父のこと④

父が亡くなった実感が湧かない。

温かい体が冷たくなっていく姿を見ていた。

父ではない何かの物の様に感じた。

正直、安堵した。
倒れて入院してからの父は日々苦しそうで、治療内容もどんどん増えて衰弱していった。
意識も朦朧としていたが、苦しそうな表情だけは記憶に残った。
あぁ、やっと苦しくなくなったんだ。と思った。
以前職場で私が病気になった時に、園長先生が
しんどかったね。自分の身体のしんどさは、誰も代われない。親や兄弟でも分かることはできないんだから自分で守らないとだめだよ。と言われたことを思い出した。

父にとって闘病生活はとても苦しかっただろう。
1日の24時間がどれほど長かったのだろうか。
私はそれを想像することしかできない。
父と面会をしている時、父の姿を見ていると可哀想で、涙が出た。心が苦しかった。
だけれど私は一日を過ごし、ご飯も食べられるし眠ることもできる。父の苦しみは父だけのものだ。

父との思い出はほとんど無いし、嫌なことの方が多いのに、何故か思い出す事は僅かなかかわりの中で楽しかったことばかりだった。

父と最後に会った時に、
昔、鷲羽山の夕日が沈むのが綺麗で涙が出たんだと言っていたのをふと思い出した。
初めて父は私と似ていると思った。

先生が、想像するしか無いことは自分にとって良いように想像できるようになろうね。と言ってた。

父は何を考え、何が好きで、何に感動し、何を大切にしていたのだろうか。

私は今もそれを何も知らないままだ。

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