【短編小説】それでも動いている
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薄暗い地下牢。男が投獄されていた。かつては整えられていた自慢の髭も、手入れができず、疲れ果てた印象を与えているだけだ。
彼はいま、壁に釘を使って文字を刻んでいた。
「それでも動く」
天動説を唱える主流派の怒りを買い、異端者として宗教裁判にかけられ、その結果このジメジメした場所に閉じ込められることになる、きっかけとなった言葉。
「ガリレオ・ガリレイ」
呼びかける声に振り向くと、男が立っていた。
鉄格子を通して見る男の姿には覚えがある。名前は忘れたが、カトリック教会の、相