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『The Straylight』最強の偶像は、立ち止まらない。
ドーモ、伝書鳩Pだ。
この文章を書いている人(おれだ)はオタクなので、サブタイトルが主題歌のワンフレーズや作品名そのものだったり、キャラクターの名前だったりする展開に弱い。『仮面ライダークウガ』の最終2話や『進撃の巨人』にそのような回があり、作品全体の中でも“決め所”に用いられる演出なので当然アツいわけである。
で、実装からもうすぐ2年が経とうとするこのタイミングで「The Straylight」である。当然、「最終回か?」と界隈は大騒ぎとなり、とくに担当P諸氏は異様な緊張感を抱え実装日を迎えたことであろう。3年目のシャニマスは、ことG.R.A.D.やシナリオイベントでは「変化」が扱われることが多い。名作『薄桃色にこんがらがって』ではアルストロメリアがアルストロメリアでいられなくなる恐怖を、『many screens』では格好いいと思った落語をただ無邪気に習得し披露した小宮果穂が、「観客の期待に応える」ことを選択し「死神」を再演したことで、イノセンスな在り方から(自分なりに納得したうえで)見られる自分を意識して動くことへの変容を描いた。そんな挑戦的なシナリオが並ぶコンテンツで、ストレイライトにも何かしらの変化が訪れる時はいつかやってくる。
元々、ストレイライトは「爆弾」を抱えたユニットである。黛冬優子や和泉愛依は「装う」ことで初めてステージに立つことのできるアイドルであり、その本性(という言葉は相応しくないのだが)が悪意をもって広められる可能性は0ではない。それに、芹沢あさひはある日突然「アイドル」そのものへ興味を失うことも、ない話ではなかった。まさしく迷光、バラバラの光があちこちに散乱するように、メンバーそれぞれが別々の方向へ走り出す可能性を孕んだまま、三人はストレイライトであり続けた。
そしてまさしく、「The Straylight」はその問題に向き合い、周囲の視線や評価に晒されながら、「それでも」を貫いていく、彼女たちの初志貫徹が描かれたシナリオだった。
1月31日より、ストレイライトの皆さんの物語を描いたシナリオイベント「The Straylight」が始まりますよ~。
— アイドルマスター シャイニーカラーズ公式 (@imassc_official) January 28, 2021
イベントの予告動画をご覧ください♪#シャニマス #idolmaster pic.twitter.com/4roHKdpUE5
追い越したその先で
今回のシナリオでは、少なくとも『Straylight.run()』『ファン感謝祭』各々の『G.R.A.D.』の履修が大前提であるかの如く、これまでの三人が辿った軌跡を引用し、その集大成として用意されたクライマックスのある演出によって極大のエモーションへと昇華する。タイトルもそうなら中身も堂々の最終回、これまで追ってきたPへのご褒美のようなシナリオだ。
冒頭では、彼女たちが成し遂げてきた功績と個々人の成長が示される。音楽番組のゲストに選ばれ、冬優子はかつて「ふゆを保てなくなった」きっかけのカメラマンに認められたことを知る。あさひはPとの出会いのシーンで流れていたCMと同じものを観て、「こんなのだっけ」と呟く。完璧なパフォーマンスで観る者を圧倒し、確かな実力を評価されるに至った、ストレイライト。そのリーダーたる冬優子には、確固たる自信が見て取れた。「アイドルにしては」なんて言わせない、そのプライドこそがストレイライトの信念である。
ユニットの「真ん中」の愛依もまた、少しずつ「強さ」を獲得していることが今回明らかになった。あがり症を隠すためのクールなキャラと、明るくて優しい素の自分。彼女曰く、妹と接する後者を指して「ホントのうちはこっち」と語るのだが、まさにそれが今回のシナリオの主題の一つ。黛冬優子にとって「冬優子」も「ふゆ」もどちらも本物、という在り方に対し、愛依の認識ではステージに立っていない私が本当の私。この対比に向き合うことが、冬優子と愛依、二人の葛藤のタネとなっていく。
とはいえ。音楽番組を経て、まだまだ上には上がいることを知る彼女たち。ストレイライトの物語は負けてからが本番、という伝統芸能みたいなもので、この辺りは安心して読んでいられる。
ミュージカル経験者で結成されたアーティスト。歌唱も踊りもストレイライトの先を往く彼ら(彼女ら?)のパフォーマンスを見て、素直に「負けた」と感じ、特訓に励むことを即座に提案する冬優子リーダー。現状に満足せず、常に上を目指すからこそ「最強」でいられるという、ストレイライトの基本骨子が見えるこのシーン。帰りの車中でのPの賞賛に甘んじず、妥協を許さず完璧を目指す姿勢は、283プロのユニットの中でも突出したハングリー精神と言えるだろう。どこまでも強くて、気高いアイドルたち。
ところが、あさひはミュージカルに興味を示し、オーディションを受けると言って突っ走ってしまう。あさひの猪突猛進にも慣れっこなのか、大きな反応を見せない冬優子。と同時に、愛依は「前ほど緊張しなくなった」ことを冬優子に話すのだが、彼女はあっけらかんと「素の愛依でステージに立てる日も近い」と言う。この間、冬優子リーダーが何を考えていたのかは、後の話数で明らかになる。
本物だけが全てと 決めたくないから
時系列は進んで、愛依は再び「素の自分でステージに立つこと」について冬優子に相談をすることに。
