【アニメ感想】『葬送のフリーレン』 ~強いて言うなら人生哲学ヒーリングアニメ~
『葬送のフリーレン』というアニメをアマプラで観た。
現時点でシーズン1の28話まであり、それをすべて観た。
素晴らしすぎてファンになったので、記事にすることにした。
製作者の方々にありがとうと言いたくなったのは、『進撃の巨人』以来だ。
何が素晴らしいのか
①暖かな日常
これはいわゆる王道RPG物語ではない。主人公(フリーレン)が魔王を倒す物語ではなく、主人公が魔王を倒した後の物語である。
フリーレンは、エルフであり、長寿である。すでに1000年以上生きているが、まだまだ生きるものと思われる。彼女が魔王討伐をしたことは確かに平和をもたらす大きな功績だった。もちろんその大冒険は彼女のかつての仲間たち(ヒンメル、アイゼン、ハイター)にとっては、人生最大のイベントだった。しかし、当の彼女にとってみれば、魔王討伐の10年の冒険は、永久にも思われる人生のほんの些細な出来事なのだ。
人間の人生にはクライマックスがある。普通、アニメは(というか物語というものは)そのクライマックスを描こうとする。炭次郎が鬼の親玉を倒すように、ルフィが海賊王になるように。
夢を追う非日常があってこそ物語は成立する、と思われている。
しかし、本作は見事にその固定概念を覆した。『葬送のフリーレン』は、かつて魔王を一緒に倒した仲間(勇者:ヒンメル)との死別から始まる。
魔王も、勇者も居ない世界。クライマックスが燃え尽き、終わってしまった世界からこの作品は幕を開ける。
かつて大冒険をともにしたヒンメルは寿命を迎え、さらには、ハイターも看取る。アイゼンはヨボヨボになっておりすでに隠居生活。自分だけが歳をとらずに生き続けている状況である。
そう、この物語は、フリーレンの日常を描こうとしている。何千年も生きる彼女の孤独な日常にスポットをあてて物語を立ち上げたのだ。魔王もいない、かつての仲間もいない、仰々しい大義名分もない、あるのは孤独で永遠にも思われる日常である。しかし、フリーレンはそこから新しい旅の芽を見つけようとする。
それが、人間というものをもっと知りたいという願い、魔法というものをもっと知りたいという願い、である。
主人公は、義務を背負っていない。世界に対する興味を持っているに過ぎない。これから始まる旅は、義務や要請によるものではない。探求である。
フリーレンは、ハイターの弟子フェルン、アイゼンの弟子シュタルクと旅をすることになるが、このお連れの2人にしても大きな目的、というものはない。義務感や責任感で旅をしているのではない。なぜなら魔王はすでにいなくて世界は平和なのだから。
このアニメの主人公パーティは、ある意味、無目的に興味本位で自由な旅をする。そう、それはまさに人生の旅路のような旅である。フリークエスト、オープンワールド的な世界観なのである。
だから、この物語は観ていて安心する。ほっこりする。フリーレンたちは、何にも駆り立てられていない。淡々と仲睦まじく旅をする。食事をし、宿を探し、買い物をし、病気を治し、村人と出会い、人助けをし、たまにケンカと仲直りをして、また、別れも経験して、道を行く。
この日常感がたまらない。アニメを流せば、彼女たちがまさに今この瞬間も生きているような感じがする。私たちと同じように普通に何気ない日常を過ごしている気がする。なんというか、会いに行く、みたいな感覚になるのだ。
それを支えるのは、物語の骨格だけでない。しぐさや言葉の細かい人間描写が精緻でハイ・クオリティなためだろうと思う。本当に観ていて心地が良い。
②優しさと美しさと悲しさ
あえていうならこの3種の感情を挙げる。
まず、なにより優しいのである。主人公たちも出会う人々もみな優しい。風景も音楽も何もかも優しい。怖いことや理不尽なことは並みの人生程度には起きるけれども、過剰表現が全くない。実によい。クラシックを聞いているような感じ、ゲームでいえば牧場物語(ちょっと古いか…)をやっているような感じである。
それから美しい。このアニメ、女性キャラクターがみんな美しい。それから音楽。ケルトっぽくて癒される。どうやら今ではもう珍しいほどの昔の楽器を用いているんだとか。花を扱う魔法やシーンも多く、うっとりする。あとは、声優さん。特にフリーレンの声優さんの声は、最高である。落ち着きと艶と凛とした雰囲気と優しさが混在しており、本当にエルフがいたらこんな感じ!という具合で素晴らしい。
最後に悲しい…フリーレンの孤独がいたるところににじみ出る。フリーレンは、たくさんの出会いと別れを経験する。彼女にとっては、赤子から80歳までの人間の一生は、我々でいう小学校の6年間にも満たない。いつかは必ず自分が見送り、別れを言う立場になる。そしてまた独りになる。そういう諦めを心の底で常に感じながら、彼女は生きている。見るもの、言うこと、すべてがそのフィルターを通される。人間とは別の次元にいながら、人間と行動を共にする。彼女がふとした瞬間にみせる切ない表情や悲しみの翳が、作品に言い知れぬ奥深さを与えている。
③爽快さもある
フリーレンは、かつて魔王を倒した最強パーティの魔法使いである。したがって強い。ハチャメチャに強い。力を誇示しないし、力に興味もないのだが、たまーに訪れる「いざという瞬間」には、きちんと実力を示す。
これがいわゆるカタルシスに繋がって、冒険譚としてのクラシカルな一面を支えている。なろう系というやつ?に近い面白さなのかもしれない。
で、何がいいかというとフリーレンは、追い込まれない。無理をしない。彼女は大義名分を掲げて冒険をしているわけではないから、息を切らしてボロボロになりながら戦うということをしない。基本は、めんどくさがる。それがリアリティを壊しておらずとてもよい。繰り返すが、この物語はクライマックスではなく、その後の静かな人生を描いているのだ。
最後に
私はこのアニメを観た時、感覚的に平原綾香のジュピターを連想した。壮大であり、永久を感じさせ、美しく、優しい。琴線に触れる精緻な旋律、だからこそ訪れる終わりを予感させる悲しみ。。。宇宙の永久と人生の儚さが互いに感知され、それが同一のような気がしてくる混乱と、それに身を任せるしかないという安堵。
そういう感覚を私はこのアニメに感じた。
この先どうなるのかは、原作をよんでいないので知らない。しかし、次がどうであろうとも、とにかくこのシーズンを観て私は率直に素晴らしいと感じたし、それを伝えたいと思った。それで十分である。すべての瞬間に完璧というわけにはいかない。それはアニメも人生も同じだ。だから、素晴らしい瞬間があった時には、忘れずに思い出に残すことが大事なのだと思う。本作はそれにふさわしい見事な物語だった。
シーズン2が製作決定だそうだ。楽しみに待っておこう。