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鎌倉ロケハンぶらり旅 -長谷の裏、川端康成の散歩道-

みなさんは小説を書く時にロケハンはしますか?

私は映画・映像脚本を書くのによくロケハンをしていたため、小説を書く時もなるべく行けたら良いなぁと思っています。実際に行くことで、その場の空気感や見知らぬ場所を見つけたり、触発されて閃きが起こったり。
また、実写化を見据えた場合、現実的に撮れないカットやシーンの確認作業にもなるのでとても参考になります。(逆に現実に引っ張られすぎてつまらなくなる恐れもあるので注意が必要ですが…(経験談))

今日は、今年書き上げた「春、ふたりのソナタ」を書くために鎌倉の長谷へぶらぶらロケハンに行った時のことを書きます。

小説の主な舞台は鎌倉の小町にある女子校ですが、4話目に鎌倉文学を学ぶためのフィールドワークの授業がありまして、その舞台を長谷としました。

主に出したかったのは長谷にある鎌倉文学館。
一度も行ったことがなかったので、よし、これを機に行ってみるかと息巻いていたのですが、なんと工事のため長期休業中とのこと……。
仕方ないのでネット上にある動画やブログなど調べまくって書くことにしましたが、やはり雰囲気だけでも知りたいなぁ…と思い、無駄足になるかもしれまいが……と、結局行くことにしました。

車に乗って134号線を走っていきます。どんより曇りの空でしたが、海沿いを走るのはやはり気持ちが良かったです。遠目には豆粒大のサーファーたちがちらほら見えました。

長谷の駐車場に車を停めて
まず向かったのは吉屋信子記念館。

お寺のような門構え

谷戸を背負って立つ、荘厳な空気を放つお寺のようなお屋敷でした。
こちらも残念ながら公開の時期ではなかったため、中は入れませんでしたが、雰囲気は以下のような感じです。

 文学館を出て、住宅街を歩いて5分ほど。年季の入った瓦屋根の長い塀の先に、お寺のような門構えの吉屋信子記念館、旧吉屋信子邸が現れた。
「ひろ~い!」
 やまちゃんが言う通り、門を潜ると立派な和風庭園が広がっていた。平屋建ての母屋まで新緑で包まれた長い石畳を進んでいく。母屋は数寄屋作りという昔の茶室を元にされた建築様式らしく、豪華絢爛とは対照的に質素で無駄を削ぎ落としたわびさびある作りである。応接間の大きな窓からは、庭の景色が借景として楽しめ、書斎には作りつけの立派な机があり、目の前の小窓からも庭の緑を望むことができる。

「春、ふたりのソナタ」4話

こんなお屋敷で執筆活動できるなんてうらやましい。

辺りは観光地からほど遠く、閑静な高級住宅地のようでした。品の良い邸宅がたくさんで、落ち着いた街並み。

ガーデニングの季節の花々が素敵

そこから5分ほど歩くと見えてくるのが文学館へ通ずる木のトンネルです。

暗くなってるところがトンネルの入り口

一歩足を踏み入れるとまるで異世界のように空気感が変わりました。
これにはびっくり。異世界というより、その時代、明治・大正の空気をそのまま纏っているような気配を感じました。源氏も関係ある場所なので、もしかしたら鎌倉時代からかも。

薄暗く涼しい石畳の坂道。セミの鳴き声に包まれる。
入り口。ここまでしか今は入れませんでした。

 招鶴洞(しょうかくどう)というこのトンネルは、源頼朝が鶴を放ったという故事から名付けられたそうだ。
 ここだけ当時から時が止まったままのような、シン……とした空気が流れていた。どこか異世界へ連れて行かれる様な気持ちでそのトンネルを潜ると、緑の谷戸を背負った美しい洋館が現れた。
 ここは鎌倉ゆかりの文学者たちの博物館、鎌倉文学館だ。

