか忘れた、なんてことは一度も起きなかった『ゼノブレイド3』はここがダメだった

 ではどう物語を語るのかと言えば、これまたスキャンで得られるフレーバーテキストにスポットライトが当たる。これらを読んでいればサムスが追うことになる「フェイゾン」なる新物質の情報や敵対組織が秘密裏に行っていたことが明らかになっていき、深みが増していく。これらはゲームの展開には影響せず、ゲームをクリアするだけなら「読まなくてもよい」というのも有難く、探索の中毒性に魅せられた身としてはこんなに嬉しいことはない。今はストーリーよりも、スーパーミサイルで壊せる壁を探す方が楽しいのだから。

マジでエイリアンに張り付かれた時の厭さがある。

 というように、戦闘を難しくしすぎない/ストーリーテリングの都合でプレイの手を止めさせない、という二つの工夫により「探索」への集中と繰り返しを促すゲームデザインは、『メトロイド』というゲームの骨子を3D空間という新しい表現においても受け継いだ『プライム』の達成であり、かつて2D作品を挫折した私が今作でついに得ることのできた“オモロイド”の部分だ。未開の惑星を隅から隅まで走り回り、壁を壊したりギミックを踏破したりしてサムスを強化していき、手ごわいボスに勝利する。これまでの軌跡がサムスのパロメーターの増強と、プレイヤーがよりゲームを理解するという満足度を高めていく。要は、「上手くなった」と感じさせるのが、凄まじく巧い。ビデオゲームを遊んでいて最も多幸感を得られる瞬間をコーディネートする能力がずば抜けている、ということなのだと思う。

 プレイヤーへの突き放しと寄り添いのバランスがとくに絶妙で、攻略に進捗がなくオロオロしていると「リモートスキャン」が発動し未入手の強化アイテムのヒントが突然開示されることもあるし、逆にこれに頼らず次の展開に進めた際はゲームを出し抜いたような錯覚も得られる。その実、巧みに誘導されているというだけなのだけれど、プレイヤーの「ひらめき」が攻略を切り開きゲーム側が時折それをサポートする本作の難易度は、骨太さと親切さを併せ持つ実にちょうどいいものだった。

 難易度が高いことには変わりないが、ドロップアウトしないよう最低限の下駄を履かせてくれる。量販店でPVを観て憧れを抱いた少年と、過去作を満足に遊べず挫折した成人と、その両方を救ってくれた絶妙な接待が施された『プライム』は、私にとっては立派な救世主だ。現代に蘇ってくれてありがとう、メトロイドアレルギーを和らげてくれてありがとう。ただ、暗いところで強い光を受けるとサムスの顔がバイザーに反射して映る演出は、闇夜に急に人の目が現れるホラー表現になっているので、マジで怖かったです。

よう、神(オレ)だぜ

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