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『幻影異聞録♯FE Encore』はアトラスの味が濃すぎる。

 『エンゲージ』『風花雪月』と立て続けにファイアーエムブレムを遊んでおり、周囲がハイラルでの冒険を進める間、ぼくだけがフォドラの大地に取り残されている。そろそろ血なまぐさい戦争から足を洗うべく、次に買うゲームを吟味する。switchで遊べるFEはあとファミコンやスーパーファミコンの移植版くらいだろう、と思っていたのだけれど、実はあと一作だけ現行機向けタイトルが存在した。『幻影異聞録♯FE Encore』だ。

 『ファイアーエムブレム』シリーズと、『女神転生』『ペルソナ』シリーズのアトラスがコラボレーションし、2015年にWiiU向けに発売されたタイトルに新規要素を追加したパワーアップ版として世に出回っている本作。実はニンテンドーカタログチケットの引き換え対象でもあるので、ティアキンとセットで購入することも可能である。

 そもそも、ファイアーエムブレム×メガテンって何だよ?と言いたくなるくらい予想外のタッグであり、わりとシリアスでダークな作風が共通している二作のコラボレーションなのに、キービジュアル等はひたすらに明るい。そして記憶を遡ると、本作は“やや特殊な切り口”で過去薦められたことがあるのだった。えっと、これもまたアイカツ!なんですか……??教えてくれスター宮……。

素晴らしい結果を期待させてもらう。
私は甘くないぞ。

 本作の舞台は現代の東京。蒼井樹は、幼馴染の織部つばさがアイドルオーディションに出場する姿を見守っていたが、オーディションの司会者が突如豹変し、つばさは不思議な空間に連れ去られてしまう。樹はそれを追って自分も異空間・イドラスフィアに乗り出すが、そこには異世界からの侵略者・ミラージュと呼ばれる存在が跋扈しており、彼らは人間の持つ表現力の結晶である「パフォーマ」を狙っており、つばさの姉が行方不明になった5年前の事件にも関連しているという。ミラージュに襲われた樹とつばさだが、それぞれクロム、シーダと呼ばれるミラージュと心を通わせ、二人はミラージュの力を駆使して闘うミラージュマスターに覚醒する。

 その後二人は、芸能事務所「フォルトナエンタテイメント」に所属することになる。何でも、芸能とは元来神に奉納するものであり、芸能にまつわる表現力が高いほどミラージュマスターとしての力も高まる、という理屈の下、つばさはアイドルデビューも果たし、樹も芸能界への進出はせずともレッスンの日々に励む……というのが導入部分。

運命を変える!

 よもやファイアーエムブレムを遊んでいて、アイドルを育成する羽目になろうとは、思いもしなかった。FEシリーズのキャラは主に主人公陣営に属するミラージュとして登場するも、彼らは「元いた世界の記憶」を失っているという設定で、それに付随して姿形も原典とは異なっている。スマブラSPで見知ったはずのクロムが全然知らん姿で出てきたので、めちゃくちゃにビビる。裏を返せば、FEシリーズに詳しくなくても、問題なく遊べる、ということだろう。なお、戦闘で矢面に立つのはマスターだが、スキル発動時にミラージュが発現する表現が取られており、見た目も役割もまんまペルソナである。

 見事芸能界入りを果たしたつばさと、それを裏から支える樹。彼らは芸能人として様々なお仕事に体当たりでぶつかりながら、同時にミラージュマスターとして人々のパフォーマを狙うミラージュと闘う日々を送ることになる。パフォーマとは人間が持つ表現力のことであり、芸能人やアーティストはパフォーマを多く持つ人材。なのでミラージュは芸能関係者を狙う傾向があり、それに対応するために自身も芸能関連に身を置くことになるのだ。

 そして、ミラージュが増幅するのは、取り付いた人間の負の側面。芸能界という競争社会の歪み、あるいは自分が求める表現を追い求める向上心のようなものに接続し、それを肥大化させることでイドラスフィアを変質させ、強大なボスとなってダンジョンの最奥に待ち構えている。

