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声の還る場所

アナタの声は届かない

この地には二度と響いてこない

唯一手元に遺った録音の記録を再生して

静かに心を寄せてはみても

懐かしい声がしているようで

私が求める声じゃない

嘘をつく時ほんの少しだけ

眉を細めて右目を擦っている

珈琲はいつもブラックで

気まぐれでこっそり砂糖を足している

そんな姿は何処にもない

冬を忘れさせるような

温かな風が頬を撫で

桜とは言わないまでも

梅の花や菜の花が顔を出し

この地に色が帰ってきても

今日も今日とてアナタの姿は何処にもない

私の声が聴こえるのなら

アナタに届くというのなら

一声でいいからコトバを返して

此処にいるよと私に囁いて

ペンが握れるというのなら

一言でも構わない

そこに居たんだと私に教えて

私だけが分かる

些細な合図で構わない

驚いたりしないから

怖がったりしないから

忘れたりしないから

したくないから

くしゃみひとつで構わない

欠伸ひとつで構わない

そんな願いすら叶わない

木陰で休んで3つ数えても

青空の下を駆けてみても

ひとり静かに頬を濡らしても

今日一日を笑顔で終えても

今日という日にアナタは居ない

空には家がありますか

地上よりも有意義な

苦悩のない穏やかな土地ですか

雲の上はふかふかですか

アナタの布団より心地よいですか

アナタの好きなパンの香りは

雲の上にも感じますか

美味しいパンは食べられていますか

赤福は売ってますか

怒られながらもまだ

煙草に火をつけていますか

太陽は優しいですか

眩しいですか

月は穏やかですか

星には手が届きますか

私にはまだ

その地へ昇る階段が

見えてこないから

暫く会いには行けません

私の声は聴こえますか

アナタと過ごした日々より

楽しそうですか

あの頃よりも1つくらいは階段を上って

大人になれましたか

アナタが見下ろすこの土地で

馴染みの深いこの土地で

アナタの“スキ”を目にしては

密かにアナタを想っています

零した涙は雨で洗い

泣き声は雨音で誤魔化して

青い空をみて力を貰いながら

ズルい空を見上げながら

アナタの居ないこの土地で

もう少し悪足掻きを続けます

神様がもし隣にいるなら

『遠慮を覚えろ』と叱って欲しい

水たまりに空が映る

足元に光るアナタの世界

どれだけ鮮明に映っていても

そこにアナタの姿はない

七夕の曲を四月に聴いた

頭に残って離れていかない

アナタの曲を今年も聴くよ

“一年に一度で構わないから

約束の夜空でアナタと逢いたい”

声だけでも届けば嬉しい

声だけでも先に

アナタが月の元に居るのなら

今すぐにでも届けたい

私の声は月に還る

(2022/03/15)





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