愛依の心配をよそに、冬優子はこのように言ってのける。一度世に出てしまったものは差し戻せない。ならば、段階的に変えていけばいい。愛依の目指すゴールに向けて、彼女なりの戦略もあれば努力することもやぶさかでない。全ては、ストレイライトのために。ここでの、愛依の決断を尊重する姿勢を見せてから最終判断は本人に委ねるあたり、シャニPの話法を意識しているのではないかと思ってしまう。
一方の愛依にとっても、大きな葛藤になったに違いない。ゆくゆくは「ほんとうの自分」でステージに立ちたいと願いつつも、これまでのクールなキャラを期待するクライアントやファンがいることを知ってしまった。それに、Pと一緒に作り上げたクールな愛依をそう簡単に捨て去れないはずだ。
答えは出ないまま、ここでまさかの機転を利かせたシャニP、ストレイライトにモノマネ番組の仕事を取ってくる。しかも、彼女たちの出番は本人登場のやつで、ストレイライトを真似るのはあのミュージカルユニット。楽曲もダンスも模倣された上で、しかもその場で比較され、格上の実力者を越えなければならない。なぜなら彼女たちこそ「本物のストレイライト」だから。冬優子たちの焚き付け方を完璧に熟知したPたん、あまりにもしたたかで好戦的。
ありったけの 光放ちながら 強気で飛び込んでく
いよいよモノマネ番組本番。愛依の問題、あさひのオーディション。悩みは尽きないけれど、ステージの上ではそんなこと関係ない。出せる全部で完璧を見せつける。それがストレイライト。
これ本当に意地悪な話で、ミュージカルユニットは先の音楽番組で「これなら勝てる」と踏んで、ストレイライトのモノマネを選んだ可能性が高い。いわば、ストレイライトは踏み台に選ばれたのだ。あのゴールデンアイドルフェスの時と同じく。
だからこそ、実力でねじ伏せることに意味がある。本物のストレイライトは私たち。それを証明するだけの実力を持った私たちを、「アイドルだから」なんて言わせない。それを体現した三人の実力はやはり本物で、それをわかって本人登場を自ら提案したシャニPの、ストレイライトへの信頼の確かさが際立っていく。「スカッとした」という言葉には、この男の勝利宣言も含まれているに違いない。
目指した場所に向かって 加速していくの
本物を見せつけて勝利したストレイライト。夜、愛依はこれまでのストレイライトのアーカイブを観ていた。冬優子も参加して、過去の振り返りを兼ねた鑑賞会へ。以前のパフォーマンスを観て、そのたびに成長を実感する。それくらいに場数を踏んで、ストレイライトは最高を更新し続けてきた。
そう、愛依にとってこれまでのアイドルとしての「和泉愛依」もまた、かけがえのないものになっていた。嘘か誠かではなく、どっちも「ホントのうち」だから、迷う。冒頭での妹との会話を振り返れば、愛依の中でアイドルがどれほど大きな価値を持っていたかを、この時ようやく気付いたのかもしれない。
その迷いを肯定してあげられるのは、やはり黛冬優子なのだ。見せられない本性も偶像としての自分も、等しく「本物」だと自覚している冬優子だからこそ、愛依の悩みに寄り添うことができる。私たちを想って悩む必要なんてない、決めるのはあんたよ。そんな気持ちが伝わってきた。
冬優子は今回、愛依に対しては一貫して「やりたいようにやれ」と背中を押し続けている。自分のアイドル哲学を押し付けることなく、愛依の思うままに振る舞えばいい。その代わり、ストレイライトを守るためなら何でもする。それがリーダーだから。
ストレイライトがなぜストレイライトたりうるのか。実は、その答えは直前の話数にて、他の誰でもない冬優子の口から語られている。たとえあさひが別の道に興味を抱いても、愛依がどんなキャラクターであっても、一歩ステージに立って「完璧」を披露し続ける限り、私たちはストレイライト。その理念があるからこそ、彼女たちは同じユニットで競い合い、高めあえる。覚悟の女、黛冬優子がいかにユニットの精神的支柱であるかを、本シナリオは執拗に描いていく。
愛依が偶然出会った配信者の青年によって、素の和泉愛依の一端が晒されてしまった。愛依は迷い、後悔しただろう。ユニットに迷惑をかけることは何よりも避けたがるから。だが、冬優子もあさひも動じたりなどしない。「完璧である」ことを目指す限り、彼女たちがストレイライト。愛依のキャラクターがどうであれ、その一点がブレない限りは最強の三人でいられる。
そしてようやく、愛依は悟りに至る。あさひはミュージカルでは「役」を演じることを求められても、ステージの上では「わたし」と言われたから。冬優子も、全身全霊で「ふゆ」として最高のパフォーマンスを見せるだろう。それでいいのだ。どちらかが偽物で、一方が本物というわけじゃない。愛依自身が本物と思い、そうありたいと願った方が、アイドル・和泉愛依の「完璧」なのだから。迷光は、もう迷わない。
目指すものがあるから 心に迷いなんてないの
どんな試練があっても Going my ray
まだ上昇中の Gradation days
クライマックス。3年目のシャニマスを象徴する名曲『シャイノグラフィ』に乗せて、彼女たちとの出会いを振り返る。シャニマスくんさぁ……こういうの本当……。
「ただの少女」だった三人は、「アイドル」になった。そして、もう迷いはしない。虚実の狭間で揺れ動いていた和泉愛依の意識から「虚」が消えた時、三人はより「完璧」に近づいた。そしてまた、完璧のさらにその先を目指して、走り出す。
君が見るこの背中に 翼が見えるように
この時、シャニPにはきっと見えていたに違いない。走り出した迷光の背中に生えた、大きくて立派な翼。妥協しない、常に前を見て進み続ける、最強で完璧なアイドルの、羽ばたく姿が。
彼女たちの名は、ストレイライト。最強で最高の、「ストレイライト」だ。
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