「春、ふたりのソナタ」4話

ロケハンをした時に感じた気持ちはそのまま小説に描写しました。
これが書けただけでも行ってよかったなぁと思いました。

2027年3月に工事が明けて見れるらしいので、またリベンジしに行きます。


次に向かったのは甘縄神社ですが、
その手前にかわいい洋館が立っていました。

北橋というのは最近できたお店の名前。この奥に和風の母屋が連なっていました。

ここは加賀屋邸と言うらしいですが、当時光明寺を仮校舎にしていた鎌倉アカデミアの先生や生徒たちも出入りしていたとか。鎌倉の文化人たちの交流拠点の一つになっていたのかもしれません。
つい最近、「北橋」という品の良いお蕎麦やさんとカフェのお店に生まれ変わりました。
カフェラテを飲みに行きましたが、おいしかったです。

甘縄神社

この神社は知らなかったのですが、地元の人から大事にされている神社だそうです。そして、パワースポットでもあります。

登ると海が見える
拝殿
その裏にある本殿

本殿を観たときに「あ、ここはすごいなぁ」と感じました。私自身、霊感はないのですが、ここだけ凄みというか、ピンッと張り詰めた空気を感じました。

これまたすごいな、と思ったのが甘縄神社を降りてすぐ横に、川端康成の邸宅があること。

川端康成邸。公開されておらず、ひっそりとしています。

邸宅の右手が甘縄神社で、小説「山の音」に登場する神社として描かれています。
地響きのような死期を知らせる音が山から聞こえてくる、なんて本当に聞こえてきそうな湿っていて重さのある神聖な空気感の土地だと感じました。


さて、少し休憩しようとカフェを探したところ、
ここから歩いて本当にすぐのところに「喫茶あまから」という喫茶店がありました。かわいらしい見た目と、窓から見える赤いソファに心惹かれて入ってみることに。

この水出しコーヒーのおいしいこと。喉が渇いていたので尚更。
すっと飲みやすく、品のある炭のような苦味が口の中に広がり、店主のこだわりを確かに感じました。チーズケーキも柔らかくておいしい。

閉店間際に入ったので客は私しかおらず、
女性の店長さんと少しお話することができました。
ここは長谷の裏と呼ばれていることとか、犬を飼っている人が多いこととか、この土地の空気が気に入って喫茶店を作ったこととか。
空気、わかります。
私もはじめて来て、歩いてみて、観光客のいる長谷の表とは違う、静謐で神秘的な空気がここにはある気がしました。創作する・小説を書く土地として適している、だから川端康成や吉屋信子はこの地を選んだんだ。
その空気を作っているのはなんとなく甘縄神社なんじゃないか、と感じました。

店主さんにここらで海まで歩くのに良い散歩道はありますか?
と聞くと、うってつけの道がありますよ。と。
それが「川端康成の散歩道」と呼ばれる道でした。

もうこの喫茶店を出て、川端邸から海まで続く細い道がずっとそうなんですよ、と。私はそんな事前情報は知らなかったんですが、なんとなく良い道があるような気がして。聞いてみて本当にあるんだ、と自分で少し驚きました。

ここからは川端康成の気持ちになって、
写真に映る散歩道を辿ってみてください。

くねくねの排水溝
お花の小道
用水路の橋を渡って
苔を見ながら小さな石橋を歩くともう見えてくる
海にでました
由比浜への入り口
漁師さんたちの船
由比浜 薄曇りの空

 やまちゃんは走り出して「海に入ろうぜ~」とローファーと靴下を脱いで裸足になる。月代さんもそれに倣って、裸足になってやまちゃんの後に付いていく。みんな、まだ冷たい春の海へ入っていく。飛沫を浴びて、スカートをたくし上げ、私の友人たちと楽しそうにはしゃぐ月代さんを、私は一人浜辺に座って見ていた。なんとなく、その光景を見ていたかった。

「春、ふたりのソナタ」4話
地元の方は慣れたように材木をぶん投げて集めてました
わらび餅のようなくらげ

気持ちのいい散歩道でした。
川端康成は毎日ここを歩きながら、小説の構想を練ったのでしょうね。

この時は私も創作大賞の締切に追われて心が焦って仕方がなかった時期でしたが、ここに来られたことで、心が落ち着いたのを覚えています。

以上、鎌倉の文豪たちに思いを馳せながら歩く、長谷のぶらり旅でした。

思った以上に長くなりましたが
最後までお付き合いいただいた方ありがとうございました。

「春、ふたりのソナタ」も気になった方は読んでみてくださいね。
ではでは。


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