【ショートストーリー】必ず使い切ること
「そんなに言うのなら毎日一万円渡すから好きに使いなさい。ただし必ず使い切ること。これが条件だ」
ぼくが、あまりにもゲームが欲しい、とか、推しのアルバムの初回生産限定版が欲しいとか言っていたら、父親にキレられてしまった。でも、毎日一万円をくれるというのだから、こっちとしてはありがたい話だ。きっと、いつかは使い切ることができなくなって、音をあげると、思っているのだろうが、そう簡単にはいかないのだ。
最初の二週間ぐらいは、まさに夢のような毎日だった。一万円を使い切るなんて簡単にできた。
欲しいものをあらかた手に入れてしまうと、今度は通販サイトで、ポチりまくった。特に欲しいものではなくとも、使い切らなければ一万円の支給が止まってしまうのだから、もう、なんとなく目にとまったから、というような理由で買った。
そのうちに、また本当に欲しいものができる。だから。ぼくが音をあげることはなかった。
父親にとっては、とんだ番狂わせである。ただ、彼もムキになる質で、こちらが条件をクリアしている限りは、絶対に約束を果たすのだった。
それが25年続いたある日、父が事故に遭い亡くなった。
ボクは、これで終わりになるのだろうと思った。ところが遺言に、「継続する」と明記してあり、その費用としてかなりの額の貯金まで準備してあった。
記者は「ほお」と相づちをうった。
「これが、私が毎日一万円つづ、寄付を続けている理由です」
私は締めくくった。
「意外なきっかけだったんですね。ところで……」
記者が水を向けてくる。
「お父様が、残した貯金はまだ残っているのですか?」
「もう、なくなりました。いまはもう自腹です。でも父には感謝していますよ」
「あなたはこれを息子さんに引き継ぎますか」
「どうだろう。息子はぼくとちがって、お金のありがたみが分かっているようですから」
(終)