敵ミラージュは『ペルソナ4』のシャドウとそっくりだ。

 こうしてミラージュ関連の事件を解決しながら、本作のシナリオの大筋は芸能界に身を置くつばさたちのアツいアイドル活動が描かれていく。自分がどうありたいかを模索し、悩み、努力しながら目の前の壁にぶつかっていく姿は『アイカツ!』らしさを感じさせ、基本的に努力が実を結ぶ世界観なので肌触りとしては初代アイカツ!のテンションがもっとも近いような気がしている。

 『風花雪月』のような重厚な大河ドラマを期待して本作を買うと肩透かしを食らうかもしれないが、日曜朝放送のアニメのようなカラッとした明るさを伴うシナリオは読んでいて負荷がなく、アイドルアニメを好んで観る層なら抵抗なく楽しめるはずだ。というか本作、私が遊んだ中で最も人に薦める際の心理的な抵抗が最も少ないファイアーエムブレムになってしまった。もう同級生を殺さなくていいんですね!?

本当によくやった。
期待以上の結果を出してくれたな。

 本作、クロムのイメチェン以上に驚かされたのは、本作の戦闘がシミュレーションRPGでは無かったことである。

本作、所持金がインフレしがち。

 本作の戦闘はコマンド選択式のターン制RPGで、アトラス謹製ではおなじみ“弱点を突く”ことが最重要のシステム。敵の弱点を突くと、対応したスキルを持つ味方が追撃を行う「セッション」が発生し、そのセッションスキルが弱点属性ならば次の味方がセッションを繋ぐ、という風に攻撃を連鎖させ敵の攻撃を喰らう前に一方的にダメージを与え続けることが可能となる。

 この弱点を突くという行為だが、炎や氷といった属性はもちろんだが、実は武器の相性もこれに該当する。つまり、ファイアーエムブレムでおなじみ「三すくみ」が、攻略の糸口になっているのだ。初めて闘う敵は弱点に関する情報が開示されていないが、剣を持っている敵に槍をぶつけてみたり、空を飛ぶ敵には弓を当ててみたりと、FEシリーズのお約束が戦闘に役立つのもコラボならでは。敵の弱点を予想し、見事的中してノーダメージでクリア!な瞬間は爽快感MAXだ。

 セッション自体はこちらが入力をする必要がなく、操作キャラが敵の弱点を突く行動を取れば自動でセッションが始まり、プレイヤーは敵が連続攻撃を受ける様を見守るだけで良い。連携時の演出を短くする「クイックセッション」はON/OFFをセッション中に切り替えられるので稼ぎプレイも億劫にならないし、セッション3コンボ目以降は攻撃ごとにお金や素材アイテムが手に入るので、たとえ通常攻撃だけで倒せる敵と相対してもセッションを狙うよう心がければ、財布が薄くなることも武器の練成に躓くこともなくなるだろう。

 この辺りの快適さ、戦闘の手軽さはさすがアトラス製ということで、製作年を考慮すれば『ペルソナ5』級とまでは行かなくとも、シンプルなルールでありながら奥深さを兼ね備えたバランスは素晴らしい。セッションは相手も活用するため、敵の数が多く相手がこちらのパーティーメンバーの弱点を突ける属性攻撃持ちだった場合は、一点してピンチに陥ってしまう。セッションはあくまで一人への追撃となるため、全体攻撃を連発されてパーティーが崩壊、といったことにもならず、回復魔法やアイテムをしっかり準備すれば乗り越えられる難易度になっており、理不尽さも抑えられている。

 また、パーティメンバーそれぞれの個性を発揮する「アドリブパフォーマンス」なる演出が時折発生し、敵の耐性を無視した強力な全体攻撃はその発動が任意ではなくランダムであるため、繰り返しの戦闘のマンネリを軽減してくれるし、世界観や物語のテンションをぶった切って奇抜なムービーが流れる様子は『KING OF PRISM』の方のキンプリを彷彿とさせる。言い忘れていたが、本作のボーカル楽曲を手掛けているのはエイベックスであり、楽曲の質と実在感がヤバいので、きっとサントラが欲しくなる。

天然ガスが出たー!

