ジャスミン
玄関先に設けられた背丈程はある観音開きのアイアン製フェンス
外壁を広範囲に覆う蔦の葉が不安定な夕焼けに照らされている。
いま、家全体が幻のような薄紅色に染まる。
かつての住人は
愛おし過ぎた記憶をリピートし続け
悶え苦しみながら
震えるペン先を走らせる詩人だった。
廃墟となったこの家を拝借したのさ。
片手で握れる程の小さな鳥が蔦をついばむ
羽色は目を眩ませる白
警戒を怠らない小さな瞳
薄紅色に白、クリアーなブルー
その光景に映える気味の悪い君
いつも腐った本音を誤魔化して
正当化して堂々と生きている君
上辺を滑るだけの自己主張の塊
一輪の花を君に贈りたい
あそこにある藍色に光る一輪挿しに丁度いい
ジャスミンの花なんてどうだろう
気に入ってくれるかな
好き嫌いの激しい君
外が騒々しくなって来たね
永劫変わりはしない事は承知の上
黒幕が失せる時代は来ないだろう
それでも
君と違って僕は白がとても好きでね
理解してくれとは言わないよ
空虚な空間に
欲望に正直な若者と
姑息な手段で欲望を満たす壮年
そして
今しか居ない
強固で醜い囚われの君