黙々と作り続けた末に誕生したママのスコーン「Bakeshop Hippo」
「毎日、食べてもらいたいんです。」 そう話すのは伊藤有香さん。
スコーンを中心とした焼き菓子を販売する Bakeshop Hippo の 店主だ。
自身の手で作る焼き菓子へのこだわりと、会社員を辞めてひとつの店舗を開業する までのヒストリーを皆さんにお届けしたい。
JR 仙台駅西口を北に歩いて 15 分程の住宅街に Bakeshop Hippo がある。
広さは 8 畳程の スペース。
水回りや小さめの業務用オーブンといった最低限の設備のみを置いた伊藤さんの仕事場だ。
一番のおすすめで尚且つ製作の際にこだわったのはシンプルなプレーンスコーン。
実際に仕込みから焼き上がりまでの作業を見せてもらった。
独自のレシピでの配合を基に生地 を製作。
固まり始めたら棒で伸ばし、直径 5cm ほどの丸い型で形をくり抜く。
焼成の前には焼き色付けのために融かした卵を塗る工程は欠かせない。
約 20 分オーブンの中に入れ、 じっくり焼いてスコーンを膨らませていく。これで完成。
きれいな焼き色で仕上がっている。
オーブンから出したスコーンはバターの香りが室内を包む。
一般的なプレーンスコーンは作る人によって材料や配合が異なるそうだ。
伊藤さんの考 案したレシピは出身地である岩手県産の南部小麦を使用。
しっとりとした触感にするため、 生クリームを加えるとのこと。
それに合わせて甘さと僅かなしょっぱさを出すために塩を 少量配合する。
これが最初に完成した記念すべき Hippo のスコーンであり、自身が一番時間をかけた力作となった。
伊藤さんは短大卒業後、栄養士となり保育園に勤務。
仙台市へ移住したことでマイカーを 手にしたりと、仕事以外でも生活環境はがらりと変わった。
一緒に働いていたパートの方が、自他共に認める粉ものマニア。栃木県那須塩原市に本店 を構える 1988 CAFÉ SHOZO のスコーンを強く推されたという。
そのことを思い出し、すぐに SHOZO へ。
その日に購入して持ち帰ったスコーンを頬張り、美味しさに感動した。
翌日、補充をしに再度足を運ぶほど、自身の好みだった。
しかし、仙台からではあまりにも遠い...。(那須塩原市)
そこで伊藤さんは「自分で美味しいスコーンを作ろう!」と考え、レシピを考 案し始めた。
自身の創作意欲に火が付き、味へのこだわりは徐々に強くなっていった。
「お店を開きたい」そう考え出したのは突然のことだ。
だが、悩みで頭がいっぱいだった という。
「学生時代に飲食店のバイトをしたくらいなのに経営できるのか...。育児や家事もあるのに仕事とのバランスを保っていける...?私の作ったスコーンがお客さんに受け入れてもらえるのかな...」とにかく不安が尽きなかった。
しかし、夫や母の後押しもあり、開業を決断した。
その後は物件の選定と契約からリフォームやメニュー作りなど、多岐にわたって準備を進めた。
実は当初の計画ではカフェの予定であった。
しかし、物件の広さを考慮し、テイクアウト専門店として再度構想を練ることに決めた。
飲食店の経営者にノウハウを教えてもらうなど、あっという間に時間は過ぎていった。
2020 年 3 月末に当 時の保育園を退職し、10 年間の栄養士生活にピリオドを打った。
そして同年 5 月 6 日。ついお店をオープンした。
世間では、新型コロナウイルスの流行 で緊急事態宣言が発令されたこともあり、厳しい状況が続いていたが、幸いテイクアウ ト専門店であったため、飲食店に比べ厳しいダメージはなかったそうだ。
開店してからはTV や雑誌の取材や口コミもあり、行列が絶えない日々が続いた。
しかし、解決しなければならないことも徐々に明るみになった。
まず、並んでいるお客さん全員にスコーンが渡り切らない。
製造数を増やすことも考えたが、1 人で作るには数にも限界がある...。
せっかく並んでもらったのに、買えなかったお客さんに対しての罪悪感に苛まれる日々だった。
そして、もうひとつは家庭でのこと。
お店でのタスクに追われ、家族との時間が限りなく少なくなっていた。Hippo には伊藤さんしかスタッフはいない。
どうしても家庭 のことは後手に回る。
製造だけでなく、接客も1人。
営業終了後も仕込み作業、ある時は試作にも時間を割かなければならなかった。
段々と積み重ねた疲労は溜まっていく一方で体 調を崩すこともあり、当初思い描いていたようにはいかなかったそうだ。
そこでセルフマネ ジメントの難しさを再度痛感。
「改善が必要」と思い、2年目の途中からは状況を見て一部 商品にルールを設定した。
「あるものを好きなだけ買っていってもらいたかった...。」それが 伊藤さんの本心であった。
しかし、このままでは並んだのに結局買えないお客さんは増えて いくばかり。長期間悩み続けた末、個数制限を導入。
「多くのお客さんの手に渡るように。」 と伊藤さんの祈りも込めた決断を下した。
家庭のことでも変化が生まれた。
それは「日曜日は完全に休み」にすること。
2 人のお子 さんはまだ幼い。
どうしても両親の助けであったり、愛情が必要な時期だ。
開業してからは、 とにかく数多くのタスクをこなす必要がある。
「一緒にどこか買い物に行く。一緒ご飯を食 べる」
そんなごく普通の家庭で見られる日常を送ることすら、開業当初は困難に。お店を 持って好きに切り盛りしていく自由を手に入れた半面、当然のように送っていた日常を失いかけた。
その経緯があったからこそ、実感したものが「家族への愛」だった。
「ママのスコーンが一番!」4 歳の息子が笑顔で話す。
皆さんも馴染みのある言葉ではありませんか。
好きな食べ物は各々異なりますが、母が 作ってくれた「慣れ親しんだ味が好きだ。」と思う方が多数派ではないでしょうか。
今や Hippo は行列が絶えず続く人気店。仕事の稼働日の関係上、なかなかお店へ伺うことが出来ない方もいるはず。
常連さんでも「伊藤さんのことをよく知らない。」という方も多いかも しれません。
伊藤さんの人柄と焼き菓子に込める強い気持ち。それがこの記事を通して伝われば幸いです。
「お店を開く」というとても勇気を要した決断をしてから、あっという間に過ぎ去った数年。今年の 5 月で 3 年目の開業日を迎えます。
今後はレシピ本の製作やお菓子教室などを 構想中とのこと。
それを耳にした時、「お客さん達との関係性をより築いていきたい」とい う伊藤さんの本心が私には見えた気がします。
「毎日食べてもらいたい」その思いから Hippo の焼き菓子は生まれました。美味しさを 追求し黙々と作り続けたことで完成した、たったひとつのスコーンから紡がれた物語は次 の章に進みます。
店舗紹介
Bakeshop Hippo
address 宮城県仙台市青葉区錦町2-3-44
営業日 不定休(営業日はこちらより)
営業時間 11:00~(売り切れ次第終了)
instagram https://www.instagram.com/bakeshop_hippo/
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