オフィスを探していたのか……
家を探していた気もする。

 戦闘の爽快感、明るく親しみやすいシナリオ。RPGとして高い水準と遊びやすさを兼ね備えた本作の不満点をあえて挙げるとしたら、「FEの味が薄い」ことだろうか。

戯曲と聞くとノータイムでスタァライトが脳を支配する

 『ファイアーエムブレム』も『女神転生』も、暗く重い展開を有する作風であり、そうしたイメージとの乖離がかなり激しい本作。先程『アイカツ!』の名を挙げたが、ゲームとして最もテンションが近いのは『ペルソナ4』になると実感した。

 明るいシナリオが悪い、などと言うわけではないが、これまでどの『ファイアーエムブレム』を遊んだか、何を期待したかによって、その受け取り方は大きく様変わりするだろう。聞く所によると、FEなら『覚醒』が最も近いとのことで、未プレイのためここでは言及できないものの、間違っても『風花雪月』を求めるような方には本作を薦めるのは躊躇ってしまう。

一応こういう要素がある。

 また、本作の成長要素は、戦闘で経験値を積みレベルアップするという、昔ながらのRPGスタイル。親しみやすく遊ぶことが出来るものの、「芸能力が高い者ほどミラージュマスターとして強い」という前提と、妙に食い合わせが悪く感じてしまった。

 例えば、移植元となるWiiU版の発売が『風花雪月』と発売順が前後していたら、本作はもう少し違った育成風景になっていたのだろうか。ボーカル・ダンス・ヴィジュアルの三つのパラメーターをレッスンで上げていき、オーディションを受けファンを獲得。規定数のファンを稼ぎ見事大会への出場権を獲得したら、いざ本戦へ。強敵と身を削り合う接戦を経て見事優勝し、アイドルの一番星へと駆け上がっていく――。

 話が逸れた

 本作は、アトラス製RPGとしての完成度が高いが故に、ファイアーエムブレムを遊んでいる実感が低い、という感触に陥ってしまっている、と思うのだ。FE歴一年未満のひよっ子が物申すのも本来ならおこがましいが、個性豊かなユニットの生殺与奪をプレイヤーが握っている実感のようなものがないと、私の脳は「ファイアーエムブレムを遊んでいる」と感じないようになってしまっていた。なので本作は「ペルソナのスピンオフタイトルとしてなら最高」という評価に落ち着いている。

余談だが、先日ついに『風花雪月』においてクラシック(HPが0になったユニットが戦死し再出撃不可になる)を解禁&天刻の拍動縛り(巻き戻し不可)で遊んでみたが、一つの操作ミスで妻のドロテアを死なせてしまい、あまりの悲しみにプレイを中断してしまった。

筆者近況

 いざ実際に遊ぶまでは何一つ予想できなかったコラボレーションだったが、その中身は現行機で遊べるRPGタイトルとしての遊びやすさ、親しみやすさに振り切った作品として、万人に薦めやすい仕上がりになっていると感じる。最初はやや難しいと感じた戦闘も、こちらの戦力が拡充するに沿って少しずつ無双できるようになるバランスで好印象に変わっていった。

 仲間思いで優しいキャラクターたち、歌唱力に優れた声優陣によるボーカル楽曲のジャンルの振れ幅など、エンタメ作品としての賑やかさ明快さにもかなり気を配った一作であることが察せられる。むしろプレイを阻害したのは、その人が持つFEや女神転生に対する固定概念かもしれない。そういったものを取り払って、軽い気持ちで遊んでみてほしい。とくに戦闘システムの中毒性に、病みつきになるはずだ。

 じゃ、私はフォドラに帰りますので――。

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